バイオグラフィー

1905年12月16日、デンマークの首都コペンハーゲンに生まれる。父は技術者、母は眼科医という知識人の家庭に育ち、幼少期から科学者や芸術家が出入りする環境のなかで知的好奇心を養った。17世紀オランダの著名な提督ピート・ピーテルスゾーン・ハインの子孫とされ、生涯を通じて冒険的な知性と行動力を併せ持った人物であった。

青年期には多様な学問領域を渡り歩いた。コペンハーゲンの私立美術学校で学んだのち、スウェーデンのストックホルム王立美術アカデミーへ進学。さらにデンマークへ帰国してコペンハーゲン大学の理論物理学研究所(後のニールス・ボーア研究所)やデンマーク工科大学で哲学と理論物理学を学んだ。いずれの課程も修了には至らなかったが、それは飽くなき知的探求心ゆえであり、この多方面の学びが、後の学際的な創造活動の礎となった。戦間期にはニールス・ボーアと親密な知的交流を持ち、自ら「ボーアと知的なピンポンを楽しんだ」と回想している。

1940年4月、ナチス・ドイツによるデンマーク占領が始まると、ハインは最も親しんだ武器である「ペン」を手に抵抗運動へ加わった。日刊紙「ポリティケン」に「クンベル・クンベル」の筆名で短詩「グルク(Gruk)」の連載を始め、これらの詩は日常への詩的な論評を装いながら、占領下の国民に精神的な抵抗の力を与えた。戦後、1959年にはストックホルムのセルゲル広場(Sergels Torg)の都市計画コンペティションに「スーパー楕円(Superellipse)」を提案して採用され、これが以後のデザイン活動の核心的モチーフとなる。1968年にはスウェーデンの家具デザイナー、ブルーノ・マットソンとの協働で、フリッツ・ハンセン社からスーパー楕円テーブルシリーズを発表した。

私生活では四度の結婚を経験し、五人の息子をもうけた。次男ヨトゥン・ハインは12歳でソーマキューブのある構造が不可能であることを証明し、後にオックスフォード大学の生物情報学教授となっている。詩人・数学者・発明家・デザイナーとして比類なき多才さを発揮したハインは、物理学者ニールス・ボーア、作家カレン・ブリクセンと並ぶ国際的知名度を誇るデンマーク人と評される。1996年4月17日、デンマーク・フュン島の自宅にて90歳で永眠した。

デザインの思想とアプローチ

ピート・ハインの創作を貫く根本原理は「ハーモニー(調和)」の追求であった。芸術の主観的世界と科学の客観的世界の間に越えがたい距離を認めず、詩と数学、美と機能を一つの統合された表現として結実させることが、生涯の使命であった。ハインは「芸術とは、解決されるまで明確に定式化できない問題への解答である」と語っている。直感的に形を発見し、その後に数学的な説明を与えるというその創作過程は、他者によって「建築的詩的デザイン」と的確に評された。

ハインは、文明には直線と矩形へ向かう傾向と曲線へ向かう傾向の二つがあると考えた。直線的なものは互いにうまく収まって空間を節約し、曲線的なもののまわりでは人は身体的にも精神的にも自由に動ける。しかし、いずれか一方に縛られる必要はなく、しばしば中間的な形態のほうが優れている——この信念が、円と正方形、楕円と長方形の対立を解消する「スーパー楕円」の発見へと結実した。目的や媒体、内容に対してさえも形態を優先させるという姿勢は、科学論文から随筆、詩、建築まで、彼のあらゆる仕事に共通する特徴である。「ユニバーサリスト(万能人)」と称されたハインには、レオナルド・ダ・ヴィンチの現代版ともいうべきルネサンス的な理想との精神的な親縁性が認められる。

