ポルトロノヴァ(Poltronova)

ポルトロノヴァは、1957年にイタリア・トスカーナ州アリアーナで創業した、イタリアンデザイン史における最も革新的な家具ブランドのひとつです。「ラディカル・デザイン」運動の中核を担い、従来の家具デザインの概念を根本から覆す実験的作品を次々と世に送り出してきました。

創業者セルジオ・カンミッリの先見性と、1958年からアートディレクターを務めたエットレ・ソットサスの創造的指導のもと、ポルトロノヴァはブルジョワ的な住空間の常識に挑戦し、自由・皮肉・遊び心に満ちた新しいデザイン言語を確立しました。その革新性は世界中の美術館やコレクターから高く評価され、今日においてもイタリアンデザインの象徴として愛され続けています。

ブランドの特徴とコンセプト

ポルトロノヴァの製品は、機能性と芸術性の境界を曖昧にする大胆なアプローチによって特徴づけられます。ポップアートからの影響を受けた鮮やかな色彩、従来の家具の枠組みを逸脱した有機的なフォルム、そして日常のオブジェクトをスケールアップするシュルレアリスティックな手法は、単なる家具を超えた「住空間に置かれた彫刻」としての存在感を放ちます。

同ブランドは「The Dream Factory(夢の工場)」を標榜し、トスカーナの伝統的な職人技と現代的な製造技術を融合させた生産体制を維持しています。すべての製品は受注生産方式で製作され、細部に至るまで厳格な品質管理のもと、熟練した職人の手によって仕上げられます。

ブランドヒストリー

創業期(1957年〜1960年代前半)

1957年、アート愛好家であり起業家であったセルジオ・カンミッリは、トスカーナ州ピストイア県アリアーナに家具製造会社ポルトロノヴァを設立しました。翌1958年、ビトッシ陶器のアートディレクターとしてトスカーナで活動していたエットレ・ソットサスと出会い、彼をポルトロノヴァのアートディレクターに招聘します。

創業初期は、スカンジナビアンデザインに通じるモダンで洗練された木製家具を中心に製作していましたが、カンミッリとソットサスはより実験的で挑発的なデザインへの志向を共有していました。1966年、ソットサスは色鮮やかなストライプのプラスチックラミネートで覆われた「Superbox」シリーズを発表し、ポストモダニズムへの転換点を刻みました。

ラディカル・デザインの黄金期(1966年〜1970年代)

1966年12月4日、フィレンツェを襲った大洪水からわずか1か月後、新進気鋭の建築家グループ「アーキズーム」と「スーペルストゥディオ」がピストイアのギャラリー・ジョリー2で「スーペルアルキテットゥーラ」展を開催しました。この展覧会を訪れたカンミッリとソットサスは、若き前衛芸術家たちの才能に深い感銘を受け、即座に彼らをポルトロノヴァに招き入れます。

この邂逅により、ポルトロノヴァは「ラディカル・ファクトリー(急進的な工場)」として知られるようになり、デザイン史に残る数々のアイコニックな作品を生み出しました。アーキズームによる波打つフォルムの「Superonda」ソファ、スーペルストゥディオの「Sofo」や「Gherpe」ランプ、そしてソットサス自身による「Ultrafragola」ミラーなど、革命的な作品が次々と誕生しました。

この時期、ポルトロノヴァの本社では詩人アレン・ギンズバーグによるポエトリー・リーディングや瞑想ワークショップなども開催され、芸術家やデザイナーが集う創造的なサロンとしても機能しました。

転換期と再生(1970年代〜現在)

1970年代半ば以降、カンミッリとソットサスが去った後、ポルトロノヴァは経営陣の交代を経て、より商業的な方向へと舵を切りました。1980年代にはハンス・ホラインやパオロ・ポルトゲージといったポストモダン建築家との協働、1990年代にはロン・アラッドやナイジェル・コーツなど新世代デザイナーとの協働を続けましたが、1980年代半ばには経営難に陥ります。

