フルー(Flou)― 眠りの文化を創造したイタリアンデザインの先駆者
1978年、イタリア・ロンバルディア州メダの地で産声を上げたフルー(Flou)は、「眠りの文化(Culture of Sleep)」という概念を世界に先駆けて提唱した家具ブランドである。創業と同時に発表されたベッド「ナタリー(Nathalie)」は、巨匠ヴィコ・マジストレッティの手により、全カバーが着脱可能な初の近代テキスタイルベッドとして誕生し、家具デザイン史に決定的な転換をもたらした。以来40年以上にわたり、ベッドを単なる睡眠の場ではなく、暮らしの質と調和を高める空間として再定義し続けている。
現在ではベッドルームにとどまらず、ソファ、ワードローブ、リビングファニチャー、アウトドアコレクションに至るまで、「トータルリビング」を標榜する包括的なプロダクトラインを展開。イタリア国内はもとより世界50カ国以上で販売され、ミラノ、ニューヨーク、ロサンゼルスに直営ショールームを構える。2004年にはADI(イタリア工業デザイン協会)よりコンパッソ・ドーロ生涯功労賞を、2020年にはナタリーが製品生涯功労賞を受賞するなど、イタリアンデザインの最高峰として国際的な評価を確立している。
ブランドの特徴とコンセプト
フルーの根幹にあるのは、「眠りの文化」を通じて人々の心身の健やかさと生活の質を向上させるという一貫した理念である。創業者ロザリオ・メッシーナが掲げた「人、一貫性、誠実さ、情熱」という四つの価値観は、半世紀近くを経た今日も変わることなくブランドの指針であり続けている。
テキスタイルの卓越性
フルーの最大の特徴は、テキスタイルに対する深い知見と革新性にある。ホームテキスタイルの名門バセッティで培った創業者の経験を礎に、ベッドのフレームからヘッドボード、ベッドリネン、デュベまでを一体的にデザインし、すべてのカバーを着脱・洗濯可能とする先駆的なシステムを確立した。ファブリック、レザー、エコレザーなど多彩な素材と140色以上のカラーバリエーションは、利用者の個性や季節に応じた自由な着せ替えを可能にする。
デザインとウェルネスの融合
フルーの製品開発は、毎年更新される美学と機能の双方における研究に基づいている。ベッドベースの選択肢は固定式、ボックススプリング式「レオナルド」、収納式、電動式「Motion 4」など多岐にわたり、マットレスやピローとの組み合わせにより、個々の身体と生活様式に最適な睡眠環境を構築することができる。この「ベッドをシステムとして捉える」という発想は、単品の家具を超えたトータルな快適性の提供を意味している。
サステナビリティへの取り組み
近年のフルーは、毎年新たなサステナビリティ目標を設定し、環境に配慮したものづくりにも注力している。分解可能な構造設計やエコ素材の採用など、長く愛用できるプロダクトづくりを通じて持続可能な暮らしの実現に貢献している。
ブランドヒストリー
創業と革命的な第一歩(1978年)
フルーの物語は、シチリア出身の起業家ロザリオ・メッシーナ(1942〜2011年)の先見の明から始まる。百貨店ラ・リナシェンテ、家電メーカーのザヌッシ=レックス、B&Bイタリアの営業マネージャー、チノーヴァの商業部門責任者を経て、ホームテキスタイル最大手バセッティに至る豊かなキャリアの中で、メッシーナはテキスタイルをベッドの張り地に応用するという新たな構想を温めていた。1970年代後半、社会は急速に変化し、女性の社会進出が進み、住空間には多機能性と個性の表現が求められていた。この時代の潮流を鋭く読み取ったメッシーナは1978年にフルーを設立。同年、ヴィコ・マジストレッティがデザインした「ナタリー」を発表し、ベッド、マットレス、ベッドリネンを一つのプロジェクトとして統合するという画期的な提案で、家具業界に新たな地平を拓いた。
デザインアイコンの連続的な創出(1980〜1990年代)
