Type 75は、英国を代表するプロダクトデザイナー、サー・ケネス・グランジによって2004年にデザインされたデスクランプである。本作品は、Anglepoiseブランドにおけるベストセラー製品として、世界中で高い評価を獲得している。1970年代版のAnglepoise Apex 90からインスピレーションを得たType 75は、モダニストの美学と機能性を21世紀に継承する現代的な照明器具として誕生した。

Anglepoiseの伝統的な定張力スプリング機構を搭載しながら、グランジは従来のデザインを洗練させ、よりミニマルで現代的な外観を実現した。細長いシェード形状と直線的なラインは、オリジナルの1227モデルが持つヴィンテージの工業的外観から一線を画し、コンテンポラリーなインテリア空間に調和する上品な存在感を生み出している。

特徴・コンセプト

デザイン哲学

ケネス・グランジは、Anglepoiseの本質である「バランスの奇跡」を維持しながら、1970年代のApex 90が持つモダニストの造形言語を現代に翻訳することを目指した。グランジ自身がデザインディレクターとしてAnglepoiseに就任した2003年以降、ブランドの近代化を推進する中で、Type 75は同社の新時代を象徴する製品となった。

本作品のコンセプトは「無駄のない機能性」にある。装飾的要素を排除し、タスクランプとしての本質的な機能美を追求した結果、時代を超越したタイムレスなデザインが実現された。この簡潔さこそが、ホテルからホームオフィスまで、あらゆる空間に溶け込む汎用性を生み出している。

技術的特徴

Type 75の核心は、Anglepoiseが1930年代から継承する革新的な定張力スプリング機構にある。この精密な工学システムにより、ランプは軽いタッチで自在に動き、設定した位置で完璧に静止する。三つのスプリングが生み出す絶妙なバランスは、George Carwardineによる当初の発明の精神を現代に受け継いでいる。

シェードとアームはアルミニウム製で、マット塗装またはブラッシュ仕上げのアルミニウムが採用されている。スプリングにはステンレススチールを使用し、鋳鉄製のベースとクロームメッキの金具が安定性と耐久性を保証する。シェード内部には独自のベンチレーション設計が施され、長時間の使用でも過熱を防ぐ配慮がなされている。

形態的特徴

Type 75を特徴づけるのは、その細長く角張ったシェード形状である。直径14.5センチメートル、高さ19.2センチメートルのシェードは、Original 1227のドーム型から意識的に距離を置き、より現代的な幾何学的フォルムを採用している。この選択により、視覚的な軽快さと洗練された印象が生まれている。

最大リーチ約66センチメートルを実現する関節機構は、流れるような動きを可能にする。ベース直径は約19.5センチメートルで、安定性と省スペース性のバランスが考慮されている。全体の最大高さは約52センチメートルで、デスク上での使用に最適な寸法設計となっている。

エピソード

デザイン開発の背景

2003年、Anglepoiseの5代目経営者となったサイモン・テリーは、家族企業の伝統を守りながら現代市場に適応する必要性を認識していた。彼は、イギリス産業デザイン界の重鎮であるケネス・グランジをデザインディレクターとして招聘した。グランジはそれ以前から、Anglepoiseを「お気に入りのデザイン」であり「バランスの小さな奇跡」と評価していた人物であった。

グランジの最初の仕事はOriginal 1227の改訂版であるType 3の開発であったが、翌2004年には1969年製Model 75の再解釈を依頼された。この依頼は単なる復刻ではなく、70年以上前にCarwardineが考案した原型を、21世紀の美学と生産技術で再定義する挑戦であった。グランジは、スタイルとプレゼンテーション、そしてある程度の機能において、愛されてきた原型を意図的に現代化することを目指した。

商業的成功とコラボレーション

Type 75は発表以来、Anglepoiseのベストセラー製品として世界中で成功を収めた。その普遍的な魅力は、著名デザイナーとのコラボレーションの基盤となった。2004年にはマーガレット・ハウエルとの協働が始まり、2008年以降はポール・スミスとの継続的なパートナーシップが展開されている。

ポール・スミスとのコラボレーションでは、Type 75のシルエットを維持しながら、各コンポーネントに異なる色彩を施すEdition 1から、アーティスト・ストライプを特徴とするEdition 5、6まで、6つのエディションが制作された。これらの特別版は、グランジの機能的デザインが如何に多様な表現の基盤となり得るかを示している。

製品展開の拡大

デスクランプとしての成功を受けて、Type 75はフロアランプ、ウォールランプ、ペンダントライトへと展開された。さらに、より小型のType 75 Miniコレクションも開発され、限られたスペースにも対応できるようになった。この製品ファミリーの成長は、グランジのデザインが単一の形態に留まらない、包括的な照明システムとして機能することを証明している。