1985年、フィレンツェ大学建築学部でジャンニ・ペッテーナ教授のもと学んでいたロベルタ・メローニは、ポルトロノヴァの歴史に魅せられ、同社についての論文を執筆しました。1990年代に経営権を取得した彼女は、2001年に経営責任者、2005年にはCentro Studi Poltronova(ポルトロノヴァ研究センター)を設立し、歴史的アーカイブの保存と名作家具の復刻生産を開始しました。

現在、Centro Studi Poltrnovaはアートディレクターのドナテッロ・ダンジェロのもと、歴史的アーカイブの管理、展覧会への協力、受注生産による名作家具の製造を行っています。2025年には、ベサン・ローラ・ウッドとの新規コラボレーション「Terrazzo Quarry」を発表するなど、新たな創造的展開も続けています。

代表的な作品

Ultrafragola(ウルトラフラゴーラ)

1970年にエットレ・ソットサスがデザインした「Ultrafragola」は、波打つシルエットが特徴的なミラー兼照明器具です。イタリア語で「超いちご」を意味するこの作品は、女性の髪を思わせる有機的なフォルムと、縁を照らすネオンライトによって、幻想的な雰囲気を醸し出します。同年のミラノ・エウロドムス3にてソットサスの「Mobili Grigi(灰色の家具)」シリーズの一部として発表され、現在では世界中で最も認知されるデザインアイコンのひとつとなっています。

Superonda(スーペロンダ)

1967年にアーキズーム・アソチアーティがデザインした「Superonda」は、従来のフレーム構造を持たない革命的なソファです。直方体をS字型に切断して生まれた2つの「波」が組み合わさり、ソファ、ベッド、シェーズロングとして多様な使い方が可能です。イタリア語で「スーパー波」を意味するこの作品は、軽量なポリウレタンフォームと光沢のあるレザーレット素材により、ポップでありながら機能的な存在感を放ちます。ブルジョワ的な家具の概念に挑戦し、使用者の創造性と自由を解放する作品として、ラディカル・デザインの象徴となりました。

Joe(ジョー)

1970年にデ・パス、ドゥルビーノ、ロマッツィのスタジオDDLがデザインした「Joe」は、巨大な野球グローブの形をしたアームチェアです。アメリカの伝説的野球選手ジョー・ディマジオへのオマージュとして生まれたこの作品は、ポップアートの詩学を家具デザインに昇華させた傑作です。大胆なスケールの転換により、日常のオブジェクトを居心地の良い座る場所へと変容させ、現実と超現実の境界を曖昧にします。2020年には50周年を記念して、野球ボール型のプーフ「Joe Ball」も発表されました。

Mies(ミース)

1969年にアーキズーム・アソチアーティがデザインした「Mies」アームチェアは、同年に他界した巨匠ミース・ファン・デル・ローエへの控えめなオマージュです。クローム仕上げの金属による幾何学的な三角形のフレーム、ゴムストリップのシート、そしてポニースキンのクッションという、硬質と柔軟の対比が特徴的です。アーキズームのメンバーの結婚祝いとして誕生したという逸話も残る、厳格な幾何学と意外な快適性を兼ね備えた作品です。

Sofo(ソフォ)

1968年にスーペルストゥディオがデザインした「Sofo」は、S字型に分割されたポリウレタンブロックを、大胆な二色のストライプ生地で覆ったアームチェアとソファです。アドルフォ・ナタリーニが述べたように、「列車のように並べたり、山や玉座を築いたりできる」モジュラー式のデザインは、素材も知性も無駄にしない極めてシンプルな操作から生まれました。「少しの喜びを持つすべてのものが別世界から来たように見える」という、ラディカル・デザインの本質を体現した作品です。

