概要
ミゲル・ミラ(1931-2024)は、スペインの照明・家具デザイナーである。1950年代のバルセロナで、市場に存在しない照明を自ら作ることから設計を始めた。1957年にトラモを設立し、TMCランプ、セスタランプなどを発表している。自らを「産業化以前のデザイナー」と称し、量産の効率よりも試作を重ねて修正する進め方をとった。
バイオグラフィー
1931年2月7日、スペイン・バルセロナに生まれた。建築を学んでいたが1955年に中断し、実務の側へ移っている。
1950年代は、兄アルフォンソ・ミラと建築家フェデリコ・コレアの事務所で内装の仕事に携わった。当時のスペインには工業デザインという職能がほとんど存在していない。
1957年、建築家のフランシスコ・リバス・バランゲ、エドゥアルド・ペレス・ウリバリとともにトラモを設立した。社名は「Trabajos Molestos(面倒な仕事)」に由来する。市場にない製品を自ら作るという設立の経緯を示す。
1960年頃、アンドレ・リカール、アントニ・デ・モラガス、オリオル・ボイガスらとスペイン初の工業デザイン協会の設立に加わった。1980年代以降はサンタ&コールと組み、1995年からは都市家具も手がけている。2024年8月12日、ビルバオで93歳で没した。
デザインの思想と方法
ミラは自らを「産業化以前のデザイナー」と呼んだ。図面を工場に渡して量産する順序ではなく、手元で作り、直し、また作るという工程を経て形を決める。1950年代のスペインには工業デザインの産業基盤がなく、この進め方以外に選択肢がなかったという事情もある。
市場にないものを自分で作る
トラモの設立は、内装の仕事で必要な照明が市場に見つからないという事情から出ている。作る対象は必要から決まり、装飾的な要素は入り込む余地がない。
消灯時の形を条件にする
ミラは、照明は点灯している時間より消えている時間のほうが長いと述べていた。したがって、光っていない状態で空間にどう働くかが設計の条件になる。セスタランプが曲げ木の枠でガラス球を包む構成をとるのは、消灯時にも塊として成立させるためである。
高さを変えられるようにする
TMCランプとTMMランプは、シェードを支柱に沿って上下できる。読書、食事、会話で必要な照度と光の位置は異なり、使う側が調整できれば一台で足りる。機構は単純な摩擦や留め具で、部品を増やさない。
産地の手仕事を工程に組み込む
セスタの枠は蒸気で曲げた木を用い、マニラランプは籐を編む。いずれも産地の職人による工程で、機械化されていない。工業製品でありながら手仕事の工程を含むという構成にあたる。
BDバルセロナの歴史や他の製品について詳しくはBDバルセロナ ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
TMC ランプ(1958年)
トラモの初期の製品である。十字形の台座が細い支柱を支え、円筒形のシェードが支柱に沿って上下する。摩擦だけで任意の高さに止まるため、留め具を持たない。必要な照度と光の高さを使う側が決める構成にあたる。
TMM ランプ(1961年)
TMCの構成を木材で作り直した床置き照明である。名称は「Tramo Móvil Madera(トラモ・可動式・木材)」による。支柱と台座を木でつくり、シェードは布張りとする。材料が変わっても、高さを変えられるという構成は保たれている。
セスタ/セスティタ(1962年/1964年)
蒸気で曲げた木の枠が、乳白ガラスの球体を包む携行できる照明である。枠の上部は持ち運びの取っ手として働く。点灯していないときも木とガラスの塊として成立し、消灯時の形を条件とする方針が最も明確に現れている。手作業で作られるため、個体ごとに差が出る。
マニラ ランプ(1961年)
籐を編んでシェードをつくった照明である。編み目から光が漏れ、光源が直接見えない。産地の編みの工程をそのまま用いた例にあたる。
ネオロマンティコ ベンチ(1995年〜)
サンタ&コールの都市家具部門のために設計したベンチの系列である。従来のロマンティコ・ベンチを見直し、部材を減らして製造と設置を容易にした。2000年には肘掛け付きで軽量のネオロマンティコ・リヴィアーノへ展開している。
評価と影響
ミラは一般に、スペインに工業デザインという職能を根づかせた先駆者の一人と評価されている。1950年代のバルセロナには産業基盤がなく、必要な製品を自ら作るところから始めたという経緯が、その位置づけを示す。
1960年頃の工業デザイン協会の設立への参加と、ELISAVAとEINAでの教育を通じて、制度と人材の側にも関わった。1987年にはアンドレ・リカールとともにスペイン国家デザイン賞の第1回受賞者となっている。
TMC、TMM、セスタ、セスティタはサンタ&コールが現在も生産している。1990年代からの都市家具は、バルセロナをはじめ各地の公共空間に設置された。息子のゴンサロ・ミラも工業デザイナーとして活動している。
受賞・収蔵
受賞
- 1987年 スペイン国家デザイン賞(第1回、アンドレ・リカールと同時受賞)
- ADI-FAD ゴールドデルタ賞・シルバーデルタ賞(複数回)
収蔵
4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したが、該当する収蔵は確認できなかった。スペイン国内の館については照合手段がない。
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1958年 | 照明 | TMC ランプ | Tramo / Santa & Cole |
| 1961年 | 照明 | TMM ランプ | Tramo / Santa & Cole |
| 1961年 | 照明 | マニラ ランプ | Tramo |
| 1962年 | 照明 | ウォーリー ランプ | Tramo |
| 1962年 | 照明 | セスタ | Tramo / Santa & Cole |
| 1964年 | 照明 | セスティタ | Tramo / Santa & Cole |
| 1960年代 | 照明 | アメリカーナ シリーズ | Tramo |
| 1968年 | 照明 | M68 ペンダントランプ | Tramo / Santa & Cole |
| 1995年 | 都市家具 | ネオロマンティコ・クラシコ ベンチ | Santa & Cole / Urbidermis |
| 2000年 | 都市家具 | ネオロマンティコ・リヴィアーノ | Urbidermis |
| 2014年 | 都市家具 | ハルポ(ゴンサロ・ミラと共同) | Urbidermis |
プロフィール
| 生没年 | 1931年2月7日〜2024年8月12日 |
|---|---|
| 出身地 | スペイン・バルセロナ |
| 国籍 | スペイン |
| 活動拠点 | バルセロナ |
| 分野 | 照明、家具、都市家具 |
| 主な協働ブランド | Santa & Cole、Urbidermis、Tramo、BD Barcelona |
Reference
- Miguel Milá | Santa & Cole
- https://www.santacole.com/en/designers/miguel-mila
- Urbidermis
- https://www.urbidermis.com/en/
- ADI-FAD
- https://www.adi-fad.org/
- Premios Nacionales de Diseño | Ministerio de Ciencia e Innovación
- https://www.ciencia.gob.es/