Porro(ポッロ) ─ 木の文化を継承するイタリアンデザインの100年
1925年、イタリア・ブリアンツァの小さな町モンテソラーロ・ディ・カリマーテで、ジュリオとステファノのポッロ兄弟が創業した家具工房。それが、今日世界60カ国以上に600を超える販売拠点を持つイタリアンデザインファニチャーブランド「Porro(ポッロ)」の原点である。創業から一世紀を迎えた2025年、Porroは4世代にわたるファミリー経営を貫きながら、木材への深い造詣と先端テクノロジーの融合によって、イタリアンデザインの最前線に立ち続けている。
ブルーノ・ムナーリ、ピエロ・リッソーニ、ジャン・マリー・マッソー、GamFratesi、アレッサンドロ・メンディーニといった錚々たるデザイナーとの協働を通じて生み出されるプロダクトは、ミニマリズムの美学と卓越した職人技を両立させたものばかりである。ワードローブやブックシェルフなどのシステム家具から、テーブル、チェア、ベッドに至るまで、Porroのコレクションは住空間のあらゆる領域を網羅し、オーダーメイドの柔軟性と工業製品としての精度を兼ね備えている。
ブランドの特徴・コンセプト
Porroのデザイン哲学は、「引き算の美学」に集約される。アートディレクターのピエロ・リッソーニは、すべてのPorro製品は引き算の結果であり、段階的な簡素化のプロセスから生まれると語る。複雑なシステム家具であっても、その根底にあるのは一貫性と簡素化という極めてシンプルな美的ビジョンであり、そこに最高品質への妥協なき追求が加わることで、Porroならではの静謐で洗練された空間が実現する。
木材への深い造詣
Porroを語る上で欠かすことのできない要素が、木材に対する卓越した知識と技術である。イタリア高級家具製造の聖地ブリアンツァに根ざすPorroは、木材の選定・加工・解釈において類稀な能力を有している。毎年更新される木材のセレクションは、ポッロ家のメンバーとアートディレクターのピエロ・リッソーニが自ら管理し、伝統的な精緻な木工技法と最先端のラッカー技術を融合させることで、驚くほど幅広く精緻な仕上げのバリエーションを実現している。近年ではサステナビリティへの取り組みとして、廃材から得られるホワイトポプラ材の活用など、環境に配慮した素材選定にも力を注いでいる。
システム家具という建築的アプローチ
Porroの生産の約70%はシステム家具で構成されている。デイエリアおよびナイトエリアのための壁面収納、ワードローブ、ウォークインクローゼット、ブックシェルフといったシステム家具群は、単なる収納家具にとどまらず、空間そのものを設計するツールとして位置づけられている。見えないヒンジ、プッシュプル式の開閉機構、壁面固定の隠蔽処理、ボールベアリングによる静音ドロワーなど、多くの独自技術を特許取得しており、Porroの空間はほぼ無音でリラックスした生活を可能にする。
テーラーメイドの柔軟性
Porroの製品は、工業製品としての品質保証(認証、納期、価格の安定性、耐久性)を備えながら、オートクチュールに見られるような柔軟なカスタマイズ性を兼ね備えている。マリア・ポッロは、この「インダストリアルとオートクチュールの融合」こそがPorroの未来にとって最も重要な方向性であると語っている。
ブランドヒストリー
第1世代:職人技と木への情熱(1925年〜)
1925年、熟練した家具職人であったジュリオとステファノのポッロ兄弟は、ミラノ北部ブリアンツァ地方のモンテソラーロ・ディ・カリマーテに小さな工房を開設した。ミラノの新興ブルジョワジーに向けて、木材への深い愛情を注いだオーダーメイド家具を一点一点丹精込めて制作し、地元の顧客から高い評価を獲得していった。
第2世代:モダンスタイルへの転換(1950年代〜)
第二次世界大戦後の経済成長期、第2世代のカルロ、アルトゥーロ、シルヴィオの3兄弟が事業を継承した。建築家ジュリオ・モスカテッリとの実りある協働のもと、1955年にはポッロ家の邸宅に隣接する新工場を設計。伝統的な家具からモダンスタイルへの転換を図り、成長する社会のニーズに応えるベッドルーム家具の生産を開始した。
ブルーノ・ムナーリとの出会い(1960年代)