主なデザイナー

エットレ・ソットサス(Ettore Sottsass Jr.)
1917年オーストリア生まれのイタリア人建築家・デザイナー。1958年から1970年代前半までポルトロノヴァのアートディレクターを務め、ブランドの美学的方向性を確立しました。後にメンフィス・グループを創設し、ポストモダンデザインの旗手として世界的名声を確立しました。
アーキズーム・アソチアーティ(Archizoom Associati)
1966年にフィレンツェで結成された前衛建築・デザイン集団。アンドレア・ブランツィ、ジルベルト・コレッティ、パオロ・デガネッロ、マッシモ・モロッツィらで構成され、Superonda、Mies、Sanremoなどの名作を生み出しました。
スーペルストゥディオ(Superstudio)
1966年にフィレンツェで結成されたラディカル・デザインの代表的グループ。アドルフォ・ナタリーニ、クリスティアーノ・トラルド・ディ・フランシアらによって設立され、Sofo、Gherpe、Passifloraなどの作品を手がけました。
デ・パス、ドゥルビーノ、ロマッツィ(De Pas, D'Urbino, Lomazzi / DDL)
ジョナサン・デ・パス、ドナート・ドゥルビーノ、パオロ・ロマッツィによって1966年にミラノで設立されたデザインスタジオ。Joeアームチェアをはじめ、ポップアートの影響を色濃く反映した作品で知られます。
ガエ・アウレンティ(Gae Aulenti)
イタリアを代表する女性建築家・デザイナー。パリ・オルセー美術館の改修設計でも知られる彼女は、ポルトロノヴァでは「Stringa」ソファや「Locus Solus」シリーズを手がけました。
ジョヴァンニ・ミケルッチ(Giovanni Michelucci)
イタリア・モダニズム建築の巨匠。フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅の設計者として知られ、ポルトロノヴァでは「Torbecchia」シリーズの家具をデザインしました。
アンジェロ・マンジャロッティ(Angelo Mangiarotti)
構造とディテールの革新性で知られるイタリアの建築家・デザイナー。ポルトロノヴァの初期製品にも貢献しました。
レッラ&マッシモ・ヴィニェッリ(Lella and Massimo Vignelli)
イタリア系アメリカ人の夫婦デザイナーチーム。グラフィックから家具まで幅広い分野で活躍し、ポルトロノヴァでは「Saratoga」ソファ(1964年)を手がけました。
ハンス・ホライン(Hans Hollein)
オーストリアの建築家。1985年プリツカー賞受賞。ポルトロノヴァでは1981年に「Mitzi」ソファをデザインしました。
ロン・アラッド(Ron Arad)
イスラエル出身の建築家・デザイナー。1990年代以降ポルトロノヴァと協働し、「Split」エクステンドテーブルなどをデザインしました。
ナイジェル・コーツ(Nigel Coates)
イギリスの建築家・デザイナー。ポルトロノヴァでは「Plasma」アームチェア&フットレストを手がけました。
ベサン・ローラ・ウッド(Bethan Laura Wood)
イギリスの現代デザイナー。2025年、「Terrazzo Quarry」でポルトロノヴァとの新規コラボレーションを発表しました。

主な受賞歴と展覧会

  • 1957年:コンパッソ・ドーロ(ルチアーノ・ヌストリーニによるスツール)
  • 1965年:「La Casa Abitata」展(フィレンツェ)に出展
  • 1970年:Smau賞(エットレ・ソットサスによる「Teknica」オフィスチェア)
  • 1970年:「Eurodomus 3」展(ミラノ)に出展
  • 1972年:ニューヨーク近代美術館「Italy: The New Domestic Landscape」展に出展
  • 1977年:コンパッソ・ドーロ(書籍『Fare Mobili con Poltronova』)
  • 1984年:Top Ten賞(プロスペロ・ラズーロによる「She」アームチェア)

基本情報

正式名称 Centro Studi Poltronova per il Design
設立 1957年
創業者 セルジオ・カンミッリ(Sergio Cammilli)
現CEO ロベルタ・メローニ(Roberta Meloni)
所在地 イタリア トスカーナ州ピストイア県アリアーナ(Agliana)
公式サイト https://www.poltronova.it/