バイオグラフィー
1965年、オランダ南東部リンブルフ州テヘレン生まれ。本名クレール・ヴォス・テューウェン(Claire Vos Teeuwen)。テキスタイルと陶磁器の製造を代々家業としてきた一族のもとに育ち、幼少期より素材の質感や色彩に対する鋭い感性を養った。「テキスタイルへの愛情は、私の血の中に流れています」と自ら語るように、繊維と織物への深い親しみは、彼女のデザイナーとしての出発点であり、現在に至るまで一貫した創作の核をなしている。
1984年、アイントホーフェンのデザイン・アカデミー(現デザイン・アカデミー・アイントホーフェン)に入学し、インダストリアル・デザインを専攻。在学中にはアムステルダムのスタジオ・ベンノ・プレムセラ、スイスのクレアション・バウマンにて研修を重ね、さらにイタリアおよびインドネシアに渡って伝統的なテキスタイル技法を実地で学んだ。1990年、パートナーである家具デザイナーのロデリック・ヴォスとともにデザイン・アカデミーを卒業。卒業後、二人はインドネシア・スラバヤに渡り、ラタン家具とテキスタイル生産の知識をさらに深めた。
1999年、ロデリックとともにオランダのホイスデン・フェスティングにデザインオフィス「スタジオ・ロデリック・ヴォス(Studio Roderick Vos)」を正式に設立。以来、照明、テキスタイル、アクセサリー、家具を中心に、ドリアデ、ファンクショナルズ、モーイ、リンテロー、ファットボーイ、アレッシィ、コル・ウヌム、モリナーリ、ポルスポッテン、王立ティヘラール・マックムといった国際的なデザインブランドに作品を提供している。現在はナイメーヘンおよびアムステルダムに拠点を構える。
デザインの思想とアプローチ
クレール・ヴォスのデザインの根幹には、伝統的なテキスタイル技法への深い敬意と、それを現代的な文脈で再解釈するという一貫した姿勢がある。インドネシアのイカット織りから、オランダの伝統的な毛布に至るまで、世界各地の織物文化を出発点としながらも、その成果は常にコンテンポラリーであり、グラフィカルかつインダストリアルな表情を帯びている。
素材への深い洞察と品質への妥協なき姿勢は、代々テキスタイル製造に携わってきた家族の伝統から受け継いだものであり、彼女は使用する素材の質に細心の注意を払いながら、伝統的な技法、配色、フォルムを現代のデザイン言語に翻訳し続けている。
近年のクレールは、デジタルプリンティング技術と伝統的なテキスタイルの知見を融合させた革新的なアプローチを展開しており、印刷のイリュージョンとテキスタイルのリアルな質感が交差する領域において、新たなパターンデザインの可能性を追求している。その創作において彼女は常に新しい方向性を探求し、自然界に見出される形態や色彩を脱構築し、液状化し、新たなパターンへと再構成するという独自のデザイン手法を確立した。
スタジオ・ロデリック・ヴォスとしての活動においては、ロデリックの家具・プロダクトデザインとクレールのテキスタイル・アートディレクションが相互に補完し合い、技術、素材、色彩に対する綿密なリサーチと情熱に裏打ちされたデザインを生み出している。二人は「職人たち——ガラスを吹き、溶接し、鋳造し、織り、組み立て、張り詰める男女こそが、私たちの製品の真の魂である」と語り、メーカーとの協働を創作の中核に据えている。
作品の特徴
クレール・ヴォスの作品を特徴づけるのは、グラフィカルな構成力と繊細な色彩感覚、そして伝統と革新の間を自在に行き来する柔軟な創造性である。プレイド、カーペット、ブランケット、テキスタイルといった作品群には明確なシグネチャーが貫かれており、グラフィカルでありながら予期せぬ驚きを内包する表現が彼女の持ち味として広く認識されている。
カーペットデザインにおいては、パイルの高低差を巧みに操ることで立体的なレリーフ効果を生み出し、足元から伝わる触覚的な体験と視覚的な深度を同時に実現している。レオルックスのために手がけたカーペットでは、パターンのなかに突然パイルの長い部分が現れ、足を置く場所によって異なる感触が得られるという遊び心に満ちたデザインが話題を呼んだ。
デジタルデザイン技法を駆使した近年の作品群では、自然界のモチーフを流動的なパターンへと変容させる独自の「リキッド・テクニック」を開発し、層を重ねるごとに新たな表情が現れる無限の可能性を持つデザイン体系を構築している。
主な代表作とその特徴
Liquid Layers コレクション(2021年〜 / Moooi Carpets)
