リキクロック ─ 日本モダンデザインの巨匠が遺した究極の掛時計

リキクロックは、日本のインダストリアルデザインの礎を築いた渡辺力(わたなべ りき、1911-2013)が、91歳にして手掛けた掛時計である。2003年、富山県高岡市に拠点を置く時計メーカー・タカタレムノスより発表された本作は、デザイナーの半世紀以上にわたる探求の集大成として、時計デザインの本質を追求した傑作として高く評価されている。

渡辺力は、戦後日本のデザイン史において欠くことのできない存在である。東京高等工芸学校(現・千葉大学工学部)木材工芸科を卒業後、ブルーノ・タウトのもとで研鑽を積み、1949年に渡辺力デザイン事務所を設立。以来、家具、インテリア、工業製品に至るまで、日本のモダンデザインを牽引し続けた。リキクロックは、その永年の功績を象徴する作品として、現代のデザイン史に燦然と輝く。

デザインコンセプト

リキクロックの設計思想は、「視認性」と「普遍性」という二つの理念に集約される。渡辺力は、時計の本質的機能である「時を読む」という行為に立ち返り、あらゆる装飾を排した極めて明快なダイヤルデザインを追求した。

文字盤には、渡辺が独自に設計したオリジナルの書体が採用されている。この書体は、遠方からでも瞬時に判読できる視認性を確保しながら、数字そのものが持つ造形的な美しさを兼ね備えている。とりわけ特徴的なのは、「4」の表記にローマ数字で伝統的に用いられる「IIII」ではなく、アラビア数字を採用している点である。これは、実用性と現代性を重視した渡辺の明確な意志の表れといえよう。

フレームには、時計本体の存在感を主張しすぎることなく、壁面との調和を図るため、極めて細いプライウッドのリングが採用されている。この繊細なフレームワークは、渡辺が家具デザインで培った木材加工の知見が遺憾なく発揮されたものであり、日本の職人技術の精緻さを世界に示している。

素材と製造

リキクロックは、富山県高岡市に本社を構えるタカタレムノスによって製造されている。高岡は江戸時代より続く鋳物の街として知られ、その精密なものづくりの伝統は、現代のプロダクトデザインにも脈々と受け継がれている。

フレームには良質なプライウッド(積層合板)が用いられ、その表面にはウォールナットやメープルなどの天然木突板が丁寧に貼り付けられている。この製法により、無垢材では実現困難な薄さと強度を両立させながら、天然木ならではの温かみと質感を保持することに成功している。

ムーブメントには、スイープセコンド(連続秒針)を採用したモデルとステップセコンドを採用したモデルが用意されており、使用環境や好みに応じた選択が可能である。いずれも高精度なクオーツ式を採用し、日常使用における信頼性を確保している。

サイズバリエーション

リキクロックは、設置空間の規模や用途に応じて複数のサイズ展開がなされている。直径203mmの「S」サイズから、254mmの「M」サイズ、305mmの「L」サイズ、そして365mmの「XL」サイズまで、住空間から公共空間まで幅広いシーンでの使用を想定した構成となっている。

また、本シリーズの成功を受けて派生モデルも展開されており、アルミニウムフレームを採用した「リキアルミニウムクロック」、ステンレスフレームの「リキスチールクロック」、そして小型の「リキクロック ミニ」など、渡辺力のデザイン哲学を継承しながら多様なニーズに応えるラインナップが揃っている。

デザイナー・渡辺力について

渡辺力(1911-2013)は、日本のインダストリアルデザインの草創期から第一線で活躍し続けた巨匠である。1911年、東京に生まれ、1936年に東京高等工芸学校木材工芸科を卒業。在学中よりドイツから亡命した建築家ブルーノ・タウトに師事し、モダニズムの精神と日本の伝統工芸を融合させる視座を獲得した。

1949年に独立し渡辺力デザイン事務所を設立。1950年代には、紐を編み込んだ座面が特徴的な「ヒモイス」を発表し、日本人デザイナーとして初めてニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに作品が収蔵されるという栄誉に浴した。以降も、トリイスツール、ポール時計、日比谷第一生命ビルの家具など、多岐にわたる分野で先駆的な作品を発表し続けた。

2003年、91歳にしてリキクロックを発表。その後も101歳で逝去するまで現役デザイナーとして創作活動を続け、日本のデザイン界に多大な影響を与えた。その功績により、紫綬褒章、勲四等旭日小綬章、毎日デザイン賞特別賞など、数多くの栄誉を受けている。

評価と受賞

リキクロックは、発表以来、国内外で高い評価を獲得してきた。2004年にはグッドデザイン賞を受賞し、その優れたデザイン性と実用性が公式に認められた。さらに2007年には、同賞のロングライフデザイン賞を受賞。これは、時代を超えて愛され続けるデザインに与えられる栄誉であり、リキクロックが一過性の流行に左右されない普遍的価値を持つことを証明している。

また、リキクロックは世界各国のデザインミュージアムやセレクトショップにおいても取り扱われており、日本発のプロダクトデザインを代表する存在として国際的な認知を得ている。シンプルでありながら細部まで計算し尽くされたデザインは、バウハウスの理念に通じる機能美を体現するものとして、デザイン専門家からも高く評価されている。

リキクロックの今日的意義

スマートフォンやデジタルデバイスが時刻表示の主役となった現代においても、リキクロックは壁掛け時計としての存在意義を問い直す作品として注目を集めている。渡辺力は、時計を単なる時刻表示装置としてではなく、空間を構成するインテリアエレメントとして捉え、「見やすさ」と「美しさ」という二つの価値を高次元で両立させた。

本作は、大量生産・大量消費の時代にあって、長く使い続けられる普遍的なデザインの重要性を示唆している。渡辺力が生涯をかけて追求した「日本らしさ」と「モダニズム」の融合は、リキクロックにおいて一つの完成形を見たといえよう。その精神は、タカタレムノスの職人たちによって今日も継承され、世界中の家庭やオフィスの壁面を静謐に彩り続けている。

基本情報

製品名 リキクロック(Riki Clock)
デザイナー 渡辺力(Riki Watanabe)
発表年 2003年
メーカー タカタレムノス(Lemnos Inc.)
製造国 日本(富山県高岡市)
素材 プライウッド、天然木突板(ウォールナット、ナチュラル他)、ガラス
サイズ展開 S(φ203mm)、M(φ254mm)、L(φ305mm)、XL(φ365mm)
ムーブメント クオーツ(スイープセコンド/ステップセコンド)
受賞歴 グッドデザイン賞(2004年)、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞(2007年)