カスタール ― スウェーデンが誇るラグの最高峰
1889年、スウェーデン南西部の小さな町キンナ(Kinna)に、一人の起業家が世界有数のラグブランドの礎を築いた。カスタール(Kasthall)は、スウェーデン初の工業的ラグ工場として産声を上げて以来、130年以上にわたり最高品質のウーヴンラグとハンドタフテッドラグを創り続けている。スウェーデン王室御用達(Purveyor to the Royal Court of Sweden)の称号を持ち、王宮や歴史的建造物から世界各地の高級ホテル、レストラン、ヨット、そして個人邸宅に至るまで、あらゆる空間の床を上質なテキスタイルで彩ってきた。
カスタールの哲学は創業以来変わることがない。美しく、耐久性に優れ、歩く喜びを感じられるオリジナルのラグを創ること。すべてのラグは今なおキンナの自社工場で、糸の選定から織り、仕上げ、刺繍に至るまで100を超える全工程を自社で一括管理し、受注生産で一枚一枚仕立てられる。完成したラグの裏面には、デザイナーと製作者のイニシャルが記されたレザータグが手縫いで取り付けられ、最後の一本の糸に至るまで品質が保証されていることの証となる。
ブランドの特徴とコンセプト
天然素材へのこだわり
カスタールのラグは、ほぼ例外なくウールとリネンという二つの天然素材で構成される。ウールはその弾力性、保温性、難燃性に優れた特性から、何世紀にもわたりテキスタイルの主役であり続けてきた素材である。リネンは独特の光沢と清涼感を持ち、時を経るごとに柔らかさと風合いを増していく。カスタールはこれらの素材を最高品質で調達し、その特性を最大限に引き出す織り方やタフティング技法を駆使することで、他に類を見ない質感と耐久性を実現している。
6,000色を超える糸のアーカイブ
カスタールの工場の中心には、6,000色以上の糸を擁するストックが存在する。この膨大なカラーパレットは、ウーヴンラグからロングパイルのリネンラグ、ウォール・トゥ・ウォールカーペットに至るまで、異なるクオリティの製品間で色の統一を可能にしている。ArkadとHäggåのコレクションだけでも160色以上のシェードが用意されており、顧客が求める正確なニュアンスが既存のラインナップにない場合には、カスタムブレンドによる特注色の制作にも対応する。
オーダーメイドの精神
カスタールのラグはすべて受注生産である。在庫を持たず、店舗に並べて販売する方式を取らない。一枚一枚が顧客の要望に応じてサイズ、色、パターンをカスタマイズして制作される。この方式は、不必要な素材・染料・エネルギー・輸送の消費を最小限に抑えるというサステナビリティの観点からも理にかなったものである。Kasthall Atelierサービスを利用すれば、完全なビスポークラグの制作も可能であり、まさに世界にひとつだけのラグを手にすることができる。
持続可能なものづくり
カスタールにとって、サステナビリティは新しいトレンドへの対応ではなく、創業以来の本質的な価値観である。天然素材であるウールとリネンを主材料とすることで、製品は生分解可能であり、その長寿命設計により「一生涯、あるいはそれ以上」使い続けられるラグを提供している。2017年には、工場で発生する余剰糸を活用した「Harvest」コレクションを発表し、廃棄物の削減と創造性の融合を実現した。
ブランドヒストリー
創業期 ― スウェーデン初の工業的ラグ工場
1889年、スウェーデンの起業家でありデザイナーでもあったルードヴィグ・アンデション(Ludvig Andersson)が、電力の導入という技術革新の波に乗り、キンナに「Ludvig Anderssons mattor」を設立した。これはスウェーデン初の工業的ラグ製造会社であった。「Källängs väveris」の旧施設を利用して操業を開始した工場は、電力を活用した革新的な製造方法により、スウェーデンのテキスタイル産業を牽引する存在へと急速に成長した。1901年には、キンナの「Kasthall」と呼ばれる敷地に新工場が建設され、生産拠点を全面移転。この地名がそのままブランド名となり、現在に至るまで同じ場所で生産が続けられている。
発展期 ― 北欧テキスタイルデザインの中心地へ