クレール・ヴォスの代表作として最も広く知られるカーペットコレクション。自然界の鉱物、鳥、花、石などのモチーフを「脱構築」し、液状化させて新たなパターンへと再構成するという革新的なデザイン手法から生まれた。Agate(瑪瑙)、Pebble(小石)、Tulip(チューリップ)、Marl(泥灰岩)、Ara(コンゴウインコ)、Flint(火打石)といった自然物をそれぞれモチーフとし、各デザインにおいてカーペットの形状そのものがパターンの方向性を決定するという構造を持つ。明暗の色調が流れるように交替する「リキッド・テクニック」により、層を重ねるごとに新たな驚きが生まれる。矩形、オーガニック、ラウンドの各形状で展開され、ローパイル・ポリアミド、ウール、ソフトヤーン・ポリアミドの素材から選択可能。このコレクションにおいてクレールは、可能性が無限に広がる新しいデジタルデザイン技法を確立した。
Yarn Box コレクション(2018–2019年 / Moooi Carpets)
中国の伝統的な手工芸からインスピレーションを得て、ビーズとリボンの関係性を探究したカーペットコレクション。Bead(ビーズ)、Tangle(もつれ)、Bow(リボン)といったバリエーションを展開し、「パターンの基本構造を創造する本質」を追求した作品群である。糸を紡ぐ手の遊び心、形態の習熟、技法の妙を体現し、目に見えない糸が構造を創り出し、色鮮やかなビーズを所定の位置に留めているかのような錯覚を生み出す。ポリアミドまたはウールにデジタルプリントされ、インテリアに真の遊び心をもたらすコレクションとして評価されている。
Ravel コレクション(Moooi Carpets)
印刷のイリュージョンとテキスタイルのリアルな質感が交差する領域を探求したカーペットコレクション。ほどけた糸を多彩な色調で仕分け、再配列するという着想から生まれた。Un-Roll(解きほどく)とRe-Mingle(再び交じり合う)の二つのシリーズで構成され、色の混合とグラデーションがクレール・ヴォスならではのシグネチャーを形成している。Re-Mingleでは、ほどかれ折り畳まれた糸が集まり「島」を形成する美しさが表現されている。
Collage コレクション(HC28 Cosmo)
中国の家具ブランドHC28 Cosmoのためにデザインしたカーペットコレクション。新しい形を視覚的に「折り畳む」ようにして現代的なカーペットシリーズを形成するという着想から出発し、異なるパイル高を遊び心豊かに組み合わせたバランスのとれたコンポジションを実現。ナチュラルトーンに、シグネチャーであるブラックやターコイズ、ソフトイエローといったアクセントカラーを組み合わせている。
TRENA ファブリック(2025年 / Crevin × Studio Roderick Vos)
スペインのテキスタイルメーカー、クレヴィンとの協働により開発されたサステナブルなニットファブリック。インドネシアの伝統的な竹マットの外観を再現し、家具全体が編み上げられているかのような視覚的・触覚的体験を生み出す。リサイクル糸を一部使用し、省エネルギー技術で生産される。バリ文化と自然の要素にインスピレーションを得た14色のカラーパレットで展開。クレヴィン社が1976年の創業以来、外部デザイナーに委託した僅か2例目のファブリックデザインである。
アートディレクションとしての功績
2016年より、クレールとロデリックはオランダの家具ブランドPODE(レオルックス・ファニチャー・グループ傘下)のアートディレクターに就任。コレクションの構成にとどまらず、ブランドのDNAそのものを統括し、デザイン、写真、展示会出展、コレクション開発に至るまで包括的なクリエイティブ・ディレクションを担っている。革新性、商業的実現可能性、アイデンティティ、そして何よりも直感を重視しながら、長く魅力を保ち続けるフォルムを選び抜くその姿勢は、ブランドの国際的な認知度向上に大きく寄与している。
ブロイケレンのレオルックス・エクスペリエンス・センター内に設けられた世界最大のPODE展示スペースや、ドイツ・クレーフェルトのレオルックス・デザイン・センター内のPODEエクスペリエンスは、クレールとロデリックのビジョンに基づいて設計されたものであり、ブランドの世界観を空間として具現化した成果として高く評価されている。
功績と受賞
スタジオ・ロデリック・ヴォスとしての活動を通じ、クレールとロデリックの作品は数々の国際的な評価を受けている。HC28 Cosmoのために手がけたTwisty ChairはElle Deco International Design Award(EDIDA CHINA 2023/24)のベスト・ファニチャー部門を受賞し、さらにGerman Design Award 2024およびArchiproducts Design Awardも獲得した。
彼らの作品はアムステルダム市立美術館(Stedelijk Amsterdam)やニューヨークのミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザイン(Museum of Arts & Design New York)といった著名な美術館に収蔵されている。