作品の特徴

スーパー楕円とスーパーエッグ

ハインのデザインにおける最大の貢献は、「スーパー楕円」の発見とその応用に集約される。スーパー楕円とは、楕円と長方形の中間に位置する幾何学的曲線であり、指数n=2.5のときに最も調和的で美しい視覚効果が生まれるとハインは見出した。円の柔らかさと矩形の機能性を兼ね備えたこの形態は、都市計画から家具、食器、照明、建築まで、あらゆるスケールに応用された。さらにこの曲線の三次元回転体として生み出されたのが「スーパーエッグ」である。卵形でありながら平面上に直立するこの立体は、玩具から照明、テーブルウェアまで多様な製品に展開され、ハインのデザイン哲学を象徴する造形となった。

グルク——言葉における調和的造形

ハインが創出した「グルク(Gruk / Grook)」は、皮肉とパラドックス、簡潔さと精緻なリズム、しばしば風刺的な性格を特徴とする短詩の形式である。1940年から1960年代にかけて20巻以上のコレクションが出版され、7,000篇を超える作品が残された。デンマーク語のみならず英語、ドイツ語、エスペラント語など多言語に翻訳され、150万部以上が刊行されている。スカンジナヴィア諸国では「30分間ピート・ハインを引用せずに話せる人こそ巧みな食後のスピーカーだ」と言われるほど、その詩は人々の日常に浸透した。

数学的遊戯と発明

ハインは数学的思考をゲームや知的玩具にも応用した。1933年に発明されたソーマキューブは、27個の小立方体で構成される立体パズルとして世界的に知られ、1942年に考案されたボードゲーム「ヘックス(Hex)」は戦略ゲーム理論においても重要な位置を占める。アメリカの数学エッセイスト、マーティン・ガードナーとの親交も深く、ハインの業績はガードナーの『サイエンティフィック・アメリカン』誌の連載コラム「数学ゲーム」で繰り返し紹介された。

プロダクトデザイン

家具、照明、キッチンウェア、キャンドルホルダー、花瓶、トレイ、彫刻にいたるまで、ハインの製品にはスーパー楕円とスーパーエッグの造形原理が一貫して通底し、一見してそれと識別できる造形言語を形づくっている。これらの製品は現在もピート・ハインA/S社を通じて製造・販売され、フリッツ・ハンセン社によるテーブルシリーズは同社の定番として半世紀以上にわたり生産が続けられている。詩と幾何学とデザインを調和させる稀有な才能によって、機能と芸術が等しく重んじられたその作品群は、流行に左右されない普遍性を備えている。

主な代表作とエピソード

セルゲル広場の都市計画(1959年)

1959年、ストックホルム市はセルゲル広場の再開発にあたり、市中心部の矩形の広場に二本の幹線道路が交差するロータリーの設計を公募した。矩形と円形のいずれも最適解となりえないこの課題に対し、ハインはスーパー楕円の形態を提案して採用される。1967年に完成したこの広場は、スーパー楕円が大規模に実用化された最初の事例であり、以後カナダ、フランス、日本、アメリカ、メキシコなど世界各地の都市計画や建築に応用される契機となった。メキシコシティのオリンピックスタジアムにスーパー楕円が用いられたのも、その代表的な例である。

スーパー楕円テーブルシリーズ(1968年)

セルゲル広場のプロジェクトを経て、ハインはスウェーデンの家具デザイナー、ブルーノ・マットソンと協働し、スーパー楕円の形態をテーブルの天板に応用した。脚部の設計にはアルネ・ヤコブセンも参画し、1968年にフリッツ・ハンセン社から製品化されている。数式に基づくこの天板形状にはいかなる「端」も存在せず、着座するすべての人が等しい形状のテーブルエッジに面することから、「民主的なテーブル」とも評された。1968年のパリにおけるベトナム和平交渉の際、交渉テーブルの形状をめぐって各国代表が合意できずにいた折に、スーパー楕円型テーブルが提案されたという逸話も伝わる。同シリーズはスーパー楕円、スーパーサーキュラー、円形、正方形、長方形の各天板と、複数の脚部構成で展開されている。

スーパーエッグ(1965年)

