Menu(メニュー)― ソフトミニマリズムが導くデンマークデザインの新潮流

Menuは、1979年にデンマーク・フレゼンスボーで創業されたデザインブランドである。「世界をより美しく、より複雑でなく、朝目覚めるのが少し楽しくなるような場所にする」という明快な理念のもと、スカンディナヴィアンデザインの伝統を現代の暮らしに接続する家具、照明、キッチンウェア、インテリアアクセサリーを展開してきた。創業から三世代にわたるハンセン家の情熱と、世界各国の才能あるデザイナーたちとの協働により、Menuは「ソフトミニマリズム」と称される独自の美学を確立し、デンマークデザインを代表するブランドの一つへと成長を遂げた。2023年6月、同じくデンマークの名門ブランド「by Lassen」と統合し、「Audo Copenhagen(オウド コペンハーゲン)」として新たな章を開いている。

ブランドの特徴・コンセプト

Menuのデザイン哲学の核心にあるのは「ソフトミニマリズム(Soft Minimalism)」という概念である。これは、過度な装飾を排しながらも冷たさや無機質さに陥ることなく、温もりと親密さを備えたデザインを追求する姿勢を指す。素材の質感を活かした穏やかなカラーパレット、洗練された曲線と直線の均衡、そして日常の所作に寄り添う機能性――これらが渾然一体となったMenuのプロダクトは、北欧デザインの伝統に根ざしながらも、グローバルな現代生活にふさわしい普遍性を備えている。

Menuが一貫して重視してきたのは、デザインに「新しい機能」「新しい素材」「新しい製造方法」のいずれかを必ず宿すことである。この原則により、既存の製品カテゴリであっても既成概念に囚われない革新的なアプローチが生まれ、Bottle GrinderやWine Breather Carafeといった従来の台所用品の概念を覆すプロダクトが誕生した。また、世界6カ国以上から20名を超えるデザイナーと協働するオープンなコラボレーション体制も、Menuの創造性の源泉となっている。

さらに、Menuは社会的責任の観点からも先駆的な取り組みを行ってきた。デンマーク外務省の開発協力機関Danidaと連携し、ネパールにおける女性の自立支援プロジェクトを推進。現地の伝統的なカシミア織の技術を活かしたテキスタイル製品の開発・生産を通じて、搾取の危機にある若い女性たちに持続可能な生計手段を提供するという、デザインの社会的意義を体現する活動を展開した。

ブランドヒストリー

創業期:Danish Steel House(1979年〜1990年代)

Menuの歴史は、1979年にサイモン・ハンセン(Simon Hansen)がデンマーク・フレゼンスボーに設立した「Danish Steel House(ダニッシュ・スティール・ハウス)」に遡る。同社は当初、デンマークのケータリング業界向けに高品質なスチール製キッチンウェアやシルバー製品を供給する企業として事業を展開していた。堅実な品質管理と素材への深い理解は、後のMenu時代における製品開発の基盤となる。

転換期:Menuブランドの誕生(1998年〜2000年代)

1998年、サイモンの息子であるビヤーネ・ハンセン(Bjarne Hansen)が社名を「Menu」に改称し、デザインカンパニーとしての新たな道を歩み始めた。「Menu」という名称は、元来のケータリング業界との繋がりを示すとともに、暮らしの選択肢を豊かに「メニュー」として提供するという志を込めたものであった。1988年にビヤーネ自身がデザインしたアイリッシュコーヒーセットが国際的なベストセラーとなったことを契機に、著名デザイナーとの計画的な協業へと舵を切った。2004年には、スカンディナヴィアン・リビング・グループに参画し、経営基盤の強化とともに現代的アクセサリーの企画・生産を本格化させた。

飛躍期:ライフスタイルブランドへの進化(2010年代)

2010年代に入ると、Menuはキッチンアクセサリーブランドからトータルなライフスタイルブランドへと大きな変革を遂げた。Norm Architectsをはじめとする世界的デザイナーとの緊密な協働により、家具、照明、バス用品、テキスタイルへとコレクションを拡大。2014年のJWDAテーブルランプの発表は、Menuの新たなデザイン言語を象徴する出来事となった。ビヤーネ・ハンセンは、デンマークを代表するインテリア誌『BO BEDRE』のアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーに選出され、デザイン業界における最も成功した事業転換の一つとして高く評価された。

The Audoの誕生と新章(2019年〜現在)

