WMF ソルト&ペッパー シェイカーは、ドイツの工業デザイナー、ヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルトが1952年にドイツの老舗金属製品メーカーWMF(ヴュルテンベルク金属製品工場)のために設計したテーブルウェアである。ドイツでは「マックス・ウント・モーリッツ(Max und Moritz)」の愛称で親しまれ、70年以上にわたり生産が継続されている20世紀を代表するインダストリアルデザインの傑作として、世界中のデザイン愛好家から高い評価を受けている。
バウハウスの教育を受けたヴァーゲンフェルトは、「形態は機能に従う」という近代デザインの原則を忠実に体現しながらも、有機的で親しみやすい造形を実現した。本作品は、機能性と美的完成度を高い次元で両立させた、戦後ドイツ工業デザインの金字塔である。
特徴・コンセプト
本シェイカーの最大の特徴は、緩やかなカーブを描く洋梨形のシルエットにある。上部がわずかに膨らみ、底部に向かって優美に絞り込まれたフォルムは、手のひらに自然と馴染む人間工学的な配慮がなされている。この柔らかな曲線美は、バウハウスの厳格な幾何学とは一線を画し、ヴァーゲンフェルトが戦後に追求した「人間味のある機能主義」を象徴している。
素材と仕上げ
本体には高品質のクロマーガン・ステンレススチールが採用され、光沢のある鏡面仕上げが施されている。ステンレススチールは耐食性に優れ、長期間使用しても美しい輝きを保つことができる。上蓋には精密な穴加工が施され、塩と胡椒それぞれに最適な量が均一に振り出される設計となっている。
視認性への配慮
塩用と胡椒用を明確に区別するため、上蓋の穴の配列パターンが異なる設計が採用されている。この機能的な差異は、視覚的な識別を容易にすると同時に、全体の調和を損なうことなく統一感のあるペアとしての美観を保っている。
エピソード
「マックス・ウント・モーリッツ」という愛称は、19世紀ドイツの風刺画家ヴィルヘルム・ブッシュの同名の物語に登場するいたずら好きの双子の少年に由来する。二つのシェイカーが寄り添うように並ぶ姿が、物語の中で常に行動を共にする二人の少年を連想させることから、この親しみやすい名称が自然発生的に定着したとされる。
ヴァーゲンフェルトは1949年にWMFとの協働を開始し、同社のデザイン顧問として数々の製品を手がけた。本シェイカーは、その協働の初期における代表作であり、ヴァーゲンフェルトが提唱した「良いフォルム(Die gute Form)」の理念を具現化した作品として位置づけられる。発売当初から好評を博し、ドイツの家庭におけるテーブルウェアの定番として世代を超えて愛用されてきた。
評価
WMF ソルト&ペッパー シェイカーは、20世紀のインダストリアルデザインを代表する名作として、国際的に高い評価を確立している。ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ミュンヘンの新収集館など、世界有数のデザインミュージアムのパーマネントコレクションに収蔵されている。
本作品が70年以上にわたり生産され続けているという事実は、そのデザインの普遍性を何よりも雄弁に物語っている。流行に左右されることなく、時代を超えて機能し続ける「タイムレスデザイン」の典型例として、デザイン教育の現場でも頻繁に取り上げられる。バウハウスの理念を継承しながらも、より人間的で温かみのある造形言語を確立したヴァーゲンフェルトの功績を示す、極めて重要な作品である。
受賞歴・収蔵
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション収蔵
- ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館収蔵
- ミュンヘン国際デザイン博物館(Die Neue Sammlung)収蔵
- ドイツ・デザイン評議会「クラシックス・オブ・デザイン」認定
基本情報
| 製品名 | ソルト&ペッパー シェイカー(Max und Moritz) |
|---|---|
| デザイナー | ヴィルヘルム・ヴァーゲンフェルト(Wilhelm Wagenfeld) |
| デザイン年 | 1952年 |
| メーカー | WMF(Württembergische Metallwarenfabrik) |
| 生産国 | ドイツ |
| 素材 | クロマーガン・ステンレススチール(18/10ステンレス) |
| 寸法 | 高さ:約6.5cm、直径:約4.5cm |
| 生産状況 | 現行生産品 |