バイオグラフィー

1981年、アイスランド南西部の海沿いの小さな町に生まれる。音楽家の家系に育ち、5歳でリコーダーを手にしたのを皮切りに、ピアノとヴァイオリンを学ぶ。音楽への愛情は深かったが、幼少期から独特のオブジェやささやかな日用品に宿る美しさに強く惹かれ、キャンディの包み紙からナプキン、消しゴムに至るまで、あらゆる小さなものを蒐集した。それらは彼女にとっての「宝石」であり、その蒐集癖は現在に至るまで創作の原動力となっている。

看板職人であった祖父の仕事を幼い頃から手伝い、「何でも自分の手でつくることができる」という信念を自然に身につけた。1999年、レイキャビクで開催されたマーク・ニューソン、ジャスパー・モリソン、マイケル・ヤングの展覧会に衝撃を受け、プロダクトデザインの道を志す。自らが愛おしいと感じるオブジェを生み出し、それが他者の暮らしにも同じ喜びを届けることを目指したのである。

アイスランド芸術アカデミー(Iceland Academy of the Arts)でプロダクトデザインを学んだ後、米国ミシガン州のクランブルック美術アカデミー(Cranbrook Academy of Art)に進学。同校は、エリエル・サーリネンが礎を築いたアーツ・アンド・クラフツの精神を受け継ぐ名門校であり、自主的な制作と指導者との対話を重視する教育環境のもとで研鑽を積んだ。

2008年よりプロダクトデザイナーとして独立し、2011年にレイキャビクの港湾地区にスタジオ「Umemi(ウメミ)」を設立。以来、アイスランドの伝統的な素材であるウールを軸に、手仕事の温もりと遊び心を兼ね備えたプロダクトを世に送り出している。

デザインの思想とアプローチ

ラグンヘイズル・オゥプ・シグルザルドッティルのデザイン哲学の根底には、「日常の中に潜む小さな美を見出し、それを拡張して人々に届ける」という一貫した姿勢がある。幼少期に集めたキャンディの包み紙や消しゴムに見出した美意識は、彼女のプロダクトデザインにそのまま昇華されている。

彼女は、チャールズ・イームズの「快楽が機能的でないなどと誰が言ったのか」という言葉に深く共鳴し、機能と美学の融合を自らのデザインの理想として掲げている。ものづくりにおいて「遊び心」「心地よさ」「優れた構造」「見る者を笑顔にする力」の四つの要素が不可欠であると考え、これらが渾然一体となったプロダクトの創出を追求している。

素材に対する深い敬意もまた、彼女の創作を特徴づける重要な要素である。アイスランド産ウールをはじめとする天然素材を好んで用い、機械編みと手作業を巧みに組み合わせることで、工芸的な温かみと現代的な造形美を両立させている。大量生産品が溢れる時代にあって、人の手が関わったことを感じさせるものづくりへの回帰を志向し、触覚的な豊かさを通じて使い手との親密な関係を紡ぐことを目指している。

また、彼女のデザインには北欧特有の自然観が色濃く反映されている。「自然こそが最高のデザイナーである」という信条のもと、アイスランドの荒涼とした大地、海、そして伝統的なクラフトの記憶がプロダクトの随所に息づいている。スカウト活動で培った結び目の技術や、アイスランドの伝統的な編み物の技法といった身体的な記憶が、唯一無二の造形言語へと結晶している。

作品の特徴

シグルザルドッティルの作品群は、伝統的な手工芸の技法をコンテンポラリーデザインの文脈へと大胆に転換する点において、際立った独自性を有している。その造形は、一見すると何であるか判然としない不思議な存在感を放ちながらも、手に取れば柔らかく温かい機能性を備えている。彼女自身が「最初に見たとき、それが何かわからないこと。そこに想像力を使う余地がある」と語るように、見る者の好奇心を喚起する曖昧さが意図的にデザインに組み込まれている。

素材の選択においては、アイスランド産の純粋なウールを基調とし、ニットチューブやウール糸といったテキスタイル素材を立体的な造形へと昇華させる手法を得意とする。機械編みによって生み出される均一なチューブ状の素材に、手作業で詰め物を施し、結び目を形成するという工程は、工業生産と手仕事の理想的な共存を体現している。

配色においてもまた、北欧デザインの伝統を踏まえつつ、ピンクや鮮やかな黄色、青といった明快な色彩を積極的に取り入れ、空間に活力と遊戯性を与える。ポップアートからの影響を公言する彼女の色彩感覚は、ミニマリズムに傾きがちな北欧インテリアに対して、親しみやすい温かみと驚きを提供している。

主な代表作とエピソード

NotKnot クッション(2011年〜)