ラグの品質の高さと工場の創造的な環境は、やがてスウェーデンを代表するデザイナーたちを惹きつけることとなった。20世紀半ばには、スウェーデンの近代テキスタイル史に名を刻むインゲリッド・デッサウ(Ingrid Dessau)、ヴィオラ・グロステン(Viola Gråsten)、アストリッド・サンペ(Astrid Sampe)といった巨匠たちがカスタールとの協働を通じてブランドのDNAを深く形作った。キンナはスウェーデンのテキスタイル産業の中心地として確固たる地位を築き、その伝統は今日まで脈々と受け継がれている。
黄金時代 ― グニラ・ラーゲルヘム・ウルベルグの時代
1987年、グニラ・ラーゲルヘム・ウルベルグ(Gunilla Lagerhem Ullberg)がカスタールのリードデザイナーに就任し、以後28年にわたってブランドのクリエイティブを統括した。「ラグの女王」と称された彼女は、Moss、Fogg、Häggå、Teklaなど、カスタールを象徴するほぼすべてのクラシックコレクションを生み出し、ブランドのアイデンティティを決定づけた。色彩とパターンの卓越したマスターとして知られ、2012年にはElle Decoration誌の「Designer of the Year」を受賞するなど、数々の栄誉に輝いている。2015年12月に惜しまれつつ逝去したが、彼女の遺したタイムレスなデザインは、世代を超えて人々の暮らしを彩り続けている。
現在 ― 新たな時代へ
2023年8月、スカンジナビアンデザインの投資・成長プラットフォームであるNetwork of Design(NOD)がカスタールを取得し、ブランドは新たな成長フェーズへと入った。NODはString Furnitureなど複数の著名デザインブランドを擁するグループであり、カスタールの135年にわたる遺産を次の時代へと継承する体制を整えている。デンマークの著名デザイナー、セシリエ・マンツ(Cecilie Manz)との「Landskab」コレクションの成功や、2025年のミラノデザインウィークにおける「Anemon」コレクションの発表など、精力的な活動を展開している。ストックホルム、マルメ、ニューヨーク、ミラノにショールームを構え、30か国以上で展開するグローバルブランドとしての地歩を固めている。
主なコレクションとその特徴
Häggå(ヘッゴ)
グニラ・ラーゲルヘム・ウルベルグの手によるシャフト織りのラグコレクション。純粋なウールの横糸とリネンの縦糸で構成され、Uni、Dot、Stripe、Post、Goose Eye、Goose Eye XL、Bloom、Ingridなど6つ以上のパターンを自由に組み合わせることができる。混色糸とシングルカラー糸の選択、アクセントカラーのストライプ追加、複数のカラーフィールドへの分割など、無限に近いカスタマイズが可能であり、カスタールを象徴するシグネチャーコレクションとして世界中で愛されている。ウォール・トゥ・ウォールカーペットとしても使用可能で、ロンドンのブラウンズ・ホテルをはじめとする名門施設にも採用されている。厚さ約5mm、重量約2,200g/m²。
Arkad(アルカード)
スウェーデンの伝統的な織り技法に基づくクラシックなウールラグコレクション。Häggåと並ぶカスタールの二大ウーヴンコレクションの一つで、12種類のパターンと混色・シングルカラー糸の選択肢を組み合わせ、顧客の個性に合わせたラグを仕立てることができる。Checkerboard、Brick、Wide Stripe、Narrow Stripe、Corduroyなど多彩なパターンを擁し、厚さ約7mm、重量約2,310g/m²と、Häggåよりもやや厚みのある仕上がりが特徴である。
Moss(モス)
カスタールを代表するハンドタフテッドラグの一つ。グニラ・ラーゲルヘム・ウルベルグがデザインした、長いリネン糸と短く粗いウール糸を組み合わせた独特の技法により、温かみのある美しいモトル(斑模様)の表情を生み出す。パイル素材はウール70%、リネン30%、パイル高約40mm。苔(moss)を思わせる豊かなテクスチャーは、自然と調和する北欧の美意識を体現している。カール・ハンセン&サン(Carl Hansen & Søn)を通じても販売されている。
Tekla(テクラ)
2007年に発表されたハンドタフテッドのフェルトラグ。手染めのウールとリネンで構成され、パイル素材はウール75%、リネン25%。発表から1年で瞬く間にトップセラーとなった人気作である。デザイナーのグニラは「パーティー、キャンディ、紙吹雪を連想させるもの」をコンセプトに掲げ、太いウール糸と大胆な色彩の組み合わせによって若々しく力強い、やや反骨的なエネルギーを表現した。2024年にはMango Lassi、Ube Ice Cream、Matcha Latteなど新色が追加され、現代のインテリアシーンでも鮮度を保ち続けている。
