ナニ・マルキナ ラグは、1987年にスペイン・バルセロナで創業したラグブランド「Nanimarquina(ナニマルキナ)」が手がけるテキスタイルコレクションである。創業者ナニ・マルキナ(Nani Marquina)は、インド、パキスタン、ネパールに伝わる何世紀にもわたる手織りの伝統技法と、現代のグローバルデザインを融合させることで、ラグという古来のテキスタイルに新たな芸術的価値を付与することに成功した。世界的に著名なデザイナーとのコラボレーションを通じて生み出される各コレクションは、単なる床材の域を超え、空間を彩るアート作品として高い評価を受けている。
特徴・コンセプト
ナニマルキナのラグは、「伝統とイノベーションの融合」という一貫したフィロソフィーに基づいて製作されている。各製品はインドやパキスタン、ネパールの熟練した職人たちによって手織りされ、一枚のラグを完成させるまでに数週間から数ヶ月を要する場合もある。この手仕事へのこだわりは、機械生産では決して再現できない繊細なテクスチャーと、経年とともに深まる風合いを生み出している。
サステナビリティへの取り組み
ナニマルキナは創業当初より環境負荷の低減と社会的責任を重視してきた。同社は製造パートナーとの長期的な関係構築を通じて、フェアトレードの原則に基づいた公正な労働環境の確保に努めている。また、天然繊維であるウールや植物由来の素材を主軸に据え、化学染料の使用を最小限に抑えた自然な色彩表現を追求している。2011年にはCare & Fairイニシアチブに参加し、インド・ネパールにおける児童労働の撲滅と職人の生活向上に積極的に取り組んでいる。
デザインコラボレーション
ナニマルキナの特筆すべき点は、世界的に活躍するデザイナーとの継続的なコラボレーションにある。ロナン&エルワン・ブルレック兄弟、ハイメ・アジョン、パトリシア・ウルキオラ、マルティ・ギセ、ハビエル・マリスカル、ミルトン・グレイサーなど、現代デザイン界を代表するクリエイターたちが、この伝統的なメディアに新たな表現の可能性を見出してきた。これらのコラボレーションは、各デザイナーの独自の美学と職人技の卓越した融合を実現している。
代表的なコレクション
Losanges(ロザンジュ)
フランスを代表するデザインデュオ、ロナン&エルワン・ブルレック兄弟によるコレクション。幾何学的な菱形パターンと繊細なカラーグラデーションが特徴で、アフガニスタンの伝統的なキリム技法を用いて製作される。計算され尽くした色彩の配置は、シンプルでありながら深い奥行きを空間にもたらす。
Silhouette(シルエット)
スペイン人デザイナー、ハイメ・アジョンによる詩的なコレクション。柔らかな曲線と有機的なフォルムが特徴で、アジョン特有の遊び心と洗練されたエレガンスを兼ね備えている。手紡ぎのヒマラヤンウールを使用し、ネパールの職人により丁寧に織り上げられる。
Bicicleta(ビシクレタ)
バルセロナのコンセプチュアルデザイナー、マルティ・ギセによる象徴的な作品。自転車のタイヤ痕をモチーフとしたユニークなデザインは、都市生活における移動の痕跡を詩的に表現している。1999年の発表以来、ナニマルキナを代表するアイコニックなラグとして広く認知されている。
Chillida(チリーダ)
バスク地方出身の世界的彫刻家エドゥアルド・チリーダの芸術遺産を継承するコレクション。チリーダ財団との協力により、彫刻家の力強い造形言語をテキスタイルへと翻訳している。重厚なモノクロームの構成は、彫刻的な存在感を床面に展開する。
Mélange(メランジェ)
スペインのファッションデザイナー、シビラによるコレクション。異なる色相のウール繊維を緻密に混合することで生まれる微妙なニュアンスが特徴である。自然界の色彩を想起させる繊細なカラーパレットは、どのようなインテリアにも調和する普遍的な美しさを持つ。
エピソード
ナニ・マルキナがラグデザインの道を志したのは、1980年代初頭のインド旅行がきっかけであった。当時、テキスタイルデザイナーとして活動していた彼女は、インドの伝統的な手織り技法に深い感銘を受けた。しかし、そこで目にしたのは、卓越した技術を持ちながらも時代遅れのデザインを生産し続ける職人たちの姿であった。この経験から、伝統的な製法を守りながら現代的なデザインを融合させるという、ナニマルキナの基本理念が形成されることとなった。
1987年の創業当初、ナニ・マルキナは自身のアパートの一室から事業を開始した。当時のスペインにおいてラグは単なる実用品と見なされており、デザイン性の高いラグに対する市場はほぼ存在していなかった。しかし彼女は、ラグがインテリアにおける表現媒体となりうることを確信し、粘り強くビジョンを追求した。その後、マルティ・ギセとのコラボレーションによる「Bicicleta」の成功を皮切りに、ブランドは国際的な認知を獲得していく。
評価
ナニマルキナのラグは、デザイン界において極めて高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィトラ・デザイン・ミュージアム、バルセロナ・デザイン・ミュージアムなど、世界有数のデザイン機関が同社の作品をパーマネントコレクションに収蔵している。また、世界各地のデザインホテルやラグジュアリーレジデンス、企業のエグゼクティブオフィスにおいて、空間を象徴するエレメントとして採用されている。
デザイン評論家からは、「ラグを現代アートの領域へと引き上げた革新者」として評され、その功績は単一のブランドの成功にとどまらず、テキスタイルデザイン全体の地位向上に寄与したと認識されている。伝統工芸の継承と現代デザインの融合、そして持続可能な生産体制の構築という三つの軸を同時に実現した稀有な事例として、ビジネスモデルとしても注目を集めている。
受賞歴
- スペイン国家デザイン賞(Premio Nacional de Diseño)(2005年)― スペインにおけるデザイン分野の最高栄誉
- Red Dot Design Award ― 多数のコレクションにて受賞
- iF Design Award ― 複数回受賞
- Good Design Award(アメリカ)
- Wallpaper* Design Awards
- Elle Decoration International Design Award
基本情報
| 名称 | ナニ・マルキナ ラグ / Nani Marquina Rugs |
|---|---|
| デザイナー | ナニ・マルキナ(Nani Marquina)および各コラボレーションデザイナー |
| ブランド | Nanimarquina(ナニマルキナ) |
| 創業年 | 1987年 |
| 創業地 | スペイン・バルセロナ |
| 製造地 | インド、パキスタン、ネパール |
| 主要素材 | ニュージーランドウール、ヒマラヤンウール、シルク、天然繊維 |
| 製造技法 | 手織り(ハンドノット、キリム、ハンドタフト) |
| 主なコラボレーター | ロナン&エルワン・ブルレック、ハイメ・アジョン、パトリシア・ウルキオラ、マルティ・ギセ、ハビエル・マリスカル、エドゥアルド・チリーダ(遺作)、シビラ、ミルトン・グレイサー |