展示活動においても、デザイン・マイアミ/バーゼル、PADパリ、MIAマイアミ国際アートフェア、NOMADサンモリッツ、PANアムステルダム、ブルックス・ミューズ・ロンドン、オブジェクト・ロッテルダム、ダッチ・デザイン・ウィーク(2010年、2023年)、CIFFファニチャー・フェア上海(2022年、2023年)、サローネ・デル・モビレ・ミラノ(2001年、2023年)、メゾン・エ・オブジェ・パリ(2010年、2023年)、ミラノ・デザイン・ウィーク(2001年、2023年)など、世界各地の主要デザインイベントに出展を重ねている。
2024年には、スタジオ・ロデリック・ヴォス設立25周年を迎え、四半世紀にわたる創作活動の集大成が広く紹介された。
後世への影響と評価
クレール・ヴォスは、テキスタイルデザインとデジタル技術の融合において先駆的な役割を果たしたデザイナーとして、現代のインテリアデザイン界において独自の位置を占めている。伝統的な織物技法への深い造詣をデジタルプリンティングの最先端技術と結びつけ、カーペットデザインの可能性を大きく拡張した功績は、世界のテキスタイル業界において広く認められている。
Moooi Carpetsにおけるデジタルプリントカーペットの一連の作品群は、カーペットを単なる床材から空間を定義するアート作品へと昇華させるものであり、自然のモチーフを流動的なパターンに変換するリキッド・テクニックは、パターンデザインに新たな方法論をもたらした。
また、スタジオ・ロデリック・ヴォスのパートナーとして、プロダクトデザインとブランドディレクションの両面において、夫婦共同のクリエイティブ・スタジオという協働のあり方そのものが、現代のデザインスタジオの一つのモデルとして注目されている。デザイン、PR、ブランド構築、アートディレクションという多面的な能力を兼ね備えたクレールの姿は、デザイナーの職能が多様化する現代において、一つの理想的なキャリアパスを示している。
| 年月 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1999年 | スタジオ設立 | Studio Roderick Vos 設立(ロデリック・ヴォスとの共同) | — |
| 2001年 | 椅子 | Sari Chair | Driade |
| 2010年代 | 照明 | Mr. Ed(ブックエンド兼照明) | Functionals |
| 2010年代 | 照明 | Lighthouse(照明) | Studio Edition |
| 2010年代 | サイドテーブル | Bijou(サイドテーブル) | Studio Edition |
| 2010年代 | テーブル | Isola(テーブル) | Linteloo |
| 2010年代 | ベンチ | Broadway(ベンチ) | Linteloo |
| 2010年代 | テキスタイル | カーペットコレクション(レリーフパイルデザイン) | Leolux |
| 2010年代 | 陶器 | Mama Knotted | Cor Unum |
| 2016年 | アートディレクション | PODEブランド アートディレクター就任 | PODE / Leolux Furniture Group |
| 2018–2019年 | カーペット | Yarn Box コレクション(Bead / Tangle / Bow) | Moooi Carpets |
| 2019年 | テキスタイル | Swell(テキスタイル/クッション) | PODE |
| 2020年代 | キャビネット | Montigny Cabinet | Château de la Resle |
| 2021年 | カーペット | Liquid Layers コレクション(Agate / Pebble / Tulip / Marl) | Moooi Carpets |
| 2022年〜 | カーペット | Liquid Layers 拡張(Ara / Flint) | Moooi Carpets |
| 2023年 | 椅子 | Twisty Chair(ロデリック・ヴォスとの共同) | HC28 Cosmo |
| 2023年 | カーペット | Ravel コレクション(Un-Roll / Re-Mingle) | Moooi Carpets |
| 2023–2024年 | カーペット | Collage コレクション | HC28 Cosmo |
| 2024年 | テーブル | Mitchell Table | QLIV |
| 2024年 | コーヒーテーブル | Scala Coffee Table | Studio Roderick Vos |
| 2024年 | 椅子 | Twisty MINI | HC28 Cosmo |