2019年、コペンハーゲン・ノアハウン地区に「The Audo」がオープンした。Norm Architectsとの協働で設計されたこの施設は、1918年に建てられた旧ロシア商社の建物を改装したもので、ショールーム、ブティックホテル、カフェ、コワーキングスペース、コンセプトショップを一つの空間に融合させた、Menuの理念を体現する場として注目を集めた。施設名は、ラテン語の「Ab Uno Disce Omnes(一から全てを学ぶ)」の略であり、共同体的精神とデザインを通じた人々の繋がりを象徴している。

2022年5月、Menuは「by Lassen」とともにデザイン・ホールディング(B&B Italia、Flos、Louis Poulsenなどを擁するグローバルなラグジュアリーデザイングループ)の傘下に入った。そして2023年6月1日、MenuとBy Lassenは「Audo Copenhagen」として統合を果たした。サイモン・ハンセンの孫であるヨアキム・コルンベック・エンゲル=ハンセン(Joachim Kornbek Engell-Hansen)がデザイン&ブランドディレクターに就任し、デンマークデザインの一世紀にわたる伝統と現代のグローバルな視点を融合させる新たなブランドビジョンを推進している。

主なインテリアとその特徴・エピソード

Bottle Grinder(ボトルグラインダー)

Norm Architectsがデザインしたこのソルト&ペッパーグラインダーは、Menuを代表するアイコニックなプロダクトの一つである。ボトルのようなフォルムは、グラインダーという既知の道具に対するユーザーの先入観を覆し、遊び心のあるインタラクションを促す設計思想に基づいている。研磨機構を上部に配置するという反転の発想により、テーブルに塩やペッパーが散らからない実用的な革新を実現した。高性能なセラミック機構と手に馴染むラバー仕上げのボディ、北欧的な柔らかなカラーバリエーションが一体となり、世界中のインテリア空間で愛用されている。

JWDA テーブルランプ

スウェーデンのデザイナー、ヨナス・ヴァーゲル(Jonas Wagell)が2014年にデザインしたテーブルランプであり、発表と同時にスカンディナヴィアンデザインの現代的クラシックとして広く認知された。伝統的なオイルランプの情緒からインスピレーションを得たこのランプは、コンクリートや真鍮、ブラッシュドスチールなどの重厚な素材をベースに、フロストガラスのシェードが柔らかな光を放つ。真鍮のダイマースイッチはオイルランプのダイヤルを現代的に解釈したもので、機能性と審美性を高い次元で両立させている。JWDAの名はヴァーゲルのスタジオ名「Jonas Wagell Design & Architecture」に由来する。

Wine Breather Carafe(ワインブリーザー カラフェ)

Norm ArchitectsとPeter Orsigの協働により生まれたこのワインカラフェは、ワインの酸素接触を劇的に効率化する革新的な構造を持つ。カラフェをワインボトルの上に載せ反転させるという直感的な操作で、通常のデキャンタージュの10倍の酸素を2分未満でワインに供給する。IF Design AwardおよびGood Design Awardを受賞し、機能とデザインの融合を体現するMenuの代表作の一つとなっている。

Androgyne コレクション

ノルウェー出身の建築家ダニエル・シグルーズ(Danielle Siggerud)がMenuのためにデザインしたコレクションである。2018年に発表されたサイドテーブルを起点に、ラウンジテーブル、ダイニングテーブルへと展開された。力強さと繊細さ、男性性と女性性という二項対立を一つのフォルムに融合させる「アンドロジニー(両性具有)」の概念がコレクション名の由来であり、磨き上げた大理石の艶やかさとマットなスチールの質感の対比が、モダニズムと工業美を同時に表現している。

Snaregade テーブル

Norm ArchitectsがMenuの創業者ビヤーネ・ハンセンのために特注した一台のテーブルに端を発する製品である。パウダーコーティングされたスチールの細いフレームが最大限のレッグルームを確保する構造設計は、出来栄えに感銘を受けたNorm Architectsが自身のスタジオ用にもう一台制作し、さらにビヤーネを説得して製品化に至ったという逸話を持つ。テーブル名は、当時Norm Architectsのスタジオが所在していたコペンハーゲンの通りの名に由来する。

Carrie LEDランプ

充電式のポータブルランプとして設計されたCarrieランプは、洗練されたアーチ状のハンドルとガラスのオーブが特徴的なデザインである。室内外を問わず持ち運べる設計は、近年のポータブル照明への需要の高まりに応えるものであり、バルコニーやガーデン、寝室のベッドサイドなど、暮らしのさまざまなシーンに柔らかな光をもたらす。

