Zettel'z 5は、1997年にインゴ・マウラーがデザインしたペンダントライトである。80枚のA5サイズの日本製手漉き和紙を、細いステンレス棒のクリップに留めて構成され、使用者が紙の配置や書き込みを自由に変えられる参加型の照明として広く知られている。

31枚の和紙にはあらかじめ詩的な言葉や図柄が印刷され、残る49枚は白紙で提供される。使用者は白紙にメッセージやスケッチを描き込むことができ、照明器具でありながら個人の表現を映す媒体としても機能する。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに収蔵されている。

デザインコンセプト

薄く半透明な日本製手漉き和紙は、光を柔らかく拡散させながら繊細な影を生み出す。マウラーはこの素材の質感を生かし、光と影の境界を扱う表現手段として和紙を採用した。

「Zettel」とはドイツ語で「メモ」や「紙片」を意味する。日常的なコミュニケーションの断片が集まって一つの光のかたまりを形づくるという発想が、この命名に反映されている。使用者が言葉や絵を書き込める白紙は、機能的な照明器具を、個人の記憶や感情を映すオブジェクトへと変える役割を担う。

構造的特徴

基本構造は、ステンレススチール製のフレームと耐熱性サテンガラスのディフューザーから成る。フレームから放射状に伸びる細いステンレス棒には小さなクリップが取り付けられ、ここに和紙を自由に配置する。

照明は上下二つの光源で構成される。上部のソケットは和紙を透過した環境光を空間に拡散させ、下部のソケット(PAR30)はテーブル面などへの直接光として機能する。現行の正規品は電球別売で、使用者が交換でき、LEDレトロフィットランプにも対応する。

カスタマイゼーションの自由度

和紙の配置は自由に変更でき、密に重ねれば厚みのある光のかたまりが生まれ、疎らに配せば軽やかな印象になる。空間の広さや用途、気分に応じて表情を変えられる。

白紙への書き込みは、詩句、俳句、スケッチ、覚え書きなど多様な表現を受け入れる。来客に書き込みを依頼すれば、照明器具が共同制作の場となり、時間とともに少しずつ変化していく。

デザインの背景

Zettel'z 5が生まれた1990年代後半は、電子メールやモバイル通信の普及によって、手書きのメモや手紙といった物理的なやり取りが急速に減りつつある時期であった。マウラーは、手書きという行為がもつ親密さと物理性に光を当てる作品として、この照明を構想した。

発表以来、交換用の白紙セット(80枚入り)が別途用意されるなど、長期的な使用と継続的な更新を前提とした設計がなされている。

評価と影響

Zettel'z 5は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに収蔵されている(作者からの寄贈による収蔵)。完成された製品ではなく、使用者の参加によって最終的な姿が定まるという構成は、照明器具に参加型デザインの考え方を持ち込んだ事例として位置づけられている。

個人の言葉や絵が光の中に現れるという体験は、照明を機能的な道具にとどめず、記憶や感情を映す存在として扱う可能性を示した。日本の手漉き和紙という伝統素材と現代的な照明技術を組み合わせた点も、この作品の特徴として挙げられる。

派生作品とバリエーション

より小型のZettel'z 6も用意されており、A6サイズの和紙を用い、拡散光のための単一光源を備えた簡略な構造を持つ。また、特別な印刷を施した限定エディションも制作されており、イタリアをテーマにしたZettel'z Viva l'Italiaや、仏像を主題としたZettel'z Laughing Buddhaなどが知られている。

基本情報

製品名 Zettel'z 5
デザイナー インゴ・マウラー(Ingo Maurer)
製造元 Ingo Maurer GmbH
発表年 1997年
分類 ペンダントライト
主要素材 ステンレススチール、耐熱性サテンガラス、日本製手漉き和紙
サイズ 全体径:約120cm(和紙の配置により変化)/ キャノピー径:11cm / ケーブル長:330cm(標準)、600cm(特注)
光源 E27(日本仕様はE26)ソケット×2の二重光源(上部アップライト/下部PAR30ダウンライト)。現行正規品は電球別売・LED対応
付属品 A5サイズ和紙80枚(印刷済み31枚、白紙49枚)
オプション 交換用白紙セット(80枚入り)別売
コレクション収蔵 ニューヨーク近代美術館(MoMA)ほか
原産国 ドイツ