ユンハンス マックス・ビル テーブルクロックは、スイスの巨匠マックス・ビルが1957年にドイツの老舗時計メーカー、ユンハンス社のために手がけた傑作である。バウハウスの理念を継承し、「形態は機能に従う」という原則を体現したこの置時計は、発表から半世紀以上を経てなお、モダンデザインの規範として世界中のデザイン愛好家に愛され続けている。
無駄を削ぎ落とした文字盤、視認性を追求した針のデザイン、そして凸型のミネラルガラスが生み出す柔らかな光の反射——そのすべてが、時を刻むという本質的な機能を最も美しい形で表現している。マックス・ビルの卓越した美意識と、ユンハンスの精緻な時計製造技術が結実した、20世紀デザイン史における金字塔である。
特徴・コンセプト
マックス・ビル テーブルクロックの設計思想は、バウハウスが提唱した「Less is More(より少ないことは、より豊かなこと)」の精神に深く根ざしている。装飾的要素を極限まで排除しながらも、決して無味乾燥に陥ることなく、むしろ洗練された美しさを獲得している点に、ビルの非凡な才能が顕れている。
文字盤のデザイン
文字盤は純白を基調とし、時を示すインデックスは繊細なバーマーカーのみで構成される。数字を排した大胆な選択は、視覚的なノイズを最小化しつつ、時刻の読み取りという本来の機能を損なうことがない。この均衡の妙こそ、ビルのデザインが「機能美」と称される所以である。
凸型ガラスと光の演出
時計の顔を覆う凸型(ドーム型)のミネラルガラスは、単なる保護カバーを超えた存在である。この湾曲が生み出す光の屈折と反射は、見る角度によって異なる表情を時計に与え、静謐でありながら有機的な温もりを感じさせる。工業製品でありながら、どこか人間的な佇まいを持つのはこのためである。
針のプロポーション
時針・分針・秒針は、それぞれ異なる太さと長さで設計され、瞬時に識別可能でありながら、全体として調和のとれた構成を実現している。特に秒針の細く繊細な造形は、時の経過を静かに、しかし確かに伝える詩的な存在として機能する。
エピソード
マックス・ビルとユンハンスの協働は、1956年に始まった。当時、ユンハンス社は自社製品の近代化を図るべく、バウハウスの精神を受け継ぐデザイナーを探していた。その白羽の矢が立ったのが、ウルム造形大学の初代学長として、また芸術家・建築家として国際的な名声を博していたマックス・ビルであった。
ビルは依頼を受けるにあたり、単なるスタイリングではなく、時計という製品の本質から問い直すアプローチを採った。「人々が時間を確認する瞬間は、日常の中のほんの一瞬である。その一瞬を、いかに美しく、いかに明瞭にするか」——この問いに対する彼の回答が、このテーブルクロックであった。
特筆すべきは、1957年の発表以来、基本的なデザインがほとんど変更されていないという事実である。これは、ビルの設計が流行を超越した普遍性を持つことの証左であり、「時代を超えるデザイン」という評価を裏付けるものである。
評価
マックス・ビル テーブルクロックは、発表以来、デザイン界において最高峰の評価を受け続けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界有数の美術館がパーマネントコレクションに収蔵しており、20世紀インダストリアルデザインの傑作として認知されている。
その評価は単にデザインの美しさに留まらない。「良いデザインとは何か」という問いに対する一つの模範的回答として、デザイン教育の現場でも頻繁に参照される。形態と機能の完全な調和、素材の誠実な使用、そして時代を超える普遍性——これらの要素が高度に統合された本作は、プロダクトデザインの理想形として語り継がれている。
また、半世紀以上にわたり生産が継続されているという事実自体が、市場における評価の高さを物語っている。一過性の流行ではなく、真に人々の生活に寄り添い続けるデザインのみが享受し得る栄誉である。
受賞歴・収蔵
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション収蔵
- ヴィトラ・デザイン・ミュージアム コレクション
- ドイツ・デザイン賞 受賞
- iF デザイン賞 受賞
基本情報
| 製品名 | Max Bill Table Clock(マックス・ビル テーブルクロック) |
|---|---|
| デザイナー | Max Bill(マックス・ビル) |
| デザイン年 | 1957年 |
| メーカー | Junghans(ユンハンス)/ ドイツ |
| ムーブメント | クォーツ(電池式) |
| ケース素材 | アルミニウム(アルマイト仕上げ) |
| ガラス | 凸型ミネラルガラス |
| サイズ | 直径 約150mm × 奥行 約55mm |
| カラーバリエーション | ホワイト、ブラック、グレー 他 |
マックス・ビルについて
マックス・ビル(Max Bill, 1908-1994)は、スイス出身の芸術家、建築家、インダストリアルデザイナー、グラフィックデザイナーである。1927年から1929年までドイツ・デッサウのバウハウスで学び、ヴァシリー・カンディンスキー、パウル・クレー、オスカー・シュレンマーらの薫陶を受けた。
1950年代には、バウハウスの後継機関として設立されたウルム造形大学(Hochschule für Gestaltung Ulm)の創設に携わり、初代学長を務めた。彼の教育理念と作品群は、戦後のモダンデザインの方向性に決定的な影響を与えた。
ユンハンスとの協働は、ビルの代表的な仕事の一つとして位置づけられている。テーブルクロックに加え、壁掛け時計や腕時計も手がけ、いずれもバウハウスの精神を体現した名作として高い評価を得ている。