スーパー楕円を長軸方向に回転させて生み出された三次元立体「スーパーエッグ」は、通常の卵と異なり平面上に自立するという特性を持つ。当初は知的玩具として市販されたが、その造形原理はのちに照明器具「スーパーエッグランプ」やテーブルウェアにも応用された。オパールガラスで手吹き成形されたスーパーエッグランプは、ハインのデザイン哲学を凝縮した作品として高く評価されている。

バースツール(1960年代)

フリッツ・ハンセン社のために設計されたバースツール。円形のベースから三本の細いクロームスチール製の脚が立ち上がり、レザー張りの丸い座面を支える簡潔な構造を特徴とする。ステムに固定されたリングがフットレストとして機能し、ミニマルな外観と快適な座り心地を両立させた。

キャンドルホルダーと照明

惑星の名を冠したマース、ヴィーナス、ジュピター、サターンの四種のキャンドルホルダーは、段階的に高さを増す構成でテーブルに優美なリズムを生む。ステンレススチール製の簡潔なフォルムは、ミニ、テーブルサイズ、マキシの三つのスケールで展開される。南半球滞在中に北天の大熊座を懐かしんで着想したという七枝燭台「グレートベア」も、天体への愛着とデザインの融合を体現する。照明では、スーパーエッグランプをはじめ、サイナス、スーパー、RA、フンコ、ビーハイヴなど多彩なシリーズを手がけ、いずれも幾何学的な純粋さとオパールガラスの柔らかな光を特徴とする。

彫刻作品

ハインの彫刻は常に幾何学的形態と結びついている。代表作「ヘリックス・ヘリオス(Helix Helios)」は1989年にデンマーク・フュン島のイーエスコウ城に設置された日時計彫刻で、その造形は天文学と幾何学の融合を体現している。

功績・業績

ピート・ハインは、20世紀のデンマークで最も多くの受賞歴を持つ人物の一人として知られる。その主な栄誉は以下の通りである。

1968年
アレクサンダー・グラハム・ベル・シルバーベル賞
1971年
デンマーク・インダストリアルデザイン賞 / Die gute Industrieform(ドイツ)
1972年
イェール大学名誉文学博士号
1985年
インゲニオ・エト・アルティ勲章
1989年
デンマーク・デザインカウンシル年間賞
1991年
オーデンセ大学名誉博士号

評価・後世に与えた影響

ピート・ハインは、芸術と科学、主観と客観を隔てる境界を越え、詩・数学・哲学・デザインを一つの統合された表現として追求した、20世紀を代表する「ユニバーサリスト(万能人)」として評価されている。物理学者ニールス・ボーア、作家カレン・ブリクセンと並び、国際的に最も知名度の高いデンマーク人の一人とされる。

スーパー楕円の概念は、都市計画、建築、家具・プロダクトデザインの各分野に広範な影響を及ぼした。セルゲル広場からメキシコのオリンピックスタジアム、ニューヨーク旧ワールドトレードセンターの二階バルコニーにいたるまで国際的なデザインの語彙として定着し、近年ではApple社のiOSにおけるアプリアイコンの形状にもスーパー楕円に近い曲線が用いられるなど、デジタルデザインにも影を落としている。フリッツ・ハンセン社のスーパー楕円テーブルシリーズは発表から半世紀以上を経た現在も生産が続き、スカンジナビアン・モダンの古典としての地位を確立している。

グルクの詩的形式もまた、簡潔にして深遠な知恵を伝える文学として広く継承されている。科学と芸術、理性と感性の統合がいかに豊かな創造を生みうるかを示すハインの生涯は、ニールス・ボーアや数学者ノーバート・ウィーナーをはじめとする各界の知性との交流とともに、その学際的な偉大さを今に伝えている。

