概要
ジュール・ワッベス(1919-1974)は、ベルギーの家具デザイナー・室内建築家である。写真家として出発し、1950年にブリュッセルで設計事務所を開いた。無垢材、ブロンズ、真鍮といった材料をそのまま見せる構成をとり、細い角材を並べて面をつくるスラット家具の系列で知られる。オフィスと商業施設の内装を主な領域とした。
バイオグラフィー
1919年3月18日、ベルギーのブリュッセル・サン=ジル地区に生まれた。16歳で学校を離れ、父の薬局にスタジオを構えてフリーランスの写真家として活動を始めている。設計の専門教育は受けていない。
1950年、建築家アンドレ・ジャックマンとともにブリュッセルのペピニエール街に設計事務所を開いた。初期は百貨店の内装が中心だった。
1957年、自らの設計を量産して流通させるため「ル・モビリエ・ユニヴェルセル(万国家具)」を設立する。同年の第11回ミラノ・トリエンナーレで銀メダルを受けた。
1959年、マルセル・ブロイヤーが設計したハーグの米国大使館の内装を手がけている。以後、ロンドン、ブリュッセル、ダカール、ラバトの大使館の内装にも関わった。1965年にベルギー王冠勲章騎士、1971年からサン=リュック高等芸術学院で教えている。1974年に没した。
デザインの思想と方法
ワッベスの設計は、材料をそのまま見せることを前提とする。塗装で覆わず、突板で貼らず、材料が持つ木目や金属の色を表に出す。この方針をとると、材料の選定と加工の精度が結果のすべてを決めることになる。
細い角材を並べて面をつくる
スラット家具の系列では、機械で寸法をそろえた細い角材を並べて天板や側板を構成する。一枚板では反りや割れが生じるが、細い材を並べれば動きを分散できる。当初は木材で試みて表面に張力と亀裂が出たため、寸法と接合の方法を調整して解決している。
木口を見せる
角材を木口が上を向くように並べると、天板の表面に年輪の断面が並ぶ。木目とは異なる細かい模様になり、同時に木の動きに対して安定する。材料の切り方そのものを意匠として扱う操作にあたる。
金属を仕上げずに使う
脚部や照明にはブロンズと真鍮を用い、めっきや塗装で覆わない。時間の経過とともに表面が変わるため、新品の状態を最良としない。木と金属のいずれも、経年の変化を前提とした選択になっている。
内装を一つのまとまりとして扱う
オフィスや商業施設の仕事では、家具、照明、什器を個別に選ぶのではなく、同じ材料と寸法体系でそろえた。既製品で足りない部分は自ら設計し、ル・モビリエ・ユニヴェルセルで生産している。
代表作にみる方法
スラット家具システム(1957年)
寸法をそろえた細い角材を並べて構成する家具の系列である。書棚、卓、収納へ展開され、同じ部材の並べ方だけで種類が変わる。1957年のミラノ・トリエンナーレで銀メダルを受けた。
M57 ランプ(1957年)
ミラノ・トリエンナーレのために制作した照明である。真鍮の羽根を放射状に配し、直接光と間接光を切り替えられる。当初は「二位置照明装置」と呼ばれていた。羽根の角度が配光を決めるため、構造がそのまま機能を担っている。
ジェラール・フィリップ デスク(1950年代)
ムテニエ材の積層板による天板を、鋼の脚が支える机である。天板の下には収納が設けられる。木の面と金属の脚という二つの材料の対比で構成され、いずれも仕上げで覆われていない。
ルイーズ チェア(1963年)
細い金属の枠に、厚みのある座面を載せた椅子である。座面は染料仕上げの革で張られ、肘掛けの有無で2種が用意される。枠の断面を細く保ちながら、座面には体積を持たせる構成にあたる。
米国大使館の内装(1959年、ハーグ)
マルセル・ブロイヤーが設計した建物の内装である。エドワード・J・ウォームリーと分担して担当した。既存の建築の構成に合わせて、家具と什器を同じ材料の系統でそろえている。
評価と影響
ワッベスは生前、ベルギーを代表する室内建築家の一人と見なされていた。1960年代末にル・モビリエ・ユニヴェルセルを退いたのち、1974年に没するまでの活動は限られている。
2010年、ベルギーの家具メーカーであるブーロが、遺族の同意を得て一部の設計の再生産を始めた。以後、市場での評価が高まっている。
内装を家具・照明・什器を含む一つのまとまりとして構成する進め方は、ベルギーの室内建築の系譜において継続的に参照される。
受賞・収蔵
受賞
- 1957年 第11回ミラノ・トリエンナーレ 銀メダル
- 1960年 第12回ミラノ・トリエンナーレ 出品
- 1965年 ベルギー王冠勲章騎士
収蔵
4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したが、該当する収蔵は確認できなかった。ベルギー国内の館については照合手段がない。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド / 場所 |
|---|---|---|---|
| 1953年 | 照明 | ハニカム ウォールランプ | — |
| 1950年代 | デスク | ジェラール・フィリップ デスク | Le Mobilier Universel |
| 1957年 | 家具 | スラット家具システム | Le Mobilier Universel |
| 1957年 | 照明 | M57 ランプ | Le Mobilier Universel |
| 1959年 | 内装 | 米国大使館 | ハーグ、オランダ |
| 1960年代 | デスク | サントレ デスク | Le Mobilier Universel |
| 1960年代 | 椅子 | リヴール アームチェア | Le Mobilier Universel |
| 1963年 | 椅子 | ルイーズ チェア | Le Mobilier Universel |
| 1960年代 | テーブル | ル・カレ テーブル | Le Mobilier Universel |
| 1960年代 | 内装 | フォンコラン・ビル、グラフェルベル・ビル | ブリュッセル、ベルギー |
| 1969年 | 内装 | ヴァン・デ・ヴェルデ設計の邸宅の改修 | クノック=ル=ズート、ベルギー |
プロフィール
| 生没年 | 1919年3月18日〜1974年 |
|---|---|
| 出身地 | ベルギー・ブリュッセル |
| 国籍 | ベルギー |
| 活動拠点 | ブリュッセル |
| 分野 | 家具、照明、インテリア |
| 主な協働ブランド | Le Mobilier Universel、Bulo(再生産) |
Reference
- Jules Wabbes | Bulo
- https://www.bulo.com/en/jules-wabbes
- Design Museum Brussels
- https://designmuseum.brussels/
- ADAM - Brussels Design Museum
- https://designmuseum.brussels/en/collections