概要
Tripp Trapp(トリップトラップ)は、1972年にノルウェーのデザイナー、ピーター・オプスヴィック(Peter Opsvik)によってデザインされた革新的なハイチェアである。「子供と共に成長する椅子」というコンセプトのもと、新生児から大人まで使用できる画期的な設計で、世界中で1300万台以上が販売されている。スカンジナビアデザインの傑作として、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムなど、世界の著名な美術館のパーマネントコレクションに収蔵されている。
座面と足置きの高さを14段階に調節できる独自の構造により、成長に応じて最適な座り姿勢を保つことができる。ヨーロッパ産の高品質なブナ材またはオーク材を使用し、耐荷重136kgという堅牢性を誇る。50年以上にわたって基本デザインを変えることなく、世代を超えて愛され続けている家具である。
特徴・コンセプト
Tripp Trappの最大の特徴は、その独創的な「Z」字型のフォルムにある。この形状は、単なる意匠性の追求ではなく、子供の成長に寄り添うという明確な目的から生まれた。座面と足置き板を垂直のサイドピースに設けられた溝に沿って移動させることで、身長や体格に合わせた細かな調整が可能となる。この革新的なメカニズムにより、生後6ヶ月の乳児から成人まで、すべての年齢層が快適に使用できる。
「最良の座り姿勢は、しばらくすると、次の姿勢である」というオプスヴィックの哲学は、静的な座位を強制する従来の椅子の概念を覆すものであった。Tripp Trappは、座る人に動きの自由を与え、姿勢の変化を促すことで、長時間の使用でも疲れにくい座り心地を実現している。足置き板により、子供の足がしっかりと支えられることで、体幹が安定し、食事や作業への集中力が高まる設計となっている。
家族との「テーブルを囲む生活」を重視した設計も特筆すべき点である。従来の子供用椅子とは異なり、Tripp Trappは大人と同じテーブルの高さで使用できるため、家族全員が同じ目線で食事や会話を楽しむことができる。この思想は、北欧の家族観と深く結びついており、子供を家族の一員として尊重する文化的背景が反映されている。
デザインの背景とエピソード
Tripp Trappの誕生には、デザイナー自身の父親としての体験が深く関わっている。1972年、ピーター・オプスヴィックは、2歳の息子トール(Tor)が従来のハイチェアから成長してしまったものの、大人用の椅子にはまだ小さすぎるという問題に直面した。市場を探しても適切な解決策が見つからなかったため、自らデザインに着手することを決意した。
オプスヴィックは、子供が床で自由に動き回ることで、バランス感覚や協調性を自然に身につけることに着目した。この「床を子供のもとへ持ってくる」というコンセプトが、調整可能な足置き板の発想につながった。開発過程では、人間工学の専門知識と、ジャズミュージシャンとしての感性が融合し、機能性と美しさを兼ね備えたデザインが生まれた。
製品名の由来は、ノルウェーの民話「三匹のやぎのがらがらどん」(Three Billy Goats Gruff)から着想を得たとされる。物語に登場する橋を渡る三匹のやぎのように、子供が成長の段階を一歩ずつ上っていくイメージが込められている。この名前は、製品の成長に寄り添うコンセプトを象徴的に表現している。
製造と品質
Stokke社は1932年にノルウェーのオーレスンで創業した家具メーカーである。当初はリクライニングチェアや人間工学に基づいたオフィス家具を製造していたが、1972年のTripp Trapp発売を機に、子供向け家具の分野で世界的な地位を確立した。現在も欧州連合内で製造を続け、EU木材規制に準拠した責任ある森林管理のもとで調達された木材のみを使用している。
使用される木材は、中央ヨーロッパ産の最高品質のブナ材とオーク材である。これらの木材は、強度、耐久性、柔軟性に優れ、世代を超えて使用される家具に最適な特性を持つ。表面処理には水性塗料を使用し、ホルムアルデヒド、ビスフェノール、フタル酸エステルなどの有害物質を一切含まない。この厳格な品質管理により、JPMA(米国青少年製品製造者協会)認証、ASTM安全基準、EN 71-3(欧州玩具安全基準)など、世界各国の安全基準を満たしている。
