キッチンクロック・ウィズ・タイマーは、1956年にマックス・ビルがドイツの時計メーカー、ユンハンスのために設計した壁掛け時計である。ウルム造形大学(HfG Ulm)の教育プロジェクトとして、ビルが学生たちとの協働により生み出した作品で、共同デザイナーとしてエルンスト・メックルが名を連ねる。明るいライトブルーの釉薬セラミックケースに白い文字盤を備え、文字盤下部に60分計の機械式タイマーを組み込んだ、戦後ドイツの機能主義デザインを代表する一作である。
「形態は機能に従う」という機能主義の原則を反映した本作は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)のコレクションにも収蔵され、20世紀の優れた日用品デザインの一例として位置づけられている。
デザインの特徴
素材とフォルム
ライトブルーの釉薬をかけたセラミックケースは、バーデン=ヴュルテンベルク州のマヨリカ製陶所で手作業により製作される。卵形(ティアドロップ型)の優美なフォルムの下部には、調理や焼き時間を最大60分まで計測できる機械式タイマーが組み込まれている。設定時間が経過するとチャイムが鳴る仕組みである。文字盤を囲むクロームメッキのベゼルとドーム型ガラスが、全体に1950年代らしい意匠をもたらしている。
視認性とタイポグラフィー
白い釉薬仕上げの文字盤には、マックス・ビルが本作のために整えたタイポグラフィーが用いられ、高い視認性を実現している。最小限のデザインの時針・分針が、様式化された数字と分目盛を指し示す。ビルはこの時計のデザイン意図を次のように説明している。「時計には数字が必要だ。多くの家庭ではキッチンの時計が家にただひとつの壁掛け時計であり、子供たちはそこから時間を読むことを学ぶ。だからそれは、美しい食器のように明るく親しみやすいものであるべきだ」。日常の道具としての実用性と、家庭での教育的役割の両面を考慮したデザインであった。
誕生の背景
本作は、1956年にユンハンスがマックス・ビルに日用品のデザインを依頼したことから生まれた、両者の協働の出発点である。ユンハンスは機械式ムーブメントとセラミックケース、タイマー機能という条件を提示し、それ以外の意匠はビルとそのチームに委ねられた。ビルは自身が描いた「理想の時計」のスケッチをもとに、ウルム造形大学の学生たちと協働して本作を完成させた。
このキッチンクロックで確立された文字盤の論理性とタイポグラフィーは、1961年に始まるユンハンスの腕時計「マックス・ビル」コレクションへと発展し、今日まで続くシリーズの基礎となった。オリジナルは1950年代から1960年代にかけてドイツの家庭で広く使われたが、後に希少なコレクターズアイテムとなり、2021年にはオリジナルの色・形状・素材に忠実な復刻版が発売された。復刻版はクォーツまたは電波ムーブメントを採用する一方、機械式タイマーはオリジナルと同じ仕組みとチャイム音を維持している。
評価と収蔵
キッチンクロック・ウィズ・タイマーは、20世紀のプロダクトデザインを代表する作品として複数の美術館に収蔵されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)は1956–1957年製のオリジナルを所蔵し、2010年から2011年の「Counter Space:デザインとモダン・キッチン」展でも展示された。ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)もマックス・ビルとエルンスト・メックルによる本作を所蔵している。いずれもウルム造形大学と産業界との協働が生んだ、戦後モダニズムの初期の成果として位置づけている。
基本情報
| デザイナー | マックス・ビル、エルンスト・メックル |
|---|---|
| 製造 | ユンハンス(Gebrüder Junghans AG) |
| デザイン年 | 1956年 |
| 製造年 | 1956–1957年(オリジナル)、2021年(復刻版) |
| 分類 | 壁掛け時計 |
| 素材 | セラミック(釉薬仕上げ)、金属(クロームメッキベゼル)、ガラス |
| カラー | ライトブルー(セラミックケース)、ホワイト(文字盤) |
| 機能 | 時計機能、60分タイマー機能 |
| ムーブメント | 機械式(オリジナル)、クォーツまたは電波(復刻版) |
| 製造国 | ドイツ |
| 所蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A) |