サム・ヘクト Sam Hecht

バイオグラフィー

1969年、ロンドン生まれ。英国を代表するインダストリアルデザイナー。セントラル・セント・マーティンズ美術大学で産業デザインを学び、1993年にロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士号を取得。その後、カリフォルニアのIDEOに入社し、サンフランシスコと東京で3年間勤務。深澤直人らと共に、画期的な製品タイポロジーを生み出す。1999年にロンドンに戻り、IDEOロンドンの産業デザインヘッドを務める。2002年、建築家のキム・コリンと共にロンドンにデザインスタジオ「Industrial Facility」を設立。クラーケンウェル地区の小規模ながらも国際色豊かなスタジオで、家具からプロダクト、展示デザインまで幅広く手がける。

デザイン哲学とアプローチ

サム・ヘクトのデザイン哲学は「より異なるものではなく、より良いもの」を生み出すことにある。彼は形態への思慮深い考察と現代生活への独特な理解を融合させ、実用性から美を生み出すアプローチを取る。Industrial Facilityの作品は、シンプルさと知的な厳格さの絶妙な組み合わせにより、世界的なカルト的支持を獲得している。製品が関連性を持ち、長く愛されるものとなる「均衡」を追求し、文化的関連性と商業的成功の両立を実現。デイヴィッド・チッパーフィールドの作品から影響を受け、最もシンプルなものからインスピレーションを見出すという信念を持つ。

作品の特徴

サム・ヘクトの作品は、ミニマルな美学と実世界での実用性を巧みに融合させた点が特徴的である。彼のデザインは一見シンプルに見えながら、細部まで綿密に計算され、使用する空間や文化的背景との調和を重視している。特に無印良品との20年以上にわたる協働では、同ブランドのミニマリストでありながら実用的なイメージの形成に大きく貢献。また、最新のテクノロジーと伝統的な職人技術を融合させる手法も特筆すべき点で、マティアッツィのBranca(ブランカ)チェアでは、ロボット製造技術と手工芸を組み合わせ、一本の木材から継ぎ目のない美しい椅子を生み出している。

主な代表作

サム・ヘクトの代表作は多岐にわたる。無印良品では「Second Phone」(2004年)をはじめ、コーヒーメーカー、収納ボックス、照明器具など数多くの製品を手がけ、同社のWorld Mujiのデザインアドバイザーを務める。ハーマンミラーでは、Formwork(フォームワーク)コレクション(2013年)で洗練されたデスクアクセサリーシリーズを発表。スタッキング可能なトレイやボックスは、オフィス用品に稀に見る思慮深さを反映している。また、Lino(リノ)チェア、OE1ワークスペースコレクション、Wireframe(ワイヤーフレーム)ソファグループなども手がけている。

マティアッツィとの協働では、Branca(ブランカ)チェア(2010年)が特に注目を集め、2011年にロンドン・デザインミュージアムの「Design of the Year」を受賞。その後もStelo(ステロ)チェア(2025年)など、木材加工の新たな可能性を探求する作品を発表。エメコとのRunコレクション(2016年)では、同社初のテーブルシリーズを手がけ、80%リサイクルアルミニウムを使用した持続可能なデザインを実現。ヴェストベリとのw182 Pastille(パスティーユ)照明シリーズでは、純粋な光のディスクというコンセプトで、柔らかく温かみのある光環境を創出している。

功績と評価

2008年、英国王立芸術協会より「Royal Designer for Industry(RDI)」の称号を授与される。これは英国で働くデザイナーに与えられる最高の栄誉である。パートナーのキム・コリンも2015年に同称号を受け、彼女は女性プロダクトデザイナーとして初のRDI受賞者となった。Industrial Facilityは50以上の国際的な賞を受賞し、6つのiFゴールドアワードを含む数々の栄誉に輝いている。

作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)、シカゴ美術館、パリ・ポンピドゥーセンター、サンフランシスコ近代美術館、ヘルシンキ・フィンランディア美術館、ミュンヘン州立応用美術館、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館など、世界の主要美術館のパーマネントコレクションに収蔵されている。

教育活動と影響

ヘクトは母校ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで教鞭を執り、2006年から2010年まではシニアチューターとして「Platform 12」を形成。2011年にはドイツのカールスルーエ造形大学(HfG)の客員教授に就任。教育活動を通じて次世代のデザイナーの育成にも貢献している。

2019年、Phaidon Pressより、Industrial Facilityの作品を網羅したモノグラフが出版され、200以上のプロジェクトが収録されている。この出版物は、彼らがカルト的な支持から最も影響力のある進歩的なデザインスタジオの一つへと成長した軌跡を記録している。

現在と今後の展望

Industrial Facilityは現在も、プロダクト、家具、テクノロジーデザインの分野で最も進歩的なスタジオの一つとして評価されている。2016年には「Future Facility」という新部門を設立し、IoT(モノのインターネット)に接続される製品のデザインに特化した活動を開始。サム・ヘクトは、産業と協働して私たちの生活を豊かにする製品を改善し続けることを使命とし、長く愛され、効果的で、製品とクライアントが求める以上の満足感を与えるデザインを目指している。その作品は、個人の生活と共同体の生活の両方に貢献する機会として、デザインを捉える企業との協働を通じて生まれ続けている。

作品一覧

年月 区分 作品名 ブランド
2002年 スタジオ設立 Industrial Facility -
2004年 携帯電話 Second Phone MUJI
2006年 キッチン用品 Taylor's Eye Witness シリーズ Taylor's Eye Witness
2010年 椅子 Branca Chair Mattiazzi
2013年 デスクアクセサリー Formwork Collection Herman Miller
2014年 スツール Branca Stool Mattiazzi
2016年 テーブル・ベンチ Run Collection Emeco
2016年 ワークスペース Plex Modular Lounge Herman Miller
2018年 照明 w182 Pastille Wästberg
2018年 照明 w162 Dalston Wästberg
2019年 ワークスペース OE1 Workspace Collection Herman Miller
2020年 椅子 Lino Chair Herman Miller
2020年 スツール Lino Stool Herman Miller
2021年 ソファ Wireframe Sofa Group Herman Miller
2021年 照明 Ode Lighting Collection Herman Miller
2025年 椅子 Stelo Chair Mattiazzi
継続中 各種プロダクト コーヒーメーカー、収納用品、文房具等 MUJI
継続中 各種プロダクト 電子機器、プリンター等 Epson
継続中 各種プロダクト 楽器、音響機器 Yamaha
継続中 ファッション小物 バッグ、アクセサリー Issey Miyake
継続中 家具 各種家具 Established & Sons
継続中 家電 家電製品 Whirlpool
継続中 外付けハードディスク 各種ストレージ LaCie
継続中 電子機器アクセサリー 各種アクセサリー Lexon
継続中 家具 各種家具 Magis

Reference