2024年1月以降、すべてのTripp TrapはFSC認証木材のみで製造されており、持続可能な森林管理と地球環境保護への取り組みを強化している。製品には7年間の延長保証が用意されており、長期使用に対する製造者の自信と責任が表れている。
市場での評価と実績
発売から50年以上が経過した現在でも、Tripp Trappは子供用ハイチェアの代名詞的存在として世界80カ国以上で販売されている。累計販売台数1300万台という記録は、単一モデルの子供用椅子としては異例の成功を物語る。日本市場においても、高品質なベビー用品として認知度が高く、価格.comのベビーチェア部門で常に上位にランクインしている。
美術館での評価も高く、ニューヨーク近代美術館では2012年の「Century of the Child: Growing by Design, 1900-2000」展で中心的な展示品として紹介された。この展覧会では、20世紀の子供向けデザインの革新的な事例として、Tripp Trappが果たした役割が詳細に解説された。ロンドンのデザイン・ミュージアムは、Tripp Trappを「世界を変えた50のデザイン」の一つに選定している。
使用者からの評価も極めて高く、「20年以上使い続けている」「親子三代で使用している」といった長期使用の事例が多数報告されている。特に評価される点は、堅牢性、メンテナンスの容易さ、飽きのこないデザイン、そして子供の成長に確実に対応できる機能性である。初期投資は高額であるものの、使用期間の長さを考慮すれば、最もコストパフォーマンスに優れた子供用椅子の一つとして認識されている。
デザイナー:ピーター・オプスヴィック
経歴と業績
ピーター・オプスヴィック(Peter Opsvik, 1939-2024)は、ノルウェーを代表する工業デザイナーであり、人間工学に基づいた革新的な椅子デザインの先駆者として知られる。ベルゲン芸術デザイン学校(現オスロ国立芸術大学)で学び、1970年からフリーランスのデザイナーとして活動を開始した。彼の作品は、単なる家具の枠を超え、人間の身体と動きの関係を探求する哲学的なアプローチで知られている。
Tripp Trapp以外にも、バランスチェアの原理に基づくVariable Balans、オフィスチェアの常識を覆したHÅG Capisco、彫刻的な美しさを持つGarden chairなど、数多くの革新的な椅子をデザインした。これらの作品に共通するのは、「動的な座位」という概念である。静止した姿勢を強制する従来の椅子とは異なり、オプスヴィックの椅子は使用者に様々な姿勢の変化を促し、身体の自然な動きをサポートする。
芸術家としての側面
オプスヴィックは工業デザイナーとしてだけでなく、ジャズミュージシャン、画家としても活動した多才な芸術家であった。1972年からChristiania Jazz Bandのメンバーとして演奏活動を行い、1993年にはChristiania 12に参加した。音楽における即興性とリズムの探求は、彼の家具デザインにおける動きと変化への関心と深く結びついていた。
2009年に出版された著書「Rethinking Sitting」では、座ることに対する彼の哲学が詳細に語られている。環境問題にも積極的に取り組み、持続可能なデザインの重要性を早くから提唱していた。2024年9月30日に85歳で逝去するまで、デザインと芸術の境界を越えた創作活動を続け、後進のデザイナーたちに大きな影響を与え続けた。
基本情報
| 製品名 | Tripp Trapp(トリップトラップ) |
|---|---|
| デザイナー | Peter Opsvik(ピーター・オプスヴィック) |
| ブランド | Stokke(ストッケ) |
| 発表年 | 1972年 |
| 製造国 | ノルウェー/EU |
| 主要素材 | ヨーロッパ産ブナ材(ビーチ)、オーク材 |
| サイズ | 幅46cm × 奥行49cm × 高さ79cm |
| 重量 | 約6.5-7kg |
| 耐荷重 | 136kg |
| 対象年齢 | 生後6ヶ月〜大人(新生児セット使用で0ヶ月〜) |
| 価格帯 | 34,980円〜(日本市場、2024年現在) |
| カラー展開 | 15色以上(ナチュラル、ホワイト、ブラック、グレー他) |
| 主な収蔵美術館 | MoMA(ニューヨーク)、V&A Museum(ロンドン)、Vitra Design Museum(ドイツ) |
| 認証・受賞 | Classic Design Award(1996年)、JPMA認証、FSC認証 |