1960年代、工業化の波に対応して1968年に新工場を建設するとともに、当時のイタリアを代表する知性と協働を始めた。1966年、カントゥの美術学校で講義を行っていたブルーノ・ムナーリにコーポレートロゴのデザインを依頼。ムナーリは「Porro」の2つの「o」を上から見たネジに変換するという着想を得た。木工会社のシンボルにその最も代表的な道具を組み込んだ、簡潔にして天才的なデザインである。また、ムナーリはこのロゴを意図的に小さなサイズで使用することを決めた。これはポッロ家の控えめで謙虚な姿勢を反映したものであった。ムナーリはまた1962年にフードトロリー「Cubovo」をデザインしており、このプロダクトは後に1990年代にプロトタイプが制作され、2008年に正式に復刻されている。
第3世代:デザインの時代(1980年代〜)
1980年代に第3世代のロレンツォ、ファビオ、ジョヴァンニ、ダニーロの4人の従兄弟が経営に参画すると、デザインが企業アイデンティティの中核を担うようになった。とりわけ1989年にアートディレクターに就任したピエロ・リッソーニとのパートナーシップは、Porroの歴史における決定的な転換点となった。1994年にはリッソーニによるFerroテーブルが誕生し、ブランドの象徴的プロダクトとなる。ドイツ・ケルン家具見本市への出展、ドイツ人デザイナーのヴォルフガング・トルクやヴェルナー・アイスリンガーとの協働、ドイツ市場への進出など、国際化戦略も本格化した。
2000年代:グローバル展開と新たな協働
2000年、14,000平方メートルの新倉庫を建設し生産拠点を拡大。2004年にはミラノのヴィア・ドゥリーニ15番地に初のモノブランドショップをオープンした(2023年にヴィア・ヴィスコンティ・ディ・モドローネ29番地に移転)。2007年にはBoffi、Living Divaniと共同で「BY」プロジェクトを発足し、ニューヨーク、ミュンヘン、ロサンゼルス、リヨンに複合ショールームを展開。完全な住空間ソリューションを提案する新たなリテールモデルを構築した。
クリストフ・ピエ、ジャン・マリー・マッソー、Front、アレッサンドロ・メンディーニ、Soda Designers、GamFratesi、ガブリエーレ&オスカー・ブラッティ、田村奈穂、Neri & Huなど、国際的なデザイナーとの協働をさらに広げ、多様な感性と一貫したブランドイメージを両立させるカタログを充実させていった。
第4世代と創業100周年(2014年〜)
2014年、創業家の第4世代であるマリア・ポッロが入社。マーケティング&コミュニケーション責任者として、新世代ならではのエネルギーとサステナビリティへの強い意識をブランドにもたらした。2021年にはサローネ・デル・モビレ・ミラノの会長に就任。59年の歴史を持つ世界最大のデザイン見本市において、史上初の女性会長として国際的な注目を集めた。同じく第4世代のジョヴァンニ、ジュリオ、ベアトリーチェの各ポッロも品質管理、調達、経営といった各分野で活躍し、ブランドのグローバル展開を加速させている。
2024年にはニューヨーク・NoMad地区に米国初のショールームをオープン。2025年には創業100周年という歴史的なマイルストーンを迎え、一世紀にわたるイタリアンデザインへの貢献を祝した。
主なインテリアとその特徴
Ferro テーブル(1994年 / デザイン:Piero Lissoni)
Porroを代表するアイコニックなテーブル。ピエロ・リッソーニが飛行機の翼の曲線からインスピレーションを得てスケッチしたという逸話を持つ。曲げ溶接されたシートメタルから成る彫刻的なフォルムは、ダイニングテーブルとしての機能性とオブジェとしての存在感を両立させている。1994年の発表以来、Porroのベストセラーであり続け、後にローテーブル(H400mm)のバリエーションも加わった。グロッシーホワイト、ブラック、ブロンズエフェクト、ステンレススチール、塗装仕上げなど多彩なカラーバリエーションを展開。固定サイズおよびカスタムサイズに対応し、屋外用バリアントも用意されている。
Load-it ブックケース(1995年 / デザイン:Wolfgang Tolk)
空間を切り裂くように突き出すシェルフが特徴的なPorroのクラシック。冷間曲げ加工されたL字型スチールシェルフを構造要素とする極めてシンプルなコンセプトでありながら、壁面パネルとの組み合わせにより無限の構成が可能なモジュラーシステムである。当初は壁と一体化する完全ホワイトのブックケースとして構想され、本が空中に浮いているかのようなイリュージョンを生み出した。時代とともに新素材・新仕上げを取り入れながらも、そのアイコニックな存在感と表現力を失うことなく進化を続けている。
