レ・ザルク チェアは、フランスの建築家・デザイナー、シャルロット・ペリアンが、フランスアルプスのスキーリゾート「レ・ザルク」のために選定した椅子である。管状のクロームメッキスチールフレームに、コニャック色の厚手サドルレザーを組み合わせた簡潔な構成が特徴で、山岳リゾートという用途に即した機能美をそなえている。

この椅子は、1967年から1982年にかけて展開されたペリアンの大規模建築プロジェクト「レ・ザルク スキーリゾート」の一環として導入された。製造はイタリアの家具メーカーが担ったとされ、ダル・ヴェラ社の名が挙げられることが多いが、カッシーナ社の名で流通する個体もあり、製造元については諸説がある。スタッキング可能な構造により、大規模なリゾート施設で求められる収納効率にも対応した。

特徴・コンセプト

機能性とスタッキング構造

レ・ザルク チェアの要点は、ペリアンが一貫して重視した機能主義の考え方にある。管状スチールフレームは軽量性と堅牢性を両立させ、スタッキング機能によって省スペースでの収納を可能にした。厚みのあるサドルレザーの座面と背もたれは、レザーストラップと金属ハードウェアでフレームに固定され、日常的な使用に耐える構造となっている。

素材の対比

クロームの工業的な輝きと、経年によって色味を深めるコニャックレザーの温かみ。この二つの素材の対比が、レ・ザルク チェアの見た目の性格を決めている。工業素材と皮革・木材といった自然素材を組み合わせる手法は、ペリアンが数多くの家具で用いたもので、この椅子はその考え方を端的に示す一例といえる。

リゾートの家具としての設計思想

レ・ザルク プロジェクトは、戦後フランスにおける有給休暇制度の拡大を背景に、それまで一部の層のものであったスキーを、より多くの人々に開放することを狙いとしていた。ペリアンは大規模リゾートの設計にあたり、標準化と工業生産によって良質な住環境を手頃な価格で提供することを志向した。レ・ザルク チェアは、こうした考え方のもとで用意された家具のひとつである。

評価と収蔵

レ・ザルク チェアは、実用性と造形の簡潔さを兼ねそなえた家具として、デザイン史のなかで参照されてきた。2018年にファイドン社から刊行された『Chair: 500 Designs that Matter』では、掲載された500脚のうちの一脚として取り上げられている。

シカゴ美術館は2023年に本作をコレクションに加えた(accession no. 2023.1280)。取得はヴァレリー・カーベリーとリチャード・ライトの資金提供によるもので、同館は「アーキテクチャー・アンド・デザイン」部門の収蔵品として位置づけている。

なお、レ・ザルクのリゾートそのものも、アルク1600地区が2003年に文化省から「アルシテクチュール・コンタンポレーヌ・ルマルカーブル(注目すべき現代建築)」ラベルを付与され、20世紀の建築遺産として評価されている。レ・ザルク チェアは、この居住空間を構成した家具として、リゾートの再評価とともに注目を集めてきた。

現在の位置づけ

レ・ザルク チェアは、公共空間や商業施設向けの家具計画において、耐久性・スタッキング機能・メンテナンス性を兼ねそなえたチェアの先例として参照されている。

現在、ヴィンテージのレ・ザルク チェアは国際的なデザイン市場で取引されており、1stDibsやPamonoといったプラットフォームに出品されている。オリジナルの工場ラベルが残る個体や、リゾートから直接入手された来歴の明確な作品は、特に評価が高い。経年によって深まったレザーの風合いは、使用の痕跡としてだけでなく、時間の経過が与えた味わいとして受け止められている。

基本情報

デザイナー シャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand)(選定)
製造 ダル・ヴェラ(Dal Vera)/カッシーナ(Cassina)(諸説あり)
製造国 イタリア
年代 1960年代後半〜1970年代初頭
素材 管状クロームメッキスチール、サドルレザー
サイズ 高さ約80〜82cm × 幅約47〜49cm × 奥行約50〜61cm(座面高約44cm、個体差あり)
分類 ダイニングチェア、スタッキングチェア