GAN(ガン)― 手仕事の叡智を現代デザインに昇華するスペインのテキスタイルブランド
GANは、スペイン・バレンシア州オンティニエントに拠点を置くGandia Blasco Group(ガンディア・ブラスコ・グループ)のインドアテキスタイルブランドである。1941年に家族経営の毛布製造業として創業した同社の原点であるテキスタイルへの情熱を受け継ぎ、2008年に独立ブランドとして確立された。手織りのラグ、プーフ、クッション、そしてラグを起点とした空間提案「GAN Spaces」を核に、伝統的な手仕事の技法と国際的なデザイナーの創造性を融合させることで、テキスタイルの概念そのものを拡張し続けている。
GANの製品はすべてインドの熟練した職人たちによる手仕事で生み出される。ウール、コットン、ジュート、リネンといった天然繊維、そしてリサイクルPET素材を用い、手織り機(ハンドルーム)、キリム、チェーンステッチ、ハンドタフテッド、ハンドノッテッド、クロスステッチ、刺繍といった多彩な技法を駆使する。それらは単なる装飾品ではなく、形と量感によって居住空間そのものを再定義する——それがGANの掲げる理念である。
ブランドの特徴とコンセプト
GANを特徴づけるのは、「コンテンポラリー・クラフツマンシップ(Contemporary Craftsmanship)」という理念である。祖先から受け継がれてきた手工芸の技法を現代デザインの文脈で蘇らせ、より意識的で持続可能なライフスタイルへの道筋を示すこと——それがGANの根幹をなす哲学である。
ラグから空間へ——「GAN Spaces」の革新
GANの最も独創的な概念は「GAN Spaces」と呼ばれるコレクション体系である。一枚のラグを起点として、プーフ、クッション、スクリーン、モジュラーシートまでを包含する「空間」そのものをデザインする。この思想は、パトリシア・ウルキオラによるMangas(マンガス)コレクションに端を発し、Canevas、Bandas、Lan、Garden Layersといった代表的コレクションへと発展した。各コレクションは独立した装飾品としても機能するが、複数のピースを組み合わせることで、開放的かつ柔軟な空間構成を可能にする。
手仕事への敬意と持続可能性
GANの全製品はインドの職人によって手作業で製造される。手織り機、刺繍、フェルト加工など、何世紀にもわたって継承されてきた技法を尊重しながらも、デザイナーとの協働によって新たな表現の可能性を追求している。素材面では天然繊維を基本としつつ、アウトドアコレクションではリサイクルPET繊維を積極的に採用するなど、サステナビリティへの姿勢を明確に打ち出している。
社会的使命——GAN Women Unit
GANの社会貢献活動の核となるのが「GAN Women Unit(ガン・ウィメンズ・ユニット)」である。2010年、Bandas コレクションの開発過程で誕生したこのプロジェクトは、インド・ウッタル・プラデーシュ州バドーヒ地区において、地域の工房閉鎖により職を失った女性たちに刺繍やクロシェ、ニードルポイントなどの技術を活かした雇用機会を提供している。パトリシア・ウルキオラとクリエイティブ・ディレクターのマピ・ミレが中心となり、女性たちが家庭生活と両立しながら働ける環境を設計した。この取り組みはその後も多くのデザイナーが参画し、現在もGANの製造哲学の根幹を支えている。
また、GANはGoodWeave認証を取得しており、サプライチェーンにおける児童労働の排除と、織物コミュニティの子どもたちへの教育機会の提供を保証している。
ブランドヒストリー
1941年:毛布製造業としての創業
Gandia Blasco S.A.は、1941年にホセ・ガンディア・ブラスコによってスペイン・バレンシア州オンティニエントで設立された。当初は伝統的な毛布やキルトの製造を主業とする家族経営の企業であり、40年以上にわたってテキスタイル産業に従事した。
1980年代:デザインへの転換
1980年代半ば、創業者の息子であるホセ・A・ガンディア=ブラスコ・カナレスが家業の革新に着手する。家族の原点であるテキスタイルの伝統に忠実でありながら、デザインに重きを置いた新しいホームテキスタイルラインを開発し、ラグを製品ラインナップに加えた。これがGANの前身となる事業である。
2008年:GANブランドの確立
Gandia Blasco Groupのインドアテキスタイルブランドとして「GAN」が正式に発足。クリエイティブ・ディレクターにマピ・ミレを迎え、国際的なデザイナーとの協働体制を本格化させた。ラグを単なる敷物ではなく、空間を構成するシステムとして捉える独自の世界観を確立していく。
2010年:Mangas OriginalとGAN Women Unitの誕生
パトリシア・ウルキオラとの4年間の研究開発を経て、GAN初の「Spaces」コレクションとなるMangas Originalが発表される。ニットのセーターの袖(スペイン語で「mangas」)を美的参照とした同コレクションは、ラグ業界に革命をもたらすと評された。同時期に開発が始まったBandasコレクションの制作過程から、GAN Women Unitが誕生した。
2012年〜現在:国際的デザイナーとの協働の深化