Modern システム(1996年 / デザイン:Piero Lissoni + CRS Porro)
キッチンの壁面ユニットをリビングエリアに持ち込むという着想から生まれた、コンテナとサスペンドトップのデイシステム。「正方形のマトリックスを時間とともに増殖させる」という数学的モデルに基づき、厳選された仕上げ、木目の突板とラッカーの洗練されたミックス、そして無限のカスタマイズにより、使う人の個性を反映する空間を創り出す。1996年の発表から現在まで、時代に合わせて進化し続けるPorroの中核的システムである。
Storage ワードローブシステム(2000年 / デザイン:Piero Lissoni + CRS Porro)
クローゼット、オープンワードローブ、ウォークインクローゼットを包括する収納システム。スライドドア「Glide」シリーズとの組み合わせにより、透明ガラスドア、ミラーストライプガラスなど多彩な表情を演出する。照明付きハンギングレール、革新的な開閉機構、コーナーワードローブなど、機能面でも継続的な革新が図られている。Porroのシステム家具の中でも、最も建築的なスケールを持つプロダクト群である。
Cubovo フードトロリー(デザイン:1962年 / 復刻:2008年 / デザイン:Bruno Munari)
20世紀イタリアの巨匠ブルーノ・ムナーリが1962年にデザインしたフードトロリー。ラッカー仕上げの木製構造と強化ガラスの天板、4つのフラップ扉を備えたコンパクトな立方体フォルムが特徴的である。長らく未生産であったが、1990年代にプロトタイプが制作され、2008年の「Spazio-Tempo」展に際して正式に復刻。フードトロリーとしてだけでなく、ベッドサイドテーブルとしても使用できるアイコニックなプロダクトである。
Romby チェア(2020年 / デザイン:GamFratesi)
コペンハーゲンを拠点とするデザインスタジオGamFratesiによる、アート・装飾・デザインの交差点に位置するチェア。菱形(ロンボ)という二次元の幾何学図形を三次元の家具に翻訳するという挑戦から生まれた。当初はアッシュ無垢材の截頭円錐形ベースとスイベルシートの組み合わせであったが、その後ブラックステインドアッシュの4本脚バージョンも追加。212種類以上のファブリックおよびレザーから選択可能であり、ダイニングチェアとしてもラウンジチェアとしても高い評価を得ている。
Synapsis テーブル(デザイン:Jean Marie Massaud)
フランスの建築家ジャン・マリー・マッソーによるダイニングテーブル。クロームスチールの彫刻的な脚部とウォールナット天板の組み合わせが、ミニマルでありながら圧倒的な存在感を放つ。Porroの「外部デザイナーとの対話」という姿勢を体現するプロダクトの一つである。
Kite ソファ&アームチェア(デザイン:GamFratesi)
GamFratesiによるソファおよびアームチェアのコレクション。デンマークの繊細さとイタリアの感性が融合した、Porroのアップホルスタリーコレクションを代表するプロダクトである。2024年のニューヨークショールームオープニングにおいても、ブランドの象徴として展示された。
主なデザイナー
Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)
1989年よりPorroのアートディレクターを務める建築家・デザイナー。Ferroテーブル、Modernシステム、Storageシステム、Metallico テーブル、Makuraベッド、Neveチェア、Spindleチェアなど、Porroの代表的プロダクトの大半をデザインしている。Good Design Award、Red Dot Award、Compasso d'Oro ADIなど数々の国際的な賞を受賞。30年以上にわたりPorroのデザイン言語を定義し、ブランドの国際的成長を牽引してきた最も重要な人物である。世界各地のフラッグシップショールームのキュレーションも手がける。
Bruno Munari(ブルーノ・ムナーリ)
