Tulip Candleholder(チューリップキャンドルホルダー)は、1970年にスウェーデンの銀細工師ピエール・フォシュセルがSkultuna社のためにデザインした真鍮製キャンドルホルダーである。チューリップの花弁を思わせる優美な曲線と、スカンジナビアデザインの本質を体現する清廉なラインが特徴的な作品として、北欧モダニズムの代表的なホームアクセサリーの一つに位置づけられている。
3本の異なる高さで構成されるこのキャンドルホルダーは、単独で使用しても、セットとして配置しても美しい造形美を発揮する。Forssellがこの作品を発表した1970年代は、スカンジナビアデザインが世界的な評価を確立しつつあった時期であり、Tulip Candleholderは素材の美しさと機能性を融合させた北欧デザインの理念を体現する作品として、今日まで高い評価を受け続けている。
特徴とコンセプト
スカンジナビアンピュリティの体現
Tulip Candleholderの最も顕著な特徴は、その名が示す通り、チューリップの花を思わせる有機的なフォルムと、装飾を排した純粋な造形にある。ピエール・フォシュセルは、この作品において「スカンジナビアンピュリティ(Scandinavian purity)」と称される北欧デザインの根幹的理念を見事に具現化している。真鍮という伝統的な素材に、現代的な造形言語を与えることで、時代を超えた普遍的な美しさを実現した。
作品の直線的でありながら柔らかさを併せ持つラインは、Forssellが培ってきた銀細工の技術と、モダニズムデザインの美学が融合した結果である。無駄な装飾を一切排除しながらも、単なる機能主義に陥ることなく、優雅さと存在感を保持している点が、この作品の卓越性を物語っている。
真鍮という素材選択
Skultunaが400年以上にわたって専門としてきた真鍮は、銀に比べて入手しやすく、かつ独特の温かみのある輝きを持つ素材である。Forssellはこの素材の特性を深く理解し、真鍮が持つ可塑性と経年変化の美しさを最大限に活かした設計を行った。使用するにつれて独特のパティナ(古色)が生まれ、所有者とともに時を経ていく真鍮製品は、「明日のアンティーク(tomorrow's antiques)」というSkultunaの製品理念を体現している。
手作業による研磨と仕上げによって実現される真鍮の深い光沢は、キャンドルの炎を美しく反射し、空間に温かな光の層を生み出す。この光学的効果も、Forssellが意図した設計の重要な要素である。
3本セットの構成美学
Tulip Candleholderは、19センチメートル、21センチメートル、23センチメートルという段階的な高さを持つ3本で構成される。この高さの変化は、視覚的なリズムとダイナミズムを生み出し、テーブルトップやマントルピースに配置した際に、空間に立体的な美しさをもたらす。単一のフォルムを異なる高さで展開するという手法は、ミニマリズムの原則に基づきながらも、配置の柔軟性と視覚的な豊かさを両立させている。
それぞれのキャンドルホルダーは独立した彫刻作品としても成立する完成度を持ちながら、3本が揃うことで初めて完全な調和を実現する。この全体性と部分性の絶妙なバランスは、Forssellの熟練したデザイン感覚を示している。
エピソード
Skultunaの復興とForssellの役割
ピエール・フォシュセルが1955年にSkultunaに加わった当時、同社は製品ラインの刷新を必要としていた。17世紀から続く伝統的な真鍮製造技術を持ちながらも、現代的なデザイン言語を取り入れることが求められていた時期であった。Forssellは創造責任者(creative director)として、30年以上にわたってSkultunaの製品開発を主導し、伝統工芸と現代デザインの橋渡しとなる多数の作品を生み出した。
1970年にデザインされたTulip Candleholderは、Forssellの創造活動の充実期に生まれた作品である。1960年代から70年代にかけて、彼はReflexウォールスコンス、Variabelキャンドルホルダー、そして独創的な真鍮製ランプなど、数々の名作を次々と発表した。これらの作品群は、Skultunaに現代デザインブランドとしての新たな地位をもたらし、国際的な評価を確立する礎となった。
手工芸的製造プロセス
Tulip Candleholderは、1970年代当初、Skultunaの工場内にあったForssellのスタジオで、彼とアシスタントによって手作業で製作された。真鍮の鋳造、研磨、仕上げといった各工程は、400年以上受け継がれてきた伝統的技法に基づいて行われる。各キャンドルホルダーの底面には、「Skultuna 1607 Sweden」の刻印とForssellの署名が施され、その製造年と制作者を明確に示している。
現代においても、Tulip Candleholderは同じSkultunaの工場で製造が続けられている。1607年の創業以来、同じ場所で生産が続けられているという事実は、この作品が単なる工業製品ではなく、連綿と続く工芸的伝統の延長線上にあることを物語っている。
評価
Tulip Candleholderは、発表以来50年以上にわたり、スカンジナビアデザインの古典的名作として高い評価を維持している。1stDibs、Pamono、Bukowskisといった国際的なデザインオークションハウスや専門ディーラーにおいて、ヴィンテージ品は常に需要が高く、特に1970年代にForssellのスタジオで製作されたオリジナルは、コレクターの間で珍重されている。
デザイン史の文脈において、この作品はスカンジナビアモダニズムの重要な特徴である「機能と美の統合」「素材への敬意」「装飾的ミニマリズム」を体現する代表例として位置づけられる。Forssellの作品群は、同時代のSigvard Bernadotteの王室的洗練性とは異なる、より民主的でありながら高い品質を保持するデザインアプローチを示している。
現代においても、Tulip Candleholderは国際的な主要デパートメントストアやデザインショップで取り扱われ、住宅インテリアから商業空間まで幅広い用途で使用されている。その普遍的なデザインは、ミッドセンチュリーモダンからコンテンポラリーまで、多様なインテリアスタイルと調和する柔軟性を持つ。
受賞歴
Tulip Candleholder単体としての特定の賞歴は記録されていないが、ピエール・フォシュセルのデザイン活動とSkultunaの製品群は、数々の評価を受けている。特に、1955年のHelsingborg Exhibition(H55)において、Forssellの作品は大きな注目を集め、彼のデザイナーとしてのキャリアを決定づけた。
Skultunaは、1897年のStockholm Exhibition、1900年のParis Expositionにおいて金メダルを獲得するなど、その卓越した技術と品質により国際的な評価を確立してきた。Forssell時代の製品群は、この伝統的評価をさらに現代的なデザインの領域へと拡張し、Salone del Mobile、Maison & Objet、Stockholm Furniture Fairといった主要国際デザインフェアでの常連出展により、その地位を確固たるものとした。
基本情報
| デザイナー | ピエール・フォシュセル(Pierre Forssell、1925-2004) |
|---|---|
| ブランド | Skultuna(スクルツナ) |
| デザイン年 | 1970年 |
| 製造国 | スウェーデン |
| 素材 | 真鍮(ブラス) |
| サイズ | 高さ19cm、21cm、23cm(3本セット) |
| モデル番号 | 1607 |
| カテゴリー | キャンドルホルダー |
| スタイル | スカンジナビアンモダン |
| 生産状況 | 現在も生産継続中 |