シャルロット・ランスロによるCanevas(2012年)、ネリ&フーによるLan、パトリシア・ウルキオラによるGarden Layers(2017年、GANとして初のアウトドアコレクション)、隈研吾によるGOZ(2022年)、Raw EdgesによるBackstitch、nendoとの協働など、世界各地の建築家・デザイナーとの協業を重ねながらコレクションを拡充。2025年のミラノサローネでは隈研吾が展示空間を設計し、リサイクルPETを用いた新コレクション「HOS」を発表するなど、持続可能な素材革新とクラフツマンシップの融合を推し進めている。
主なコレクションとその特徴
Mangas Original / Mangas Space(デザイン:パトリシア・ウルキオラ)
GANの代名詞とも言えるコレクション。ニットのセーターの袖をモチーフに、手織り機で織り上げた豊かなボリュームと多彩なテクスチャーが特徴である。開発には4年の歳月を要し、変化するテクスチャーや糸幅に対応する独自の手織り手法が確立された。100%ニューウールにコットン裏地を用い、ラグ、プーフ、クッションで構成される。モジュラー的に組み合わせ可能で、壁掛けタペストリーとしても使用できる。続編のMangas Spaceでは三次元的な造形がさらに深化し、背もたれ付きの大型プーフやシェーズロングが加わった。2020年に発表10周年を迎え、国際的なデザインアイコンとして認知されている。
Canevas / Canevas Geo(デザイン:シャルロット・ランスロ)
ベルギー出身のデザイナー、シャルロット・ランスロが手がけるコレクション。穿孔されたフェルトのベースに、太いウール糸で大きなクロスステッチを施すことで、ピクセルアートのような独特の美的効果を生み出す。伝統的な手芸技法をノスタルジーに陥ることなく現代的に再解釈した点が高く評価されている。ぼかされた花束のようなモチーフから抽象的で経年感のある表現まで多彩な図柄を展開し、ラグ、プーフ、クッションで構成される。全ピースがインドの職人による100%ヴァージンウールの手作業で制作される。2015年にはSilaï、2018年にはCanevas Geoへと発展した。
Bandas(デザイン:パトリシア・ウルキオラ)
GAN Women Unitの誕生と密接に結びついたコレクションである。ウルキオラは、女性たちが座りながら作業でき、巻いて運搬できるよう、幅60cm以内のモジュラー構造を設計した。当初の制約が結果的にモジュラーラグという革新的コンセプトを生み出し、大きな成功を収めた。刺繍、クロシェ、手織りなど複数の技法を組み合わせ、ラグ、シート、クッションが一体となった空間を提案する。
Lan(デザイン:ネリ&フー)
上海を拠点とする建築事務所ネリ&フーが手がけたコレクション。東洋と西洋の感性を融合させ、伝統的な東洋のスクリーン(衝立)の機能を再解釈している。グラウイ織りのベースに手刺繍による幾何学的モチーフを重ねた二重技法が特徴で、ラグに加えてモジュラーシート、スクリーン(パーティション/ソファの背もたれとしても機能)、クッションを展開する。NYCxDESIGN AwardのContract部門およびResidential Seating部門を受賞している。
Garden Layers(デザイン:パトリシア・ウルキオラ)
2017年に発表されたGAN初のアウトドアコレクション。ムガル帝国の建築や庭園文化にインスピレーションを受け、ラグ、マットレス、ロールクッション、インディアンベッド、サイドテーブルで構成される。耐候性ポリプロピレン素材(現在は100%リサイクルPET)を使用し、屋外空間にインドアの快適性をもたらす。NYCxDESIGN AwardのOutdoor部門、Archiproducts Design Awardsを受賞。
GOZ(デザイン:隈研吾)
日本を代表する建築家・隈研吾がGANのために手がけたラグコレクション。日本の伝統的な畳の感触を再現することを目指し、チーク材の棒をヴァージンウールのフレームに織り込む革新的な技法を開発した。「霧(Kiri)」「雨(Ame)」「土(Tsuchi)」と名付けられた3つのモデルは、自然素材の本質的な構造的能力と感情的特質を探求している。2025年にはリサイクルPETを用いた新コレクション「HOS」も発表された。
Backstitch(デザイン:Raw Edges)
ロンドンを拠点とするデザインスタジオ、Raw EdgesがGANと初めて協働したコレクション。刺繍の裏面(通常は隠される部分)を表に見せるという逆転の発想から生まれた。「Calm」「Busy」「Composition」の3モデルから構成され、GAN Women Unitの職人たちによる刺繍と手織りで制作される。2024年にはDezeen AwardのHomeware Design部門およびArchiproducts Design Awardを受賞した。
主なデザイナー
- パトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola)
- スペイン・オビエド出身、ミラノ在住の建築家・プロダクトデザイナー。アキッレ・カスティリオーニに師事し、2001年に自身のスタジオを設立。GANとの協働はMangas Original(2010年)に始まり、Mangas Space、Bandas、Mirage、Garden Layers、Mangas Outdoor、Nuancesなど多数のコレクションを手がける。GAN Women Unitの創設にも深く関与し、ブランドの方向性を決定づけた最も重要なデザイナーである。