評価

Type 75は、照明デザインにおける機能主義の模範として、デザイン界から高い評価を受けている。デザイン専門誌Wallpaperは、ケネス・グランジを「古典的様式の英国モダニズムの教父」と称し、Type 75を過去50年間で最も象徴的な工業製品の一つとして位置づけている。

本作品の成功は、グランジのデザイン哲学である「より良い機能性と使用の喜び」の実現にある。装飾に頼らず、本質的な機能美を追求する姿勢は、ヨーロッパのモダニズムに根ざしながらも、日常の道具としての実用性を決して軽視しない。この姿勢は、Type 75が単なるスタイリッシュな照明器具ではなく、真に有用な道具として受け入れられる理由となっている。

商業的には、Type 75は世界中のホテル、オフィス、住宅で採用され、Anglepoiseブランドの現代における地位を確立した。2020年以降、Anglepoiseは全製品に生涯保証を導入しており、Type 75もその対象となっている。この保証は、製品の品質への自信と、長期使用を前提とした持続可能な製品設計の証左である。

批評家たちは、Type 75がOriginal 1227との適切な距離感を保ちながら、独自のアイデンティティを確立したことを評価している。ヴィンテージの工業的美学を継承しつつ、より洗練された現代的な表現を実現したことは、デザイン史における成功事例として認識されている。

デザイナーの受賞歴

デザイナーであるサー・ケネス・グランジは、英国産業デザイン界において最も栄誉ある経歴を持つ人物の一人である。彼は1963年と2001年の二度にわたりプリンス・フィリップ・デザイナーズ賞を受賞しており、この賞は生涯功績を称えるものである。デザイン・カウンシル賞を10回受賞し、1969年にロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリーに選出された。

1984年にCBE(大英帝国勲章コマンダー)を、2013年にはデザインへの貢献によりナイト爵位を授与された。チャータード・ソサイエティ・オブ・デザイナーズの金メダル受章者であり、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートを含む6つの大学から名誉博士号を授与されている。また、FXライフタイム・アチーブメント賞の受賞者でもある。

1983年にはヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で個展が開催され、1989年には東京で、2011年にはデザイン・ミュージアム・ロンドンで「Making Britain Modern」展が開催された。2024年には、彼の生涯と作品を記録した書籍「Kenneth Grange: Designing the Modern World」がテムズ・アンド・ハドソンから出版され、サー・ジョナサン・アイヴが序文を寄せている。

Anglepoiseブランドの歴史的背景

Type 75を理解するには、Anglepoiseブランドの歴史的文脈が不可欠である。1932年、自動車エンジニアのジョージ・カーワーダインは、車両サスペンションシステムの研究から革新的なスプリング機構を発明した。このスプリングは、軽いタッチで動かすことができ、設定した位置で完璧に静止するという二つの特性を持っていた。

カーワーダインはこの機構の照明器具への応用を着想し、1934年に4スプリングのModel 1208の製造をスプリングメーカーのハーバート・テリー・アンド・サンズに委託した。1935年には家庭向けに改良された3スプリングのOriginal 1227が発売され、これが現在まで続くAnglepoiseの原型となった。

第二次世界大戦中、Anglepoiseランプは英国空軍の爆撃機のナビゲーター席に採用された。1985年にロッホネス湖から引き揚げられた墜落機のランプは、40年間水中にあったにもかかわらず、新しいバッテリーを入れると作動したという逸話が残されている。この耐久性の伝説は、Anglepoiseの品質神話の一部となっている。

2003年にケネス・グランジがデザインディレクターに就任するまで、Anglepoiseは伝統的なデザインを維持してきたが、グランジの登場により、ブランドは伝統と革新の新たな調和を見出すこととなった。Type 75は、この転換期における最も重要な成果の一つである。

基本情報

製品名 Type 75
分類 デスクランプ(タスクランプ)
デザイナー サー・ケネス・グランジ(Sir Kenneth Grange)
ブランド Anglepoise(アングルポイズ)
デザイン年 2004年
寸法(デスクランプ) 最大高さ:約52cm、シェード:直径14.5cm×高さ19.2cm、最大リーチ:約66cm、ベース直径:約19.5cm
重量 約3kg
素材 アルミニウム(シェード・アーム)、鋳鉄(ベース)、ステンレススチール(スプリング)、クロームメッキ金具
仕上げ マット塗装、ブラッシュアルミニウム
光源 E27 LED(最大10W)
ケーブル長 約2.5m
製造国 中国
バリエーション デスクランプ、フロアランプ、ウォールランプ、Type 75 Mini、Paul Smithエディション
カラー展開 ジェットブラック、アルパインホワイト、スレートグレー、シルバーラスター 他
保証 生涯保証(2020年1月20日以降の製品)
インスピレーション源 1970年代版Anglepoise Apex 90(1950年代オリジナル発売)