概要
サム・ヘクト(1969年生まれ)は、イギリスのインダストリアルデザイナーである。ロンドンとサンフランシスコでの実務を経て、2002年にキム・コリンとインダストリアル・ファシリティを設立した。電子機器の設計から出発しており、内部の部品配置と外形の関係を扱う仕事が多い。無印良品、ハーマンミラー、マッティアッツィなどと協働している。
バイオグラフィー
1969年8月7日、ロンドンに生まれた。セントラル・セント・マーチンズで学んだのち、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで工業デザインの修士号を得ている。
卒業後は東京の企業で電子機器の設計に携わった。続いてサンフランシスコとロンドンのIDEOに勤め、通信機器や情報機器の設計を担当している。
2002年、キム・コリンとともにロンドンのクラーケンウェルにインダストリアル・ファシリティを設立した。
無印良品の設計顧問を長く務め、2008年からはハーマンミラーの設計顧問も務めている。2008年にロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリーに選ばれた。
デザインの思想と方法
ヘクトが最初に扱ったのは電子機器である。この分野では、基板と電池と表示部の寸法が先に決まっており、外形はその配置の結果として現れる。内側から外へ形が決まるという順序が、以後の仕事の基本にある。
内部の配置から外形を決める
電子機器では、部品を最も効率よく収める配置が外形を規定する。ヘクトはこれを制約ではなく設計の出発点として扱い、部品の並べ方そのものを検討の対象にする。家具や日用品でも、内部に何を収めるかが決まっている場合は同じ順序をとる。
操作を減らす
情報機器の設計では、機能を増やすほど操作の手順が増える。ヘクトは、使う頻度の低い機能を外すか、階層の奥に置くことで、日常の操作を短くする方向をとってきた。この判断は、製品の外形の単純さにも直結する。
既存の製品群に加える
無印良品やハーマンミラーの仕事では、すでに大量の製品が並んでいる場に新しい製品を加えることになる。単体として目立つ形は、並べたときに列を乱す。周囲との関係で成立する形を選ぶという条件は、スタジオの共同設計者であるキム・コリンの建築的な視点とも重なる。
試作を数多くつくる
スタジオでは、機能の追加と削除を試作で繰り返す。図面上では判断できない操作の感触や重量の釣り合いを、実物で確かめる進め方をとる。
ハーマンミラーの歴史や他の製品について詳しくはハーマンミラー ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
通信機器の一群(2000年)
IDEO在籍時に手がけた電話機と入力機器の系列である。柔らかい外皮で本体を覆う「ソフトフォン」、手首に装着する電話機など、通信機器の形式そのものを検討する内容だった。ニューヨーク近代美術館が5点を収蔵している。
ブランカ チェア(2010年、マッティアッツィ)
木材をCNC加工で削り出した椅子である。脚から背もたれへ枝分かれする構成で接合部を減らしている。V&Aは同じ設計を2点収蔵しており、それぞれキム・コリンとヘクトの名で登録されている。
無印良品のための製品(2000年代〜)
家電、文具、収納など多数の製品に関わっている。同社の製品は店頭で大量に並ぶため、単体としての新しさより列に収まることが優先される。電子機器で培った「内部から外形を決める」進め方が、家電の設計で直接に働く。
ローカル オフィスシステム(2013年、ハーマンミラー)
事務所の作業空間を構成する系列である。人が場所を移りながら働くことを前提とし、片持ちの卓と可動の什器を組み合わせる。使う頻度から要素の配置を決めるという方法が、家具の規模で適用されている。
評価と影響
ヘクトは一般に、電子機器の設計から出発して日用品と家具へ展開した設計者と評価されている。内部の構成から外形を導く進め方が、分野を越えて適用されている点が挙げられる。
無印良品との長期の関係では、製品単体ではなく製品群の中での位置づけを条件とする設計が続いている。ハーマンミラー、マッティアッツィ、ヘイ、ムートとも協働してきた。
スタジオの作品はすべてキム・コリンとの共同名義で発表され、個々の担当は公表されていない。
受賞・収蔵
受賞
- 2008年 ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)。
- MoMA 会議用電話機の試作(2000年) 収蔵番号 1412.2001
- MoMA キーボード(2000年) 収蔵番号 1413.2001
- MoMA ソフトフォン(2000年) 収蔵番号 1414.2001
- MoMA ソフトリモート(2000年) 収蔵番号 1415.2001
- MoMA ソフト リストフォン(2000年) 収蔵番号 1416.2001
- V&A ブランカ チェア(2010年) 収蔵番号 W.18-2011
作品一覧
2002年以降の作品はいずれもキム・コリンとの共同設計による。
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 2000年 | 通信機器 | ソフトフォン、ソフト リストフォンほか | IDEO |
| 2010年 | 椅子 | ブランカ チェア | Mattiazzi |
| 2013年 | オフィス家具 | ローカル オフィスシステム | Herman Miller |
| 2000年代〜 | 各種 | 無印良品のための製品 | 無印良品 |
| 2010年代 | 家具 | ヘイ/ムート のための家具 | HAY / Muuto |
| 2021年 | 椅子 | スリング ラウンジチェア | Takt |
プロフィール
| 生年 | 1969年8月7日 |
|---|---|
| 出身地 | イギリス・ロンドン |
| 国籍 | イギリス |
| 活動拠点 | ロンドン |
| 分野 | 電子機器、家具、日用品 |
| 主な協働ブランド | 無印良品、Herman Miller、Mattiazzi、HAY、Muuto、Takt |
Reference
- Industrial Facility(公式)
- https://www.industrialfacility.co.uk/
- Industrial Facility | Herman Miller
- https://www.hermanmiller.com/designers/
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325
- Victoria and Albert Museum Collections
- https://collections.vam.ac.uk/