概要
Liquid Layers(リキッド・レイヤーズ)は、オランダのテキスタイルデザイナー、クレール・ヴォスが2021年にMoooi Carpetsより発表した革新的なラグコレクションである。自然界に存在する鉱物、鳥類、花々から着想を得て、それらの形状と色彩を液体のように流動化させ、全く新しいパターンへと昇華させた作品群は、従来のカーペットデザインの概念を根底から覆す画期的な試みとして高い評価を受けている。
本コレクションは、Moooi Carpetsが誇る最先端のデジタルプリント技術により実現された、無限の色彩表現と驚くべき深度を持つパターンデザインが特徴である。瑪瑙(めのう)石、泥灰岩、小石、チューリップ、アラ鳥など、自然界の多様な要素をモチーフとした各デザインは、それぞれが独自の物語性を持ち、空間に詩的な美しさをもたらす。
特徴・コンセプト
「自然の多様な形状と色彩を脱文脈化し、それらを流動的な新しいパターンへと変容させたら何が起こるか」-クレール・ヴォスが自らに投げかけたこの問いが、Liquid Layersコレクションの出発点となった。彼女は、自然界のオブジェクトが持つ本質的な美しさを抽出し、それらを液体のように融解・再構成することで、これまでにない革新的なデザイン手法を確立した。
このコレクションの最大の特徴は、パターンが形状を決定するのではなく、カーペットの形状がパターンの流れと方向性を決定するという逆転の発想にある。従来の矩形に囚われない「オーガニック」と呼ばれる有機的な重なり合う円形や、純粋な円形など、形状そのものが芸術表現の一部となっている。これにより、光と影、明暗の交替が生み出す流動的な効果が、層を重ねるごとに新たな驚きをもたらし続ける。
革新的な製造技術
Liquid Layersの実現を可能にしたのは、Moooi Carpetsが開発した画期的な高精細Chromojetプリンターによるデジタルプリント技術である。従来最大12色までに制限されていたカーペットのプリント技術を、無限の色彩パレットへと拡張したこの技術は、写真のようなリアリスティックな表現さえも可能にした。4メートル幅のキャンバスに極めて精細な線と豊かな色彩のグラデーションを表現できるこの技術により、デザイナーの創造性は新たな次元へと解放された。
さらに環境面においても革新的で、製造過程での水の使用量を従来の30リットルから3リットル(1平方メートルあたり)へと、実に10分の1まで削減することに成功している。これは持続可能な製造プロセスへの重要な一歩となっている。
デザインバリエーション
Liquid Layersコレクションは、自然界の異なる要素からインスピレーションを得た複数のデザインで構成されている。それぞれが独自の色彩パレットと形状を持ち、空間に異なる表情をもたらす。
- Agate(アゲート)
- 古代の結晶から成る強力な幸運の石、瑪瑙石をモチーフとしたデザイン。複雑な層状構造と豊かな色彩の変化が特徴的で、オーガニック形状での展開により、その流動的な美しさが最大限に表現される。
- Marl(マール)
- 泥灰岩の自然な色彩の層を表現したデザイン。アースカラーを基調とした落ち着いた色調が、ミニマリスティックな空間に温かみと個性をもたらす。円形での展開が多く、角張った空間に柔らかさを加える。
- Pebble(ペブル)
- 時を経て滑らかになった小石をイメージしたデザイン。タイムレスなグレーとアースカラーのトーンが、どのような空間にも調和する普遍的な美しさを持つ。
- Tulip(チューリップ)
- 春のオランダの典型的な風景に見られる色彩の配列を表現。鮮やかで生き生きとした色調が、空間に活力と喜びをもたらす。
- Ara(アラ)
- 熱帯の鳥アラオウムの鮮やかな羽をモチーフとしたデザイン。エキゾチックな色彩の組み合わせが、空間に劇的なアクセントを加える。
素材と仕上げ
Liquid Layersコレクションは、使用目的と求められる質感に応じて、3種類の異なる素材で製作が可能である。それぞれの素材は、デジタルプリント技術により同等の高精細な表現を実現しながら、異なる触感と機能性を提供する。
- Low Pile Polyamide(ローパイル・ポリアミド):高い交通量のある商業施設に最適な、耐久性に優れた素材。パイルが低く密度が高いため、メンテナンスが容易で、長期間美しさを保持する。
