ブラックウィング(Blackwing) ── 創造の系譜を継ぐ、伝説の鉛筆ブランド

ブラックウィング(Blackwing)は、1930年代に誕生した伝説的鉛筆「Blackwing 602」の精神を受け継ぎ、2010年にカリフォルニアで復活を遂げたプレミアム鉛筆ブランドです。カリフォルニア産インセンスシダー(香杉)の木軸と日本製の上質なグラファイト芯、そして唯一無二の四角いフェルール(口金)と交換式消しゴムという独創的な設計を特徴とし、世界中の作家、アーティスト、音楽家から深い支持を集めています。

その歴史は、エバーハード・ファーバー社が1934年に発表したBlackwing 602にまで遡ります。「Half the Pressure, Twice the Speed(半分の力で、倍の速さを)」というスローガンを掲げたこの鉛筆は、ジョン・スタインベック、チャック・ジョーンズ、レナード・バーンスタイン、スティーヴン・ソンドハイムといった20世紀アメリカ文化を形作った創造者たちに愛用されました。1998年の製造中止後、eBayで1本40ドル以上の値がつくほどの伝説的存在となったこの鉛筆を、カリフォルニア・シダー・プロダクツ社がパロミノ(Palomino)ブランドのもとで復活させ、現在は「Blackwing」の名のもとに、鉛筆を超えたクリエイティブ・ライフスタイルブランドとして展開しています。

ブランドの特徴・コンセプト

アナログ・ルネサンスの象徴

デジタルが支配する現代において、ブラックウィングは「アナログ・ルネサンス」の象徴として独自の存在感を放っています。スクリーンと通知に囲まれた時代にあって、手で書くという行為がもたらす集中力、創造性、そしてマインドフルネスの価値を提唱し、鉛筆という最もシンプルな道具を通じてその理念を体現しています。

素材へのこだわり

ブラックウィングの鉛筆は、三つの大陸にまたがる素材と製造工程から生まれます。カリフォルニア州およびオレゴン州の森林から持続可能な方法で調達されたインセンスシダー(香杉)の木軸は、独特の芳香と滑らかな削り心地をもたらします。この木材スラットは日本に送られ、厳選されたグラファイト芯の製造と軸の仕上げが行われます。フェルールと消しゴムはベトナムで製造され、すべての部品がカリフォルニア州ストックトンの本社に集結し、最終組み立てとパッケージングが施されます。

アイコニックなデザイン

ブラックウィングを一目で見分けることのできる要素が、独自の四角いフェルール(口金)と交換可能な長方形消しゴムです。1921年のロタール・W・ファーバーによる特許「消しゴムホルダー」に端を発するこのデザインは、鉛筆が転がるのを防ぐだけでなく、消しゴムの角を活かした精密な修正を可能にします。消しゴムは引き出して延長でき、さらに交換用消しゴムも複数の色で販売されているため、自分だけの一本にカスタマイズする楽しみも備えています。

軸は一般的な鉛筆より約半インチほど長く設計されており、特にデッサンや長時間の筆記において快適な握り心地を提供します。ブラックウィングのロゴと製品名は、金箔で軸に刻印されています。

創造性の文化を育む

ブラックウィングは単なる筆記具メーカーにとどまらず、創造性を称え、育む文化的プラットフォームとしての役割を担っています。四半期ごとにリリースされる限定版シリーズ「Volumes」は、文化的アイコンや歴史的事象に敬意を表するコレクターズアイテムとして高い人気を誇ります。また、売上の一部はブラックウィング財団(Blackwing Foundation)を通じてK-12(幼稚園から高校まで)の音楽・芸術教育の支援に充てられており、次世代の創造者を育てるという使命を実践しています。

ブランドヒストリー

エバーハード・ファーバーとBlackwing 602の誕生(1934年)