ナタリーの成功を受け、フルーは次々と著名デザイナーとの協働を展開した。1982年にはヴィットリオ・プラートによる収納ベッド「ノットゥルノ(Notturno)」を発表し、実用性と美しさを両立する新たなベッドの形を提示。1992年には社内研究開発チームによる変形ベッド「デュエット(Duetto)」が、シングルからダブルへとガスピストンで容易に変換できる革新的な機構で注目を集めた。そして1993年、マジストレッティが再び傑作を生み出す。日本の建築家・安藤忠雄へのオマージュともいわれる「タダオ(Tadao)」は、通常は隠されるベッドのスラット(板バネ)をそのまま露出させてヘッドボードへと連続させるという、シンプルかつ知的な発想で東洋的な簡素の美を体現した。
トータルリビングへの進化(2000年代〜)
2004年、フルーはADIコンパッソ・ドーロ生涯功労賞を受賞。その選考理由には、デザインと快適性に関する数十年にわたる徹底した研究への姿勢と、国際的なイタリアンデザインの評価向上への貢献が謳われた。ベッドルームの枠を超え、ソファ、ワードローブ、リビング家具へとコレクションを拡充し、「トータルリビング」というビジョンを具現化していった。2013年にはサブブランド「ナテーヴォ(Natevo)」を設立。LED照明を家具構造に一体化するという先進的なコンセプトで、照明器具を必要としない新しい空間演出の可能性を提示した。
現在と次世代への継承
2011年の創業者ロザリオ・メッシーナの逝去後は、三人の子女であるクリスティアーナ、マッシミリアーノ、マヌエラが経営を継承。2020年にはナタリーが製品としてのコンパッソ・ドーロ生涯功労賞を受賞し、2021年にはイタリア共和国大統領セルジョ・マッタレッラ臨席のもと「プレミオ・レオナルド・クアリタ・イタリア」賞が授与された。家族経営の誠実さと情熱を守りながら、フルーは眠りの文化の革新を次世代へと引き継いでいる。
主なインテリアとその特徴
ナタリー(Nathalie)― 1978年 / デザイン:ヴィコ・マジストレッティ
すべてのモダンテキスタイルベッドの祖と称されるナタリーは、フルーの原点にして不朽のアイコンである。柔らかなパッド入りヘッドボードはピローカバーとしても機能し、日中の枕の埃除けを兼ねる。ヘッドボードの側面を飾る小さなリボン結びは、ナタリーを一目で識別させる意匠上のシグネチャーとなっている。リクライニング可能なヘッドボード、ベルクロによる全カバーの着脱、5種類のベースオプション(固定式、ボックススプリング式レオナルド、収納式、H25固定ベース、H16固定ベース)、電動式ベースなど、発表以来継続的に改良が加えられ、140色以上のファブリック・レザーから選択可能である。2018年には誕生40周年を記念した限定版「ナタリー リミテッドエディション」が299台限定で製作された。
タダオ(Tadao)― 1993年 / デザイン:ヴィコ・マジストレッティ
東洋的な簡潔さへの敬意を込めて生み出されたタダオは、ベッドの構造そのものを装飾へと転換した傑作である。チューブラースチールのフレームに載った木製スラットが途切れることなくヘッドボードまで立ち上がり、グログランナイロンのリボンで連結されたその姿は、構造と美の一体化を見事に示している。当初はチェリー材で製作され、その後オーク材、イロコ材、耐傷性サーモストラクチャー仕上げなど時代の嗜好に合わせて素材を進化させながらも、オリジナルのプロポーションは忠実に守られている。背面にはキャスターが備わり移動も容易で、分解可能かつエコロジカルな設計思想は、発表から30年以上を経てなお現代的である。
デュエット(Duetto)― 1992年 / デザイン:フルーR&Dセンター
現代の住空間における多機能性の要求に応えるべく開発されたデュエットは、フルーの変形ベッドを代表する製品である。シングルベッドの下にトランドルベッドを格納し、ガスピストンにより容易にシングルと同じ高さまでせり上げ、ゴムコーティングされたブロックで二台を接続してダブルベッドを形成する。限られた空間を効率的に活用しながら、ゲスト対応や日常使いの柔軟性を実現する独創的なメカニズムは、都市型のコンパクトな住まいにとって理想的な解決策といえる。
