キッチンクロック・ウィズ・タイマーは、1956年から1957年にかけてスイスの巨匠デザイナー、マックス・ビルがドイツの名門時計メーカー、ユンハンスのために設計した壁掛け時計である。ウルム造形大学(HfG Ulm)の初代学長を務めていたビルが、学生たちとの協働のもとに生み出したこの時計は、バウハウスの理念を継承する戦後ドイツモダニズムデザインの象徴的な作品として、今日まで高く評価されている。

明るいライトブルーのセラミックケースに白い文字盤を配したこの時計は、単なる時刻表示装置にとどまらず、60分タイマーを組み込んだ実用的なキッチンツールとして機能する。卵形の優美なフォルムと機能美を兼ね備えたデザインは、「形態は機能に従う」というバウハウスの基本原理を見事に体現している。ニューヨーク近代美術館(MoMA)やヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)などの主要な美術館がコレクションに加えるなど、20世紀デザイン史における重要な位置を占める作品である。

デザイン哲学と特徴

バウハウス思想の継承

マックス・ビルは若き日にデッサウのバウハウスで、ワシリー・カンディンスキー、パウル・クレー、オスカー・シュレンマーといった巨匠たちから学んだ経験を持つ。キッチンクロック・ウィズ・タイマーには、その教えが色濃く反映されている。ビル自身が語ったように、この時計のデザインは「機能から美を生み出すだけでなく、美を機能と同等のものとして求める」という理念に基づいている。

戦後西ドイツのモダニズムの旗手となったウルム造形大学は、「新しいバウハウス」として知られた。ビルと同僚たちは、戦後アメリカの流線型スタイリングに対する視覚的・哲学的な対抗軸として、合理主義的モダニズムの理想を追求した。キッチンクロックは、この思想を産業界との協働によって具現化した、ウルム造形大学による最も初期の、そして最も注目すべき製品デザインのひとつである。

教育的意図と家庭生活への配慮

ビルは、このキッチンクロックのデザインについて、明確な意図を持っていたことを後に語っている。「明らかなことだった。この時計には数字が必要だ。分目盛には時を示す数字を、そしてタイマーには分を示す数字を。なぜか?多くの家庭では、キッチンクロックが唯一の壁掛け時計だからだ。そこから子供たちは時間を認識し、最初の数字を読むことを学び、時と日の秩序を理解する。そしてそれは、美しい食器のように、明るく親しみやすいものであるべきだ」

この言葉は、ビルのデザインが単なる美的追求にとどまらず、家庭における教育的役割や日常生活の質の向上を深く考慮したものであったことを示している。時計製作者であった祖父を持ち、幼少期から美しい古時計に囲まれて育ったビルにとって、時計は特別な思い入れのある対象であった。彼は生涯にわたって出会う時計を、祖父の時計と比較し続けたという。

形態と機能の完璧な統合

キッチンクロック・ウィズ・タイマーの形態は、その機能性と不可分に結びついている。ドーム型のミネラルガラスに覆われた白い釉薬仕上げの文字盤は、マックス・ビルが1956年に開発した独自のタイポグラフィーを採用し、極めて優れた視認性を実現している。時針と分針は最小限のデザインながら精確さを保ち、様式化されたアラビア数字と内側の分目盛を正確に指し示す。文字盤中央上部には控えめにユンハンスのロゴが配され、静かで目的に忠実なデザインを完成させている。

ライトブルーの釉薬をかけたセラミックケースは、バーデン=ヴュルテンベルク州のマヨリカ製陶所で丁寧に手作業で製作される。この明るい色彩は、1950年代の楽観的な時代精神を反映するとともに、キッチンに華やかさをもたらす。卵形またはティアドロップ型と形容される優美なフォルムの下部には、60分までの調理時間や焼き時間を計測できる機械式タイマーが組み込まれている。設定時間の経過を知らせるチャイム音は、1950年代を思わせる懐かしい音色を響かせる。

時計を囲むクロームメッキのベゼルは、1950年代の美学を象徴する細部であり、全体のデザインに時代性と洗練をもたらしている。このように、すべての要素が実用的価値と日常使用における利便性を綿密に考慮して配置されており、ビルの「デザインにおける道徳的目的」という理念を体現している。

デザインの背景とエピソード

ウルム造形大学での協働制作

1953年に設立されたウルム造形大学は、ナチスに抵抗して1943年に処刑された兄妹の記憶に捧げられた学校として、インゲ・アイヒャー=ショル、オトル・アイヒャーらによって構想された。当初は民主的教育、政治、哲学、文化を統合した機関として計画されていたが、元バウハウスの学生であり、スイス工作連盟の会長を務めていたマックス・ビルが初代学長として招聘されたことで、デザインを中心とした教育機関へと方向性が定まった。

ビルは学長として、また教育者として、理論と実践を統合する教育を重視した。キッチンクロック・ウィズ・タイマーは、まさにこの教育理念の産物である。ビルは自身の「理想時計」のスケッチをもとに、学生たちと協働してこのデザインを完成させた。共同デザイナーとして名を連ねるエルンスト・メックルもこの過程に関わっている。この協働作業は、デザイン教育における理想的なモデルとして、後世に大きな影響を与えた。

ユンハンスとの長期的パートナーシップの始まり

1956年、ドイツの時計メーカー、ユンハンスがマックス・ビルに日常的な実用品のデザインを依頼したことが、両者の長期的な協働関係の始まりとなった。ユンハンスは当時、世界第三位のクロノメーター製造者であり(ロレックス、オメガに次ぐ)、高度な技術力を誇っていた。ビルのウルム時代に始まったこの関係は、その後数十年にわたって続くこととなる。

