アンニ・アルバース ラグは、20世紀を代表するテキスタイル・アーティスト、アンニ・アルバース(Anni Albers, 1899–1994)がデザインした織物作品を、現代の技術によりラグとして復刻・製品化したものである。バウハウスで培われた厳格な造形理論と、古代アメリカ大陸の織物文化から得たインスピレーションが融合したそのデザインは、幾何学的な構成美と繊細な色彩感覚を特徴とし、工芸と芸術の境界を超えた存在として高く評価されている。
現在、英国のテキスタイル・メーカー、クリストファー・ファー(Christopher Farr)がアルバース財団の公式ライセンスのもとで製作するラグコレクションは、アンニ・アルバースのオリジナル・デザインを忠実に再現しつつ、現代の住空間に調和する形で提供されている。また、ノルテキスタイルズ(Knoll Textiles)も、彼女の代表的なファブリック・デザインを製品化し、その芸術的遺産を継承している。
特徴・コンセプト
バウハウスの造形原理
アンニ・アルバースのデザインは、バウハウスで体系化された「形態は機能に従う」という原則を織物の領域において実践したものである。彼女は糸という素材そのものの特性—張力、光沢、テクスチャー—を深く理解し、それらを最大限に活かす構造を追求した。その作品において、装飾は構造から自然に生じるものであり、付加的な要素として後から加えられるものではない。
幾何学的構成と色彩理論
アルバースのラグ・デザインは、直線、格子、ストライプといった基本的な幾何学形態を組み合わせた構成を特徴とする。夫であるジョセフ・アルバースの色彩研究にも影響を受け、色の相互作用—隣接する色がいかに互いの知覚に影響を与えるか—に対する鋭い感覚が、作品全体に緊張感と調和をもたらしている。限られた色数で深い視覚的効果を生み出す手法は、彼女の作品の際立った特質である。
古代織物への敬意
1935年以降、メキシコおよび南米への旅を通じて、アンニ・アルバースは先コロンブス期の織物文化に深い感銘を受けた。特にペルーの古代織物における複雑な構造技法と、限られた技術で実現された驚くべき多様性は、彼女の作品に決定的な影響を与えた。工業化以前の織物がもつ誠実さと素材への敬意は、彼女のデザイン哲学の核心となった。
代表作品
ウォール・ハンギング作品
「黒-白-金 I」(Black-White-Gold I, 1950)および「赤と青の層」(Red and Blue Layers, 1954)は、アンニ・アルバースの代表的なウォール・ハンギング作品であり、現在クリストファー・ファーによりラグとして復刻されている。これらの作品は、糸の光沢差と色彩の層状構成により、見る角度によって異なる表情を見せる。
クリストファー・ファー コレクション
クリストファー・ファーによる公式コレクションには、「TR I」「TR II」「TR III」をはじめとする三角形モチーフのシリーズ、「Eclat」シリーズ、そして晩年の版画作品を基にした「Second Movement」シリーズなどが含まれる。いずれもニュージーランド産ウールを使用し、ネパールの熟練職人による手織りで製作されている。
ノル・テキスタイルズによる復刻
ノル・テキスタイルズは、アンニ・アルバースが1949年にハーバード大学大学院センター(現ハーバード・スミス・キャンパス・センター)のためにデザインしたアップホルスタリー・ファブリックを製品化している。その抑制された色調と耐久性を兼ね備えたデザインは、モダニズム建築との調和を意図したものである。
エピソード
バウハウスへの入学と織物との出会い
1922年、ベルリンの裕福な家庭に生まれたアンネリーゼ・フライシュマン(後のアンニ・アルバース)は、バウハウスに入学した。当初は絵画を志望していたが、当時の社会状況により女性は織物工房への配属を推奨された。しかし、この「強制された」出会いが、彼女の芸術人生を決定づけることとなった。彼女は後に「糸は私に自由を与えてくれた」と述懐している。
ニューヨーク近代美術館での歴史的展覧会
1949年、アンニ・アルバースはニューヨーク近代美術館(MoMA)で個展を開催した。これはテキスタイル・アーティストとして同美術館で初めての個展であり、織物を純粋芸術として美術館のコンテクストで提示した画期的な出来事であった。この展覧会は全米を巡回し、織物に対する認識を根本的に変えた。
『織ることについて』の出版
1965年に出版された著書『On Weaving(織ることについて)』は、織物の技術的・歴史的・美学的側面を包括的に論じた名著として、今日なお重要な参考文献であり続けている。糸と構造の本質に迫るその洞察は、テキスタイル・デザインを学ぶ者にとって必読の書とされる。
評価と影響
アンニ・アルバースは、20世紀における最も重要なテキスタイル・アーティストの一人として国際的に認められている。彼女の功績は、織物を「工芸」の領域から「芸術」の次元へと引き上げたことにある。その影響は現代のテキスタイル・デザイン、インテリア・デザイン、さらには抽象絵画の領域にまで及んでいる。
テート・モダン(ロンドン)、ニューヨーク近代美術館、グッゲンハイム美術館をはじめとする世界の主要美術館がアルバースの作品を所蔵し、回顧展を開催している。2018年から2019年にかけてテート・モダンで開催された大規模回顧展は、彼女の芸術的遺産への関心を世界的に再燃させた。
受賞歴・栄誉
- 1961年:アメリカ工芸協会(American Craft Council)ゴールド・メダル受賞
- 1949年:ニューヨーク近代美術館(MoMA)個展開催——テキスタイル・アーティストとして初
- 1971年:フィラデルフィア美術大学(現ジェファーソン大学)名誉博士号授与
- 1977年:王立芸術大学(ロンドン)名誉会員
- 1980年:アメリカ芸術文学アカデミー会員選出
基本情報
| デザイナー | アンニ・アルバース(Anni Albers, 1899–1994) |
|---|---|
| 国籍 | ドイツ生まれ、後にアメリカに帰化 |
| デザイン年代 | 1920年代〜1960年代 |
| 現行メーカー | クリストファー・ファー(Christopher Farr)、ノル・テキスタイルズ(Knoll Textiles) |
| 素材 | ニュージーランド産ウール、シルク、リネン(作品により異なる) |
| 製法 | 手織り(ネパール製)/機械織り(製品により異なる) |
| スタイル | バウハウス、モダニズム、幾何学的抽象 |
| 主要所蔵美術館 | ニューヨーク近代美術館、テート・モダン、グッゲンハイム美術館、メトロポリタン美術館 |