ノットゥルノ(Notturno)― 1982年 / デザイン:ヴィットリオ・プラート
ノットゥルノは、スタイルと実用性の調和を追求した収納ベッドの先駆的モデルである。深い収納ベースを備え、寝室に追加の収納空間を提供する。ヘッドボードとベースには着脱可能なパッド入りカバーが施され、フルーの他のベッドと同様に季節や気分に合わせた表情の変化を楽しむことができる。洗練されたラインと清潔感のある素材使いにより、発表から40年以上を経てなお現行コレクションに名を連ねるロングセラーである。
ガウディ(Gaudí)/ デザイン:マッテオ・ヌンツィアーティ
ガウディは、豊かなボリューム感のあるアップホルスターヘッドボードが特徴的なベッドであり、フルーの現行コレクションにおける主力製品の一つである。ファブリック、レザー、ウッドの組み合わせにより、クラシックからコンテンポラリーまで幅広いインテリアスタイルに対応する。全カバー着脱可能というフルーの伝統を継承しつつ、収納ベースオプションを備え、ベッドルームの美観と実用性を高い次元で両立させている。
マイプレイス(MyPlace)ソファ ― 2019年 / デザイン:エマヌエラ・ガルビン、マリオ・デル・オルト
フルーのリビングコレクションを象徴するモジュラーソファ、マイプレイスは、ベッドメーカーとしての知見を活かした究極の快適性を体現している。3種類のシート奥行き、自由に配置可能なベース、アームレスト、バックレストなど20以上のモジュールにより、直線的な配列からL字型、島型、対面型に至るまで多彩な構成を実現する。コンクリートやメタルのトップを持つ有機的な形状のコーヒーテーブルとの組み合わせも提案されており、リビング空間全体をコーディネートするシステムとして設計されている。全カバー着脱可能で、ファブリックまたはレザーから選択できる。
メルクリオ(Merkurio)/ デザイン:ロドルフォ・ドルドーニ
ロドルフォ・ドルドーニによるメルクリオは、たっぷりとしたパッドで全体を包み込むように仕上げた、柔らかな曲線のシルエットが特徴的なベッドである。ベッド下の収納は足元のストラップから容易にアクセスでき、油圧式ピストンにより軽い力で開閉が可能。エレガントなフォルムと機能性を兼ね備え、フルーの収納ベッドの中でも特に人気の高いモデルの一つである。
主なデザイナー
ヴィコ・マジストレッティ(Vico Magistretti, 1920〜2006年)
イタリアンデザインの巨匠として、カッシーナ、アルテミデ、フリッツ・ハンセンなど数々の名門メーカーと協働したマジストレッティは、フルーにとって創業以来最も重要なデザインパートナーであった。1978年の創業時からナタリーとタダオという二つの不朽の名作を手がけ、一つのメーカーのためにデザインしたベッドの数が最多であるという記録を持つ。フルー創業者ロザリオ・メッシーナは「マジストレッティは常に天才的だ」と語り、マジストレッティもまた「ロザリオ・メッシーナとの仕事は常に楽しい。彼は品質の高い起業家であるだけでなく、寛大で誠実な人物だ」と信頼を寄せていた。
カルロ・コロンボ(Carlo Colombo)
建築家・デザイナーとして国際的に活躍するカルロ・コロンボは、フルーにおいてアイコン(Icon)ベッドやジェントルマン(Gentleman's)ベッド、CCライト・ブックケースなど数多くのプロダクトを手がけている。建築的な明快さとモダンな洗練を備えたデザインは、フルーのコンテンポラリーラインの核を成している。
ロドルフォ・ドルドーニ(Rodolfo Dordoni)