Fogg(フォッグ)
リネン100%のハンドタフテッドラグ。長いフリンジと明暗のコントラストが生み出す繊細な表情が特徴で、霧(fog)を思わせる幻想的な佇まいを持つ。総高さ約44mm。グニラ・ラーゲルヘム・ウルベルグのデザインによる、カスタールのクラシックコレクションの一角を成す名品である。
Landskab(ランスカブ)
デンマークのデザイナー、セシリエ・マンツとのコラボレーションにより誕生した最新コレクション。「静かで、表現豊かで、シンプルさの中にある」ラグを目指して制作された。フラットウーヴンの「Gryn」「Korn」とハンドタフテッドの「Spire」「Ålegræs」の4デザインで構成され、控えめながら時を超える美しい色調が共通の基調をなす。マンツの「最初からリネンを組成に含めたいと考えていた」という言葉どおり、リネン糸がもたらす美しい輝きと反射が、各ラグに独特の深みを与えている。
Grönska(グリョンスカ)
イギリスのデザイナー、イルゼ・クロフォード(Ilse Crawford)とのコラボレーションによるコレクション。クロフォードがキンナの工場を初めて訪れた際、周囲に広がる草原や農地の景観にインスピレーションを受けて誕生した。タフテッドラグ2点(Täppa、Åker)とウーヴンラグ3点(Fåra、Glänta、Äng)で構成され、スウェーデンの風景の色彩、テクスチャー、リズムをテキスタイルに昇華させた作品群である。
Anemon(アネモン)
2025年のミラノデザインウィークで発表された最新コレクション。グニラ・ラーゲルヘム・ウルベルグが1991年に描いた水彩画のスケッチが、カスタールの膨大なアーカイブの中から再発見され、デザインスタジオの手により現代に蘇った。Blue、Lilac、Coralの3つのカラーウェイで展開され、スウェーデンの春を告げるアネモネの花に着想を得た大胆なパターンが特徴である。カスタールの「Classic」クオリティで制作された堅牢な構造を持ちながら、軽やかで柔らかな印象を与える。
主なデザイナー
- グニラ・ラーゲルヘム・ウルベルグ(Gunilla Lagerhem Ullberg)
- 1987年から2015年までカスタールのリードデザイナーを務め、Moss、Fogg、Häggå、Tekla、Archipelagoなど、ブランドのアイコニックなコレクションのほぼすべてを手がけた。「ラグの女王」と称される伝説的デザイナー。水彩画やグアッシュを用いたスケッチから生まれるデザインは、色彩の誠実で流動的な表現を特徴とする。2012年にElle Decoration「Designer of the Year」受賞。2015年12月逝去。
- セシリエ・マンツ(Cecilie Manz)
- デンマークを代表するデザイナーの一人。王立デンマーク芸術アカデミー卒業。Fritz Hansen、Bang & Olufsen、Hermèsなど世界的ブランドとの協働で知られる。カスタールとの「Landskab」コレクション(2024年)は、自然素材の質感を繊細に引き出す静謐なデザインが高い評価を受けた。2024年スカンジナビアンデザインアワード「Designer of the Year」受賞。
- イルゼ・クロフォード(Ilse Crawford)
- Studioilseの創設者として、空間とヒューマニティの関係を追求するイギリスのデザイナー。カスタールとの「Grönska」コレクション(2018年)では、キンナ周辺のスウェーデンの自然風景を織物に昇華させた。緑をインテリアに取り入れる文化的変化への洞察に基づく作品は、ミラノサローネで発表された。
- インゲリッド・デッサウ(Ingrid Dessau)
- スウェーデンの近代テキスタイル・デザイン史における先駆者。独自の視点と卓越した才能で知られ、カスタールのデザイン哲学の形成に大きく貢献した。
- ヴィオラ・グロステン(Viola Gråsten)
- スウェーデンを代表するテキスタイルデザイナーの一人。鮮やかな色彩と大胆なパターンで知られ、カスタールのブランドDNAの構築に寄与した。