ブラックウィングの起源は、ドイツ系アメリカ人の鉛筆メーカー、エバーハード・ファーバー社に遡ります。同社は1861年にニューヨークで創業し、アメリカ初のグラファイト鉛筆工場を操業した先駆的企業でした。1934年、同社は「Blackwing 602」を発表します。3B〜4Bの柔らかさと濃さを持ちながらHB並みの耐久性を実現したグラファイト芯、そして独自のフラットフェルールと交換式消しゴムを備えたこの鉛筆は、「Half the Pressure, Twice the Speed」のスローガンとともに、速記者から始まりアーティスト、作家、音楽家へとその愛用者の輪を広げていきました。

グラファイト、クレイ(粘土)、そしてワックスを独自の配合で混合した芯は、市販の鉛筆として初めてワックスを配合したものとされ、バターのように滑らかな書き味を実現しました。この品質こそが、Blackwing 602を単なる事務用品から創造の道具へと昇華させた要因です。

伝説を紡いだ創造者たち

Blackwing 602は、20世紀のアメリカ文化を形作った数多くの巨匠たちに愛されました。ノーベル文学賞作家ジョン・スタインベックは、毎朝24本のBlackwingを削ることを執筆の儀式としていたことで知られています。パリ・レビュー誌のインタビューで彼はこう語っています。「新しい種類の鉛筆を見つけた。これまでで最高のものだ」。アニメーター、チャック・ジョーンズはバッグス・バニーをはじめとするルーニー・テューンズのキャラクターをBlackwingで生み出し、生涯最後までこの鉛筆以外を使うことを拒みました。ディズニーのアニメーター、シェイマス・カルハンは自らのBlackwing 602とともに埋葬されることを望んだと伝えられています。

音楽の世界でも、作曲家スティーヴン・ソンドハイム、指揮者レナード・バーンスタイン、作曲家アーロン・コープランド、プロデューサーのクインシー・ジョーンズ、トランペッター兼作曲家のウィントン・マルサリスなど、錚々たる音楽家たちがBlackwingを創作の伴侶としました。

製造中止と「40ドルの鉛筆」(1998年)

1988年にエバーハード・ファーバーがファーバーカステルに買収され、さらに1994年にはニューウェル・ラバーメイド傘下のサンフォード社へと移管される中、Blackwing 602の生産は継続されていました。しかし、フェルールの金属クリップを製造する機械が故障し、年間わずか約1,100グロス(約158,400本)という少量生産であったことから、修理費用に見合わないと判断され、1998年に製造中止が決定されます。

廃番後、Blackwing 602は瞬く間にカルト的存在へと変貌しました。インターネットの普及とともに愛好家たちがeBayで残存品を競い合い、1本あたり40ドル以上、1ダースでは250ドルを超える価格で取引されるようになりました。ボストン・アシニアム図書館の評議員ロネル・スピロが製造中止直前に25グロス(3,600本)を注文して寄贈したエピソードや、ハーバード大学がコレクションとして所蔵している事実も、この鉛筆の文化的価値を物語っています。

カリフォルニア・シダー・プロダクツ社による復活(2010年)

復活の立役者となったのは、1917年に創業したカリフォルニア・シダー・プロダクツ社(CalCedar)です。バイエルン地方に160年以上の歴史を持つベロルツハイマー家が経営するこの企業は、世界有数の鉛筆用木材スラットのサプライヤーとして、鉛筆産業の根幹を支えてきました。

2007年に同社が「パロミノ」ブランドで発売したプレミアム鉛筆が、かつてのBlackwing 602を彷彿とさせるとして注目を集めたことをきっかけに、愛好家たちからBlackwing復活の声が高まります。2008年にBlackwingの商標権を取得した同社は、3代目CEO チャールズ・ベロルツハイマー2世の指揮のもと、カリフォルニア産インセンスシダーと日本製プレミアムグラファイトを組み合わせた新生Blackwingを開発。2010年に「パロミノ・ブラックウィング」として最初の復刻版を、2011年6月にはBlackwing 602を発売し、自社ECサイト Pencils.com で独占販売を開始しました。

オリジナルのBlackwing 602の愛用者であったスティーヴン・ソンドハイムが新生Blackwing 602を「新しくて、しかも改良されている」と評したことは、復活の正統性を示す象徴的なエピソードとして語り継がれています。