イタリアのインテリアデザイン界を代表する存在であるドルドーニは、メルクリオ(Merkurio)ベッドやイコ(Iko)サイドテーブルなどをフルーのためにデザイン。柔らかなフォルムとミニマルな構造の調和を得意とし、フルーのコレクションにエレガントなリラクゼーションの精神を吹き込んでいる。
エマヌエラ・ガルビン(Emanuela Garbin)
1990年にマリオ・デル・オルトらとスタジオ・オペラを設立したガルビンは、色彩、素材、テキスタイルに対する卓越した感性でフルーのブランドイメージの構築に深く寄与してきた。マイプレイス(MyPlace)ソファおよびベッドをはじめとする製品デザインに加え、ショールームの空間設計やブランドのアートディレクションも長年にわたり担当。「洗練されていながら気取らない」フルー・スタイルの形成に大きな貢献を果たしている。
その他の主要デザイナー
フルーはこのほかにも、エンツォ・マリ、マリオ・ベリーニ、マッシモ・カスターニャ、マッシモ・イオーサ・ギーニ、マッテオ・ヌンツィアーティ、ピヌッチョ・ボルゴノーヴォ、ヴィットリオ・プラート、スタジオ・コントロマーノなど、イタリアを代表する建築家・デザイナーとの協働を継続的に行っている。
ナテーヴォ(Natevo)― LED統合家具の革新
2013年にフルーの子会社として設立されたナテーヴォ(Natevo)は、LED照明を家具の構造体に一体化するという革新的なコンセプトを打ち出した、イタリア初の企業である。照明を機能的・美的な要素にとどめず、調和、温もり、情緒の源泉として捉え直すことで、従来の照明器具を必要としない新しい空間の在り方を提案している。省エネルギーと建築コストの削減を目指す高い倫理性をも内包したこのプロジェクトは、フルーの長年にわたるノウハウと研究精神から自然に生まれたものであり、エコロジカルかつ革新的なライフスタイルの実現を志している。
受賞歴
- 2004年
- ADI コンパッソ・ドーロ 生涯功労賞(企業として)。「デザインと快適性に焦点を当てた数十年にわたる徹底した研究への姿勢と、国際的なイタリアンデザインの評価向上への貢献」が評価された。
- 2020年
- ADI コンパッソ・ドーロ 製品生涯功労賞(ナタリー)。「テキスタイルベッド分野における類型的革新の同義語であり、機能と詩情の完璧な例」と称された。
- 2021年
- プレミオ・レオナルド・クアリタ・イタリア 2019。「ベッドおよびデザイン家具生産における国際的リーダーとして」イタリア共和国大統領セルジョ・マッタレッラ臨席のもと授与された。
このほか、創業者ロザリオ・メッシーナ個人に対しても、エルンスト&ヤング「年間最優秀起業家」賞、イタリア共和国功労勲章グランドオフィサー章、イタリア大統領より「労働騎士」(カヴァリエーレ・デル・ラヴォーロ)の称号など、数多くの栄誉が贈られている。
基本情報
| ブランド名 | Flou(フルー) |
|---|---|
| 設立 | 1978年 |
| 創業者 | ロザリオ・メッシーナ(Rosario Messina, 1942〜2011年) |
| 現経営陣 | クリスティアーナ・メッシーナ、マッシミリアーノ・メッシーナ、マヌエラ・メッシーナ(創業者の三子女) |
| 本社所在地 | Via Cadorna 12, 20821 Meda (MB), Italy |
| 事業内容 | ベッド、マットレス、ワードローブ、ソファ、リビング家具、ベッドリネン、アウトドア家具、アクセサリーの設計・製造・販売 |
| 従業員数 | 51〜200名 |
| 販売地域 | 世界50カ国以上(直営ショールーム:ミラノ、ニューヨーク、ロサンゼルス) |
| サブブランド | Natevo(ナテーヴォ)― LED統合家具(2013年設立) |
| 主な受賞 | ADI コンパッソ・ドーロ生涯功労賞(2004年)、ADI コンパッソ・ドーロ製品生涯功労賞(2020年、ナタリー)、プレミオ・レオナルド・クアリタ・イタリア(2021年) |
| 公式サイト | https://www.flou.it |