- Soft Yarn Polyamide(ソフトヤーン・ポリアミド):柔らかな触感を持つ高級ポリアミド繊維を使用。住宅やホスピタリティ空間に最適で、快適な歩行感と優れた耐久性を両立している。
- Wool(ウール):天然素材ならではの温かみと高級感を持つウール製。Moooi Carpetsの革新的技術により、初めてウール素材への高精細デジタルプリントが可能となった。
エピソード
クレール・ヴォスは、常に新しいデザインの方向性と技術を探求する中で、「自然のアート」にインスピレーションを受けたパターンが流動的になり、カーペットの形状が明暗の色調の変化の方向を決定するカーペットシリーズを想像した。この着想は、彼女が長年にわたって培ってきたテキスタイルデザインの経験と、パートナーであるロデリック・ヴォスとの協働から生まれた。
特筆すべきは、このコレクションの開発において、Moooi Carpetsの創設者マルセル・ワンダースが果たした役割である。10年以上前にデジタルプリント技術の可能性を見出したワンダースは、この革新的な技術が独自の空間で成長する必要があると確信し、2015年にMoooi Carpetsを立ち上げた。Liquid Layersコレクションは、この技術的基盤の上に、クレール・ヴォスの創造的ビジョンが結実した成果といえる。
評価
Liquid Layersコレクションは、2021年の発表以来、国際的なデザイン界から高い評価を受けている。特にホスピタリティ業界において、その革新的なデザインアプローチと高い芸術性が注目され、世界各地のラグジュアリーホテルやレストランで採用されている。
デザイン専門誌「Hotel Designs」は、このコレクションを「バイオフィリックデザインへの需要の高まりに応える、自然との一体感を生み出す画期的な作品」と評価し、特に表面的な美しさを超えて、自然の本質を捉えたデザインアプローチを称賛している。
また、商業施設向けデザインの観点から、Steelcase社との提携により北米市場への展開が実現し、オフィス空間の人間性回復と創造性向上に貢献するデザインとして高く評価されている。従来のオフィスカーペットの概念を覆す芸術的表現は、ワークプレイスデザインの新たな可能性を示すものとして注目を集めている。
デザイナーについて
クレール・ヴォスは、1984年にオランダのアイントホーフェン・デザインアカデミーで工業デザインの研究を開始した。アムステルダムのStudio Benno Premselaとスイスのクリエイション・バウマンでインターンとして経験を積み、イタリアとインドネシアで技術を学んだ後、1990年に家具デザイナーであるパートナーのロデリック・ヴォスと共に卒業した。
1999年、クレールとロデリック・ヴォスは、オランダのホイスデン・ヴェスティングに拠点を置くデザイン事務所「Studio Roderick Vos」を正式に設立。国際的なデザインブランド向けに照明、テキスタイル、アクセサリー、家具をデザインしている。クレール・ヴォスの作品は、視覚的なテクスチャー、豊かな曲線、独特のシルエットを強調することで知られ、色彩の混合とグラデーションによる現代的な表現は、彼女の典型的なシグネチャーとなっている。
| 製品名 | Liquid Layers(リキッド・レイヤーズ) |
|---|---|
| デザイナー | Claire Vos(クレール・ヴォス) |
| ブランド | Moooi Carpets(モーイ・カーペット) |
| 発表年 | 2021年 |
| 素材 | ポリアミド(ナイロン)、ソフトヤーン、ウール |
| 製造技術 | 高精細デジタルプリント(Chromojetプリンター) |
| サイズ展開 | 長方形:200×300cm、300×400cm オーガニック:185×300cm、247×400cm 円形:直径250cm、350cm |
| デザインバリエーション | Agate、Marl、Pebble、Tulip、Ara、Brown |
| 形状 | Organic(有機的形状)、Round(円形)、Rectangle(長方形) |
| 生産地 | オランダ |