ブランドの進化と現在

パロミノの名を冠して復活した鉛筆は、やがてBlackwing単独のブランドとして独立します。2015年には四半期ごとの限定版シリーズ「Volumes」を開始し、文化的テーマに基づいたコレクターズアイテムとして筆記具愛好家の心を掴みました。2019年には親会社CalCedarが木材スラット事業からBlackwingブランドへの全面的な事業転換を決定。現在は鉛筆にとどまらず、ノートブック、シャープナー、消しゴム、色鉛筆、さらには初のボールペンまで、アナログ・ライフスタイルを包括するプロダクトラインナップを展開しています。

2013年にチャールズ・ベロルツハイマーとジンジャー・ベロルツハイマーが設立したブラックウィング財団は、売上の一部を音楽・芸術教育の支援に充て、Music Will(旧Little Kids Rock)やTeach Rockなどのパートナーシップを通じて、全米のK-12教育における芸術プログラムの拡充に貢献しています。

主なプロダクトとその特徴

ブラックウィングの定番ラインナップは、4種のグラファイト鉛筆で構成されています。いずれもカリフォルニア産インセンスシダーの六角形軸、日本製グラファイト芯、ゴールドのフェルール(口金)、交換可能な消しゴムを備え、一般的な鉛筆よりもやや長めに設計されています。

Blackwing 602

ブラックウィングの原点にして最も象徴的なモデルです。ガンメタルグレーのラッカー仕上げにピンクの消しゴムを備え、軸にはオリジナルと同じ「Half the Pressure, Twice the Speed」のスローガンが刻まれています。ファーム(硬め)のグラファイト芯はB相当の硬度を持ち、筆記に最適です。シャープさを長く保つため、日常的な筆記やジャーナリングに好まれています。

Blackwing Matte(マット)

復活後に最初にリリースされたモデルで、ソフト(柔らかめ)のグラファイト芯を持ちます。3B相当の濃く柔らかい描線は、デッサン、スケッチ、音楽の記譜に最適です。マットブラック仕上げのほか、マットグリーン、マットレッドのカラーバリエーションが用意されており、いずれもブラックの消しゴムを備えています。

Blackwing Pearl(パール)

パールセントホワイトの美しい光沢を持つ仕上げに、バランスド(中間)のグラファイト芯を組み合わせたモデルです。2B相当の硬度は602とMatteの中間に位置し、筆記と描画のどちらにも適した万能型として、カリグラファーやイラストレーターからも支持されています。ホワイト、ピンク、ブルーの軸色から選ぶことができます。

Blackwing Natural(ナチュラル)

定番ラインナップの中で最も硬いエクストラファーム(極硬)のグラファイト芯を備えたモデルです。HB相当の硬度はシャープさを最も長く維持するため、長文執筆や精密な線画に適しています。ラッカーを施さないクリアマット仕上げにより、インセンスシダーの木目と色合いをそのまま楽しめるミニマルなデザインが特徴で、グレーの消しゴムを装着しています。

Blackwing Colors(カラーズ)

ブラックウィングの品質をカラーペンシルで実現したシリーズです。日本製の滑らかなワックスベースの芯を採用し、一般的な色鉛筆に見られるワクシーな質感や崩れやすさを克服しています。軸は芯の色に合わせたカラーリングで、シルバーのフェルールとサンド色の消しゴムを備えています。

Blackwing Volumes(ボリュームズ)

2015年に開始された四半期限定版シリーズは、ブラックウィングの文化的使命を最も鮮やかに体現するプログラムです。各エディションは文化的アイコン、歴史的事象、創造的ムーブメントに敬意を表するデザインと番号を持ち、限定生産で販売されます。これまでにジョン・スタインベックの執筆儀式、エイダ・ラブレスのコンピュータサイエンスへの貢献、キース・ヘリングのアート、フランク・ロイド・ライトの建築、ゴールデンゲートブリッジの工学的偉業、ブルース・リーの哲学など、多彩なテーマが取り上げられてきました。年間サブスクリプション(125ドル)に加入することで、コレクター用の密封アーカイブチューブ付きで全エディションを確実に入手することができます。