- シャルロット・ランスロ(Charlotte Lancelot)
- ベルギー・ブリュッセル出身のプロダクトデザイナー。2012年のCanevasコレクションでGANとの協働を開始し、Silaï(2015年)、Canevas Geo(2018年)、Crystalと継続的にコレクションを発表。伝統的な手芸技法の現代的再解釈を得意とする。
- ネリ&フー(Neri&Hu)
- リンドン・ネリとロッサナ・フーによる、上海とロンドンを拠点とする建築・デザインオフィス。東洋と西洋の感性を融合させたLanコレクションを手がけ、BOY AwardsやNYCxDESIGN Awardを受賞。
- 隈研吾(Kengo Kuma)
- 日本を代表する建築家。自然素材と建築の融合で世界的に知られる。GANとはGOZコレクション(2022年)に始まり、2025年にはHOSコレクションを発表。ミラノサローネ2025ではGandia Blasco Groupの展示空間も設計し、FRAME AwardのBest Stand賞を受賞した。
- Raw Edges
- ロンドンを拠点とするデザインスタジオ。Backstitchコレクションで刺繍の概念を覆す革新的なアプローチを提示し、Dezeen AwardおよびArchiproducts Design Awardを受賞。
- サンドラ・フィゲロラ(Sandra Figuerola)
- GANと長年にわたり協働するスペイン人デザイナー。Glaoui、Catania、Tasili、Ndebele、Rustic Chic、Vanguardiasなど多数のコレクションを手がけ、大胆なパターンと鮮やかな色彩が特徴。
- nendo
- 佐藤オオキ率いる東京を拠点とするデザインオフィス。GANとの協働では、ミニマルかつ繊細なアプローチでテキスタイルの新たな表現を探求している。
- ホセ・A・ガンディア=ブラスコ・カナレス(José A. Gandía-Blasco Canales)
- Gandia Blasco Group会長兼クリエイティブ・ディレクター。創業者の息子として1980年代に家業を革新し、GANブランドの基盤を築いた。自らもHidra、Momosなどのコレクションをデザインする。
受賞歴(主要なもの)
- FRAME Award — Best Stand of 2025(ミラノサローネ、隈研吾デザインのブース)
- Dezeen Award — Homeware Design部門(Backstitch / Raw Edges)
- NYCxDESIGN Award — Contract部門(Lan / ネリ&フー)、Outdoor部門(Garden Layers / パトリシア・ウルキオラ)、Residential Flooring部門(Mirage / パトリシア・ウルキオラ)、Contract Flooring部門(Cord & Patch / パトリシア・ウルキオラ)
- BOY Awards(Interior Design Magazine)— Residential Seating部門(Lan sofa / ネリ&フー)、Residential Rugs/Carpets部門(PLY / MUT Design)
- Archiproducts Design Award — Outdoor部門(Garden Layers)、Sustainability特別賞(Roots / Inma Bermúdez)、Backstitch / Raw Edges
- Ro Plastic Prize Award 2021(Rosana Orlandi主催)— Gangesラグ(Plastic Riversコレクション / アルバロ・カタラン・デ・オコン)
- Iconic Award — ミラノサローネ2022展示ブース(革新的建築・素材部門)
基本情報
| ブランド正式名称 | GAN(ガン) |
|---|---|
| 母体企業 | Gandia Blasco S.A.(ガンディア・ブラスコ) |
| 企業創業年 | 1941年 |
| GANブランド設立年 | 2008年 |
| 創業者 | ホセ・ガンディア・ブラスコ(José Gandía Blasco) |
| 現会長・クリエイティブ・ディレクター | ホセ・A・ガンディア=ブラスコ・カナレス(José A. Gandía-Blasco Canales) |
| GANクリエイティブ・ディレクター | マピ・ミレ(Mapi Millet) |
| 所在地 | C/ Músico Vert 4, 46870 Ontinyent, Valencia, Spain |
| 製造拠点 | インド(手作業による製造) |
| グループブランド | GANDIABLASCO(アウトドア家具)、DIABLA(カジュアルアウトドア)、GAN(インドアテキスタイル) |
| 主要製品 | ラグ、プーフ、クッション、モジュラーシート、スクリーン、アウトドアファニチャー |
| 認証 | GoodWeave認証(児童労働フリー保証) |
| 公式サイト | https://www.gan-rugs.com |