作品一覧

区分 作品名 ブランド
1931年 照明 RA Lamp Piet Hein A/S
1933年 ゲーム Soma Cube Skjøde Skjern / Piet Hein A/S
1933年 照明 Funco Table Lamp Piet Hein A/S
1940年〜 詩集 Grooks(グルク)全20巻 Borgens Forlag / Doubleday & Co.
1942年 ゲーム Hex(旧称Polygon)
1942年 ゲーム Con-Tac-Tix(TacTix) Skjøde Skjern
1959年 都市計画 Sergels Torg(セルゲル広場)スーパー楕円ロータリー ストックホルム市
1960年代 椅子 Bar Stool Fritz Hansen
1960年代 ゲーム Roulette(ルーレットボードゲーム) Skjøde Skjern
1965年 オブジェ Super-Egg(スーパーエッグ) Piet Hein A/S
1968年 テーブル Superellipse™ Table(スーパー楕円テーブル) Fritz Hansen
1968年 テーブル Supercircular™ Table(スーパーサーキュラーテーブル) Fritz Hansen
1968年 テーブル Rectangular / Circular / Square Table Series Fritz Hansen
照明 Superegg Pendant Lamp(スーパーエッグペンダントランプ) Piet Hein A/S
照明 Sinus Pendant Lamp Piet Hein A/S
照明 Super Pendant Lamp Piet Hein A/S
照明 Beehive Pendant Lamp Piet Hein A/S
照明 Flora Folio Pendant Lamp Piet Hein A/S
照明 SuperCubes Lamp Piet Hein A/S
キャンドルホルダー Mars Candleholder(Mini / Table / Maxi) Piet Hein A/S
キャンドルホルダー Venus Candleholder(Mini / Table / Maxi) Piet Hein A/S
キャンドルホルダー Jupiter Candleholder(Mini / Table / Maxi) Piet Hein A/S
キャンドルホルダー Saturn Candleholder(Mini / Table / Maxi) Piet Hein A/S
キャンドルホルダー Great Bear Candelabra(七枝燭台) Piet Hein A/S
テーブルウェア Super Vase(オパールガラス花瓶) Piet Hein A/S
テーブルウェア Opal Glass Bowl Piet Hein A/S
テーブルウェア Superelliptical Serving Tray Piet Hein A/S
テーブルウェア Drinking Tumblers Piet Hein A/S
テーブルウェア Salt and Pepper Set Piet Hein A/S
テーブルウェア Carving Boards Piet Hein A/S
テーブルウェア Porcelain Plates / Bowls Piet Hein A/S
家具 The Piet Hein Chair Piet Hein A/S
家具 UGO Stools Piet Hein A/S
テキスタイル AVGO Carpet Piet Hein A/S
インテリア Curtain Track Piet Hein A/S
インテリア Bioethanol Fireplace Piet Hein A/S
カレンダー Astro Calendar(永久カレンダー) Piet Hein A/S
1989年 彫刻 Helix Helios(日時計彫刻)
彫刻 The Cube
ゲーム Tangloids
ゲーム Tower
ゲーム Polytaire
ゲーム Nimbi
ゲーム Qrazy Qube
ゲーム Pyramystery
ゲーム Morra

Reference

Piet Hein (scientist) - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Piet_Hein_(scientist)
Piet Hein Official Website - Biography
https://piethein.com/piet-hein/
Piet Hein Official Website - Curriculum Vitae
https://piethein.com/cv/
Piet Hein Official Website - Sculptures
https://piethein.com/sculptures/
Piet Hein - Fritz Hansen Designer Profile
https://www.fritzhansen.com/en/inspiration/designers/piet-hein
Piet Hein - Danehus
https://danehus.com/collections/piet-hein
Piet Hein: Danish mathematician, scientist, inventor, poet and author - DanishNet
https://www.danishnet.com/culture/piet-hein-1905-1996/
Piet Hein Online Shop - Pamono
https://www.pamono.com/designers/piet-hein
Superellipse - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Superellipse
Sergels torg - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Sergels_torg
Piet Hein - Brief Poems
https://briefpoems.wordpress.com/tag/piet-hein/
Piet Hein Furniture - 1stDibs
https://www.1stdibs.com/creators/piet-hein/furniture/
Superellipse Dining Table - Fritz Hansen Product Page
https://www.fritzhansen.com/en/categories/by-series/superellipse/superellipse-b616
Piet Hein - Prabook
https://prabook.com/web/piet.hein/289828