ユンハンスはビルに、機械式8日巻きムーブメント「エクサクタ」と、セラミック製でタイマー機能を備えるという条件を提示した。それ以外の要素はすべてビルとそのチームに委ねられた。この信頼関係のもとで生まれたキッチンクロックは、機能主義的デザインがバウハウス以来求めてきた理想、すなわち「製品はその機能を最適に果たすように設計されるべき」という原則を、模範的な形で実現した。

キッチンクロックで確立されたビルのタイポグラフィーと文字盤デザインの論理性は、1961年にユンハンスの腕時計デザインへと発展し、今日まで続く「マックス・ビル」コレクションの基礎となった。このように、キッチンクロックは単独の傑作であるだけでなく、長期的なデザイン言語の起点となった記念碑的作品である。

ドイツ家庭に浸透した日常のアイコン

ユンハンスはこのキッチンクロックを数千個製造し、1950年代から1960年代のドイツの家庭で広く使用された。多くの家族にとって、この明るいブルーの時計は、戦後復興期の明るい未来への希望を象徴する存在であった。キッチンという家庭の中心で、日々の食事の準備を見守り、子供たちに時間の読み方を教え、家族の生活に秩序をもたらした。

しかし、オリジナルのキッチンクロックは製造終了後、希少なコレクターズアイテムとなった。完璧な状態のものを見つけることは困難となり、デザイン愛好家やコレクターの間で高値で取引されるようになった。この状況を受けて、ユンハンスは2021年に、オリジナルの色、形状、素材に忠実な復刻版を発売した。現代版はクォーツムーブメントまたは電波時計を採用しているが、機械式タイマーはオリジナルと同じ仕組みを維持し、1950年代と同じチャイム音を響かせる。

評価と影響

美術館コレクションと批評的評価

キッチンクロック・ウィズ・タイマーは、20世紀デザイン史における重要作品として、世界の主要な美術館に収蔵されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)は1956-1957年製のオリジナルを建築・デザイン購入基金により取得し、常設コレクションに加えた。また、2010年には「カウンター・スペース:デザインとモダン・キッチン」展において特別に展示され、その「完璧な卵形」と「ロビンエッグブルーの完璧な色調」、そして「エレガントなティアドロップ型」が称賛された。

ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)もコレクションに加えており、戦後西ドイツモダニズムの象徴的作品として位置づけている。V&Aの解説では、この時計がウルム造形大学の産業協働における初期の、そして最も注目すべき成果のひとつであることが強調されている。ヨーロッパ全体に大きな影響を与えたモダニスト・プロダクトデザインの遺産として、その歴史的重要性が認識されている。

現代デザインへの継続的影響

マックス・ビルのキッチンクロックは、そのデザインが生み出されてから60年以上が経過した今日においても、美学と明快さを少しも失っていない。時代を超越した魅力は、ビルが追求した形態と機能の完璧な調和によるものである。ビル自身の言葉を借りれば、「形態と機能が共に働き、美しく有用な道具を生み出した」のである。

この時計の影響は、単なるデザインの模倣にとどまらない。ミニマリズム、機能美、タイムレスデザインといった概念が現代デザイン界で重視されるようになった背景には、マックス・ビルをはじめとするバウハウス継承者たちの仕事がある。キッチンクロックは、日用品に対する真摯なデザインアプローチの重要性を示す教科書的存在として、デザイン教育の現場でも繰り返し参照されている。

2021年の復刻版が即座に世界中のデザイン愛好家から歓迎されたことは、このデザインの普遍的価値を証明している。デジタル時代にあって、アナログの機械式タイマーを備えた壁掛け時計が再び注目を集めるという事実は、真に優れたデザインが時代や技術の変化を超えて存在し続けることを示している。

産業デザインにおける倫理的側面

キッチンクロック・ウィズ・タイマーは、産業デザインにおける「道徳的目的」という概念を体現した作品としても評価されている。ビルとウルム造形大学の同僚たちが共有した「グッドフォーム」の伝統、すなわち「デザインを通じた道徳的目的」という思想は、単に美しい製品を作ることではなく、人々の生活の質を向上させ、社会に貢献する製品を創造することを意味していた。

このキッチンクロックは、そうした理念の具現化である。子供たちの教育を支援し、家事の効率を高め、キッチンに明るさと秩序をもたらす。過度な装飾を排し、長期使用に耐える品質を備え、修理可能な構造を持つ。こうした特性は、今日のサステナブルデザインやユニバーサルデザインの先駆けとも言える。マックス・ビルのキッチンクロックは、デザインが美と機能を超えて、より良い社会の実現に寄与できることを示した歴史的証左である。

基本情報

デザイナー マックス・ビル、エルンスト・メックル
製造 ユンハンス(Gebrüder Junghans AG)
デザイン年 1956年
製造年 1956-1957年(オリジナル)、2021年(復刻版)
分類 壁掛け時計
素材 セラミック(釉薬仕上げ)、金属(クロームメッキベゼル)、ガラス(ドーム型ミネラルガラス)
サイズ 高さ約252mm × 幅約180mm × 奥行約56mm
カラー ライトブルー(セラミックケース)、ホワイト(文字盤)
機能 時計機能、60分タイマー機能
ムーブメント 機械式8日巻き(オリジナル)、クォーツまたは電波時計(復刻版)
製造国 ドイツ
デザイン背景 ウルム造形大学(HfG Ulm)における教育プロジェクト
所蔵 ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)