ノートブック・アクセサリー

鉛筆を中心としたアナログ・エコシステムを構築するため、ブラックウィングは多彩なアクセサリーを展開しています。100GSMのアイボリーペーパーを使用したハードカバーノートブック(A4、A5、A6)、リーガルパッド、スパイラルノートブックのほか、ドイツ製スチール刃のロングポイントシャープナー(ワンステップ式とツーステップ式)、マシンドアルミニウム製のポイントガード(鉛筆キャップ)、交換用消しゴム、キャンバス製ペンシルケースなどが用意されています。ウォールナットやパイン材のギフトボックスセットは、贈答品としても高い人気を誇ります。

コラボレーション

ブラックウィングは、共通の価値観を持つブランドとの協業にも積極的です。日本の文具ブランド「トラベラーズカンパニー」とのコラボレーションでは、ブラックとナチュラルのツートーンカラーの特別仕様鉛筆とポイントガード、レザーカバーのノートブックを含むカプセルコレクションを発表し、日米双方で大きな反響を呼びました。京都の風呂敷メーカー「結(Musubi)」とのコラボレーションでは、日本の伝統的な包み布にブラックウィングのイラストレーションを施した風呂敷を制作するなど、東西の職人文化の架け橋としても存在感を示しています。

さらに、フェンダー・ストラトキャスターをテーマにしたノートブックや、ジョージ・ハリスンの遺族との協力によるギター「ロッキー」を描いたノートブックなど、音楽文化との結びつきも深いコラボレーションを展開しています。

ブラックウィング財団(Blackwing Foundation)

2013年にチャールズ・ベロルツハイマーとジンジャー・ベロルツハイマーによって設立されたブラックウィング財団は、K-12教育における音楽・芸術プログラムの支援を使命としています。すべてのブラックウィング製品の売上の一部が財団に寄付され、「Ignite the Arts」助成金プログラムを通じて全米の学校やパートナー団体への資金援助が行われています。

主要パートナーであるMusic Will(旧Little Kids Rock)との連携では、公立学校への無料の楽器提供と音楽教育プログラム「Modern Band」の普及を支援。スティーヴン・ヴァン・ザントが設立したTeach Rockとも提携し、幼稚園から高校までの無料音楽カリキュラムの提供に貢献しています。また、財団独自の「Pathways to Creativity」プログラムでは、教室にすぐに導入できる無料のアートプログラムを提供し、筆記やアートを通じた創造性の育成を推進しています。

基本情報

ブランド正式名 ブラックウィング / Blackwing
旧ブランド名 パロミノ・ブラックウィング / Palomino Blackwing
親会社 カリフォルニア・シダー・プロダクツ社(California Cedar Products Company / CalCedar)
設立 1917年(CalCedar創業) / 2010年(Blackwingブランド復活)
オリジナル発表 1934年(エバーハード・ファーバー社によるBlackwing 602の発売)
創業者一族 ベロルツハイマー家(Berolzheimer) ── バイエルン地方に160年以上の鉛筆産業の歴史を持つ
現CEO チャールズ・ベロルツハイマー2世(Charles Berolzheimer II)── 第3世代
所在地 アメリカ合衆国カリフォルニア州ストックトン(2385 Arch Airport Road, Stockton, CA)
製造拠点 木材:アメリカ(カリフォルニア州・オレゴン州) / グラファイト芯・軸仕上げ:日本 / フェルール・消しゴム:ベトナム / 最終組立:アメリカ(ストックトン)
主要プロダクト グラファイト鉛筆(602、Matte、Pearl、Natural)、色鉛筆(Colors)、ノートブック、シャープナー、消しゴム、アクセサリー
公式サイト https://blackwing602.com
関連サイト https://calcedar.com(親会社) / https://pencils.com(ECストア) / https://blackwingfoundation.org(財団)