Knitting Chair(ニッティングチェア)

デンマークの巨匠イブ・コフォード=ラーセン(Ib Kofod-Larsen)が1951年にデザインしたラウンジチェアを、Menuが復刻したものである。肘を置いて編み物ができるよう、アームレストにカットアウトが施されたユニークなデザインが特徴であり、コンテンポラリーなシープスキンの張り地で再解釈された。20世紀中葉のデンマーク家具デザインの遺産を現代に継承するMenuの姿勢を示すプロダクトとして高く評価されている。

主なデザイナー

Norm Architects(ノーム アーキテクツ)

ヨナス・ビエール=ポウルセン(Jonas Bjerre-Poulsen)とカスパー・ルン(Kasper Rønn)を中心とするコペンハーゲン拠点の建築・デザインスタジオ。Menuのクリエイティブディレクターとして長年にわたり協働し、Bottle Grinder、Wine Breather Carafe、Snaregadeテーブル、バスルームシリーズ、さらにはThe Audoの建築設計まで、ブランドのアイデンティティ形成に決定的な役割を果たした。Red Dot賞、IF Design Award、Design Plus Awardなど数々の国際的デザイン賞を受賞している。

Jonas Wagell(ヨナス・ヴァーゲル)

スウェーデン・ストックホルム拠点のデザイナー・建築家。グラフィックデザインからキャリアを始め、建築とプロダクトデザインへと領域を拡大した。2008年にスタジオJWDAを設立。Menuを代表するJWDAテーブルランプのほか、ティーポットからプレハブ住宅まで幅広いプロジェクトを手がけ、その作風は「表現的ミニマリズム」と評される。

Danielle Siggerud(ダニエル・シグルーズ)

コペンハーゲン拠点のノルウェー人建築家。デンマーク王立美術アカデミーで建築修士号を取得後、ジョン・ポーソンの事務所での経験を経て2016年に自身のスタジオを設立。Menuのために手がけたAndrogyneコレクションは、石材、大理石、スチールといった異なる素材の対話を通じて空間に彫刻的な存在感を与える作品として国際的に高い評価を得ている。

Afteroom(アフタルーム)

ストックホルムを拠点とするデザインスタジオ。Menuのためにファミリーベンチ、チェアシリーズなどの家具を手がけ、パウダーコーティングスチールの細いロッドを特徴とするグラフィカルな造形で知られる。

Colin King(コリン・キング)

ニューヨーク拠点のインテリアスタイリスト、クリエイティブディレクター。Menuとの協働ではアクセサリーコレクションのデザインを手がけるとともに、Audo Houseのインスタレーションデザインにも深く関与している。2023年にはRizzoli社より著書『Arranging Things』を出版。

レガシーデザイナー

Menuは、現代のデザイナーとの協働に加え、20世紀スカンディナヴィアンデザインの巨匠たちの作品を復刻・継承するプログラムも展開してきた。イブ・コフォード=ラーセン(Ib Kofod-Larsen)のKnitting Chair、グレーテ・マイヤー(Grethe Meyer)の陶磁器作品、さらにAudo Copenhagenへの統合後はフレミング・ラッセン(Flemming Lassen)のTired Man、モーエンス・ラッセン(Mogens Lassen)のKubusコレクションがポートフォリオに加わり、デンマークデザインの歴史的遺産を現代に伝える役割を担っている。

基本情報

ブランド正式名 Menu(メニュー)※2023年よりAudo Copenhagen(オウド コペンハーゲン)に統合
設立 1979年(Danish Steel Houseとして創業)
創業者 サイモン・ハンセン(Simon Hansen)
現ブランドディレクター ヨアキム・コルンベック・エンゲル=ハンセン(Joachim Kornbek Engell-Hansen)※第三世代
所在地 Aarhusgade 130, 2150 Nordhavn, Copenhagen, Denmark(Audo House内)
親会社 Design Holding(2022年より)
主な製品カテゴリ 家具、照明、キッチンウェア、テーブルウェア、バス用品、テキスタイル、インテリアアクセサリー
主な受賞歴 Red Dot Design Award、IF Design Award、Good Design Award、Formland Design Award、Design Plus Award、Australian Design Award
公式サイト https://audocph.com/