シグルザルドッティルの創作活動の原点ともいえる作品シリーズ。テディベアのかぎ針編みの脚を製作する過程で、より効率的な方法を模索していた際に着想を得た。アイスランドの編み物工場で入手した古い機械を使い、チューブ状のニットを編み始めたところ、予想を超えて数メートルもの長さに伸びた素材が生まれた。幼少期のガールスカウト活動で培った結び目の技術を思い出し、それらを結び始めたことが、NotKnotシリーズの誕生につながった。

結び目のデザインは、クリフォード・W・アシュリーの名著『The Ashley Book of Knots』に収録された世界各地の伝統的な結び目から着想を得ている。ターク船長結び(Turk's Head)、アシュリーズ・フラワー、グッドラック・ノット、ラウンド・ブロケード・リングなど、航海術やスカウト活動、装飾的な結び目の技法を柔らかなウール素材で再解釈した。100%アイスランド産ウールを使用し、アクリルの詰め物を手作業で充填した後、一つひとつ手で結び上げるという工程を経て完成する。直径約45cm(18インチ)前後の作品が中心で、およそ8色のカラーバリエーションが展開されている。

NotKnotシリーズは、その独創性ゆえに世界中で数多くの模倣品が出回ることとなったが、オリジナルの品質と手仕事の繊細さは他の追随を許さないものとして、デザインコミュニティにおいて高く評価されている。Etsy上のUmemiショップを通じた直接販売のほか、英国のスカンジナビアンデザイン専門店Vökuróなどで取り扱われた。

Knot クッション / Knot フロアピロー(Design House Stockholm、2016年〜)

NotKnotシリーズの中から選ばれた一つのデザインが、スウェーデンの名門デザインブランド、デザインハウス・ストックホルム(Design House Stockholm)から製品化されたものである。2013年、デザインハウス・ストックホルムの創業者兼CEOであるアンダース・フェーディグ(Anders Färdig)がレイキャビクのデザイン・フェスティバル「DesignMarch」を訪れた際にシグルザルドッティルのクッションを目にし、その後数年にわたって最適な生産方法を模索した結果、2016年のストックホルム・ファニチャー・フェアにて正式に発表された。

モンキーフィスト・ノット(Monkey's Fist knot)を基にしたこのクッションは、数メートルにおよぶニットチューブを結び上げて形成される彫刻的な造形が特徴であり、ウール・アクリル混紡の外皮にポリエステルの詰め物を内包する。発表と同時にニューヨーク近代美術館(MoMA)のデザインストアに採用され、Design Within Reachなどの著名なデザイン小売店でも取り扱われるなど、国際的な評価を獲得した。通常サイズのKnot Cushion(約30×30×15cm)に加え、大型のKnot Floor Pillow(フロアピロー)も展開されており、クッションとしての実用性と彫刻的なオブジェとしての存在感を兼ね備えた、現代北欧デザインを代表するプロダクトの一つとなっている。

Bentey スツール(2011年)

2011年のDesignMarch(レイキャビク・デザイン・ウィーク)にて、アイスランドの名門デザインストアEpalで発表された作品。日常的に使われる量産型のスツールの座面に穴のパターンをドリルで開け、そこにウール糸を通して花柄の刺繍パターンを織り上げるという手法で、ありふれた家具にアイスランドの手工芸の精神を吹き込んだ。座面の装飾は視覚的な美しさだけでなく、座り手へのクッションとしても機能するという、実用と装飾の融合を体現している。designboomにて取り上げられ、アイスランド・デザインの新たな潮流として注目を集めた。

Kot ブランケット

「Kot」はアイスランド語で「小屋(hut)」を意味する。小屋の屋根瓦からインスピレーションを得たパターンを、アイスランド産ウールで機械編みしたブランケットである。アイスランドの風景と伝統的な建築の記憶をテキスタイルに昇華させた作品であり、Umemiスタジオの素材探求の幅広さを示している。

功績と業績

シグルザルドッティルは、アイスランドという小さな島国から世界のデザインシーンへと独自の存在感を打ち出した稀有なプロダクトデザイナーである。その功績は、以下の点において特筆に値する。

第一に、アイスランドの伝統的な素材と手工芸の技法を、国際的なコンテンポラリーデザインの文脈へと接続した点である。ウールという素朴な素材を用いながらも、ポップアートの感性と彫刻的な造形力を融合させることで、北欧デザインの新たな可能性を切り拓いた。

第二に、ニューヨーク近代美術館(MoMA)デザインストアへの採用という快挙を成し遂げた点である。Knotクッションは、クッションとしてはMoMAストアに選ばれた数少ないプロダクトの一つであり、その造形的な革新性とクラフトマンシップが国際的な水準で認められたことを意味する。