- アストリッド・サンペ(Astrid Sampe)
- スウェーデンのテキスタイルデザインの革新者として国際的に評価される。カスタールとの協働を通じ、北欧テキスタイルの新たな可能性を切り拓いた。
- マヤ・ヨハンソン・スタランデル(Maja Johansson Starander)
- セントラル・セント・マーチンズおよびロイヤル・カレッジ・オブ・アート卒業。修士課程修了時にグニラ・ラーゲルヘム・ウルベルグに接触し、以後カスタールとの緊密なコラボレーションを展開。2016年には国際建築にインスピレーションを得た三次元テクスチャーのハンドタフテッドラグを発表した。
- ペトラ・ランドブラッド(Petra Lundblad)
- 2009年から2014年までカスタールに在籍。意図的な不規則性を取り入れたデザインで独自の表現を確立し、「Dag&Natt」など雲や空の現象に着想を得たコレクションを手がけた。在籍中に複数のデザイン賞を受賞している。
- パオラ・ナヴォーネ(Paola Navone)
- イタリアを代表するデザイナーの一人。多文化的な視点と自由な発想で知られ、カスタールとの長年にわたるパートナーシップを通じて独自のコレクションを創出した。
- ジャン=マリー・マソー(Jean-Marie Massaud)
- フランスのデザイナー・建築家。有機的なフォルムとサステナブルデザインへのアプローチで知られ、カスタールとの協働でラグデザインの新たな領域を開拓した。
- ララ・ボヒンク(Lara Bohinc)
- モンブラン、グッチ、カルティエなどとのデザインコンサルタントとして知られるスロベニア出身のデザイナー。カスタールとのウォール・トゥ・ウォールカーペットのプロジェクトを手がけた。
製造技法
ウーヴン(織り)
カスタールのウーヴンラグは、スウェーデンの伝統的な織り技法を基盤としている。リネンの縦糸にウールの横糸を通して織り上げるシャフト織りは、堅牢でありながら豊かなパターン表現を可能にする。HäggåやArkadに代表されるウーヴンコレクションは、この伝統技法の精華ともいえる存在である。
ハンドタフテッド
1972年よりカスタールが手がけるハンドタフティングは、ウールまたはリネンの糸をタフティングツールでバッキングに打ち込み、ループを形成した後に様々な高さにシャーリングすることで、多彩なテクスチャーとパターンを実現する技法である。Moss、Fogg、Teklaなどの名品はこの手法によって生み出されている。一本一本のパイルが手作業で仕上げられるため、機械織りでは到達し得ない豊かな表情が特徴である。
クライアントと導入実績
カスタールのラグは、その卓越した品質とデザイン性により、世界各地の格式ある空間に採用されている。スウェーデン王宮をはじめとする歴史的建造物、ロンドンのブラウンズ・ホテル、ノーベル賞晩餐会の会場として知られるストックホルム市庁舎など、特別な空間を彩ってきた。コマーシャルクライアントとしては、Acne Studios、Dior、Twitterのオフィスなど、デザイン感度の高いブランドや企業にも選ばれている。
基本情報
| ブランド正式名称 | Kasthall / カスタール |
|---|---|
| 創業年 | 1889年 |
| 創業者 | ルードヴィグ・アンデション(Ludvig Andersson) |
| 所在地 | キンナ(Kinna)、ヴェストラ・イェータランド県、スウェーデン |
| 事業内容 | ウーヴンラグ、ハンドタフテッドラグ、ウォール・トゥ・ウォールカーペット、ランナーの設計・製造・販売 |
| 主要素材 | ウール、リネン |
| 称号 | スウェーデン王室御用達(Purveyor to the Royal Court of Sweden) |
| 親会社 | NOD Group(Network of Design)/ 2023年8月より |
| ショールーム | ストックホルム、マルメ、ニューヨーク、ミラノ |
| 展開国数 | 30か国以上 |
| 日本総代理店 | EMC株式会社 |
| 国内取扱店 | Cassina IXC、LIVING MOTIF、PIANO ISOLA、DOPAほか |
| 公式サイト | https://www.kasthall.com |
| 日本公式サイト | https://www.kasthall-emc.jp |