| 2024年 | 椅子 | Kaboom Chair | Fatboy |
| 2025年 | テキスタイル | TRENA ファブリック | Crevin |
Reference
- About Us | Studio Roderick Vos
- https://www.roderickvos.nl/about
- Claire Vos - Moooi Carpets
- https://www.moooicarpets.com/designers/claire-vos/
- Claire Vos - Moooi
- https://www.moooi.com/us/designer/claire-vos
- Claire Vos - designer profile | STYLEPARK
- https://www.stylepark.com/en/designer/claire-vos
- Claire Vos - Designer / Art Director / founder Studio Roderick Vos | The Org
- https://theorg.com/org/studio-roderick-vos/org-chart/claire-vos
- WOTH | Claire Vos
- https://www.woth.co/people/claire-vos/
- Claire Vos: Switch Modern
- https://www.switchmodern.com/category/claire-vos
- Studio Roderick Vos 25 years! - Dutch Design Daily
- https://dutchdesigndaily.com/stories/studio-roderick-vos-25-years/
- Studio Roderick Vos – Vertigo Home
- https://www.vertigohome.us/collections/studio-roderick-vos
- Molinari Design | Studio Roderick Vos
- https://www.molinaridesign.com/studio-roderick-vos
- Studio Roderick Vos | Functionals
- https://www.functionals.eu/en/roderick-vos
- Liquid Layers Collection - Moooi Carpets
- https://www.moooicarpets.com/collections/liquid-layers-collection/
- Yarn Box Collection - Moooi Carpets
- https://www.moooicarpets.com/collections/yarn-box-collection/
- Ravel Collection (Re-Mingle) - Moooi Carpets
- https://www.moooicarpets.com/product/re-mingle-i/
- STUDIO RODERICK VOS | Bolia
- https://www.bolia.com/en/this-is-us/design-philosophy/our-designers/all-designers/studio-roderick-vos/
- HC28 COSMO presents the AI-generated TWISTY MINI chair | Archiproducts
- https://www.archiproducts.com/en/news/hc28-cosmo-presents-the-ai-generated-twisty-mini-chair_103158
- Spanish textile company Crevin launches sustainable knit fabric with Studio Roderick Vos - Design News Now
- https://designnewsnow.com/spanish-textile-company-crevin-launches-sustainable-knit-fabric-with-studio-roderick-vos/
- The history of Leolux
- https://www.leolux.com/about-leolux/history
- Stories | Studio Roderick Vos
- https://www.roderickvos.nl/stories