フィスカース クラシック はさみは、1967年にフィンランドのデザイナー、オロフ・ベックストロームによって設計された、20世紀インダストリアルデザインを代表する傑作である。その鮮烈なオレンジ色のハンドルは、発売から半世紀以上を経た今日においても世界中で愛され続け、はさみのアイコンとしての地位を確立している。フィンランドの老舗刃物メーカー、フィスカース社が製造するこの製品は、機能性と美観の見事な融合により、日用品を芸術の域へと昇華させた稀有な存在として、デザイン史に燦然と輝いている。

特徴・コンセプト

本製品の最大の革新は、ハンドル素材にABS樹脂を採用したことにある。それまで金属製が主流であったはさみのハンドルを、軽量かつ耐久性に優れたプラスチック素材に置き換えることで、長時間の使用における疲労を大幅に軽減することに成功した。人間工学に基づいて設計された非対称形状のハンドルは、親指と他の指それぞれに最適化された開口部を持ち、自然な握り心地と精密な操作性を両立している。

象徴的なオレンジ色の選定には、実用的な理由が存在する。作業台や道具箱の中でも瞬時に見つけられる高い視認性を確保するため、鮮やかなオレンジが採用された。この色彩は後にフィスカース社のブランドアイデンティティとなり、商標として登録されるに至った。

素材と構造

ブレードには高品質なステンレススチールが使用され、鋭い切れ味と長期にわたる耐久性を実現している。刃の角度と研磨は精密に計算されており、紙、布、その他様々な素材を滑らかに裁断することが可能である。ハンドルと刃の接合部には、長年の使用にも耐える堅牢な構造が採用されている。

人間工学的デザイン

ベックストロームは、人間の手の動きを徹底的に研究し、最も自然で効率的な形状を追求した。その結果生まれた曲線的なハンドル形状は、手に馴染む心地よさと、精密な制御を可能にする機能性を兼ね備えている。右利き用と左利き用それぞれのモデルが用意され、すべての使用者に最適な使用感を提供している。

エピソード

フィスカース社は1649年にフィンランドで創業した、北欧最古の企業のひとつである。同社は長年にわたり刃物製造の技術を蓄積してきたが、1960年代に入り、新素材であるプラスチックの可能性に着目した。若き工業デザイナーであったオロフ・ベックストロームに白羽の矢が立ち、革新的なはさみの開発プロジェクトが始動した。

開発にあたり、ベックストロームは数百種類ものプロトタイプを制作し、様々な形状とサイズを検証した。最終的に選ばれたデザインは、美的完成度と機能性の理想的なバランスを達成したものであった。1967年の発売当初、プラスチック製ハンドルという革新的な試みに対しては懐疑的な声もあったが、製品は瞬く間に市場を席巻し、世界的なベストセラーとなった。

発売以来、10億本以上が販売されたとされる本製品は、デザインの基本形を維持しながら、素材の改良や製造技術の進化を取り入れ続けている。オリジナルのオレンジ色モデルは、時代を超えて愛される定番として、現在も生産が続けられている。

評価

フィスカース クラシック はさみは、インダストリアルデザインの金字塔として、世界各国のデザイン機関から高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)は、本製品を永久コレクションに収蔵し、20世紀の優れた工業製品デザインの代表例として展示している。この栄誉は、日用品が持ちうる芸術的価値を認めるものであり、ベックストロームの功績を後世に伝える証となっている。

デザイン評論家や歴史家からは、本製品が単なる道具を超え、大量生産品における美と機能の理想的な統合を体現していると評されている。そのシンプルでありながら洗練されたフォルムは、北欧デザインの精神を象徴するものとして、世界中のデザイナーにインスピレーションを与え続けている。

一般消費者からも、その使いやすさと耐久性において絶大な支持を得ており、世代を超えて愛用される家庭の必需品としての地位を確立している。

受賞歴・収蔵

  • ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション収蔵
  • フィンランド・デザイン・フォーラム殿堂入り
  • iF デザイン賞
  • 各国デザインミュージアムでの展示多数

基本情報

名称 フィスカース クラシック はさみ(Fiskars Classic Scissors)
デザイナー オロフ・ベックストローム(Olof Bäckström)
発表年 1967年
メーカー フィスカース(Fiskars)
原産国 フィンランド
素材 ブレード:ステンレススチール / ハンドル:ABS樹脂
カラー オレンジ(Fiskars Orange)
サイズ展開 全長約21cm(8インチ)ほか各種