第三に、Design Within Reach、Finnish Design Shop、Skandium、NordicNestといった世界有数のデザイン小売チャネルにおいて継続的に取り扱われ、スウェーデンの名門ブランドであるデザインハウス・ストックホルムとの協業を実現したことは、独立系デザイナーとしての確かな実力を証明している。

また、2011年以降、DesignMarchをはじめとする国際的なデザインフェスティバルへの参加や、designboom、Dezeenといった世界的なデザインメディアでの紹介を通じて、アイスランド・デザインの国際的な認知度向上にも貢献している。

評価と後世への影響

シグルザルドッティルの作品は、手仕事への回帰と素材の触覚的な魅力を重視するコンテンポラリーデザインの潮流において、先駆的な位置を占めていると評価されている。大量生産品が支配する市場において、人の手が関わったことを感じさせるプロダクトへの渇望が高まる中、Knotクッションの世界的な成功は、クラフトとデザインの境界領域における新たな可能性を示した。

彼女自身が述べるように、「私たちは大量生産品に圧倒されており、そこに投じられた手仕事の痕跡や、私たちが失いつつある触覚的な質を示すオブジェを切望している」という時代の感性を、Knotクッションは見事に体現している。その結果、世界中で数多くの模倣品が出回るほどの影響力を持つに至ったが、これはむしろ彼女のデザインが時代の要請に応えたものであることの証左といえよう。

また、アイスランドという地理的に辺境とみなされがちな地域から、独自の文化的アイデンティティを保ちながら国際的なデザインシーンに参入するという道筋を示したことは、次世代のアイスランド人デザイナーたちにとって重要な先例となっている。プロダクトデザインの分野において「小さく始めて、そこから築き上げていく」という彼女のアドバイスは、独立系デザイナーの道を志す者たちに広く共感を呼んでいる。

年月 区分 作品名 ブランド
2011年 スツール Bentey Umemi
2011年 クッション NotKnot(Turk's Head) Umemi
2011年 クッション NotKnot(Ashley's Flower) Umemi
2011年 クッション NotKnot(Good Luck Knot) Umemi
2011年 クッション NotKnot(Round Brocade Ring) Umemi
2016年 クッション Knot Cushion Design House Stockholm
2016年 クッション Knot Floor Pillow Design House Stockholm
ブランケット Kot Umemi

Reference

Ragnheiður Ösp Sigurðardóttir | Design | Finnish Design Shop
https://www.finnishdesignshop.com/en-us/designer/ragnheidur-osp-sigurdardottir
Meet designer Ragnheiður Ösp Sigurðardóttir – Design House Stockholm
https://designhousestockholm.com/blogs/news/meet-designer-ragnheidur-osp-sigurdardottir
Ragnheiður Ösp Sigurðardóttir Products – Connox
https://www.connox.com/designers/ragnheidjur-oesp-sigurdjardottir.html
Design Homestory: Ragnheiður Ösp Sigurðardóttir – Connox
https://www.connox.com/homestories/homestory-this-is-how-the-knot-cushion-designer-ragnheidjur-oesp-sigurdjardottir-lives.html
About — Umemi
http://www.umemi.com/about
Knot cushion — Umemi
http://www.umemi.com/knotcushion
Kot — Umemi
http://www.umemi.com/kot/
Design House Stockholm puts Knot cushion into production – Dezeen
https://www.dezeen.com/2016/02/18/knot-pillow-cushion-ragnheidur-osp-sigurdardottir-design-house-stockholm-2016/
umemi at designmarch 2011 – designboom
https://www.designboom.com/design/umemi-at-designmarch-2011
Ragnheiður Ösp Sigurðardóttir – Design Within Reach
https://www.dwr.com/designer-ragnheiur-sp-sigurardttir?lang=en_US
Knot Cushion Pillow – hive modern
https://hivemodern.com/pages/product16556/knot-cushion-pillow-ragnheidur-osp-sigurdardottir-design-house-stockholm
Ragnheiður Ösp Sigurðardóttir – Skandium London
https://www.skandium.com/collections/ragnheidur-osp-sigurdardottir
Designers — We Live Here
http://we-live-here.squarespace.com/designers
NotKnot Cushions by Umemi – Homeli
https://homeli.co.uk/notknot-cushions-by-umemi-knitted-wool-rope-knot-pillows-on-vokuro/
The Originals: KnotNot knot pillows by Umemi – Cool Mom Picks
https://coolmompicks.com/blog/2015/10/19/original-knot-pillows-by-umemi/
Knot Cushion – scandinavia-design.fr
https://www.scandinavia-design.fr/PM2/DESIGN-HOUSE-STOCKHOLM/knot-cushion-ragnheidur-osp-sigurdardottir.html