20世紀イタリアを代表するアーティスト、デザイナー、グラフィックデザイナー(1907〜1998年)。1966年にPorroのコーポレートロゴをデザインし、Cubovo フードトロリー(1962年デザイン)を手がけた。絵画、彫刻、映画、工業デザイン、グラフィック、文学、教育と多岐にわたる分野で革新的な貢献を果たした「レオナルド的」知性であり、Porroとの協働はブランドの視覚的アイデンティティの基盤を築いた。
GamFratesi(ガムフラテージ)
デンマーク人のスティーネ・ガムとイタリア人のエンリコ・フラテージによるコペンハーゲン拠点のデザインスタジオ。Rombyチェア、Kiteソファ&アームチェア、Voyageチェアなど、デンマークの繊細さとイタリアの感性を融合させたプロダクトでPorroのコレクションに新たな次元をもたらしている。
Wolfgang Tolk(ヴォルフガング・トルク)
ドイツ人デザイナー。1995年発表のLoad-itブックケースシステムは、Porroのアイコニックプロダクトの一つとして現在も進化を続けるカルト的存在である。Porroの国際化戦略における最初期の重要な外部デザイナーの一人。
Jean Marie Massaud(ジャン・マリー・マッソー)
フランスの建築家・デザイナー。Synapsisテーブル、Liplaベッドなど、ミニマルでありながら彫刻的な存在感を持つプロダクトをPorroのためにデザインしている。
その他の主要デザイナー
Porroはこのほかにも、Werner Aisslinger(ヴェルナー・アイスリンガー)、Christophe Pillet(クリストフ・ピエ)、Alessandro Mendini(アレッサンドロ・メンディーニ / Lineaシリーズ)、Front(Gentleチェア、Ellipseテーブル、Drapedチェア)、Gabriele & Oscar Buratti(Galleryサイドボード、Hubナイトスタンド)、Nao Tamura(田村奈穂 / Origataシリーズ、Ryoブックケース)、Piergiorgio Cazzaniga(ピエルジョルジョ・カッツァニーガ)、Ferruccio Laviani(フェルッチオ・ラヴィアーニ)、Elisa Ossino(エリーザ・オッシーノ)、LucidiPevere、Neri & Huなど、多彩な国際的デザイナーとの協働を展開している。
受賞歴・評価
Porroおよびそのデザイナーは、数々の国際的なデザイン賞を受賞している。FrontによるGentleチェアが2013年のElle Decor International Design Awards(EDIDA)を、Mikadoサイドボードが2014年の同賞を受賞。アートディレクターのピエロ・リッソーニはGood Design Award、Red Dot Award、Compasso d'Oro ADIを受賞しており、Porroの製品デザインにおける卓越性は国際的に高く評価されている。
基本情報
| ブランド名 | Porro(ポッロ) |
|---|---|
| 設立 | 1925年 |
| 創業者 | ジュリオ・ポッロ、ステファノ・ポッロ |
| 本社所在地 | イタリア、ロンバルディア州ブリアンツァ地方 モンテソラーロ・ディ・カリマーテ |
| アートディレクター | Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ / 1989年就任) |
| 現経営世代 | 第3世代(Lorenzo, Fabio, Giovanni, Danilo Porro)および第4世代(Maria, Giovanni, Giulio, Beatrice Porro) |
| 従業員数 | 100名以上 |
| 販売拠点 | 世界60カ国以上、600店舗超 |
| 主要ショールーム | ミラノ(Via Visconti di Modrone 29)、ニューヨーク(31 East 31st Street)、ロンドン(Coal Office, King's Cross) |
| 主要製品カテゴリ | システム家具(ワードローブ、ブックシェルフ、壁面収納)、テーブル、チェア、ベッド、サイドボード、アクセサリー |
| 公式サイト | https://www.porro.com |