ヨーゼフ・フランク クッションは、オーストリア出身の建築家・デザイナーであるヨーゼフ・フランク(1885-1967)がスウェーデンの老舗インテリアブランド「スヴェンスク・テン」のためにデザインしたテキスタイルを用いたクッションである。1930年代から1950年代にかけて生み出された160種を超えるテキスタイルパターンは、鮮やかな色彩と有機的なモチーフを特徴とし、その多くが現在も生産され続けている。厳格な機能主義が席巻した20世紀モダニズムの潮流にあって、フランクは「より人間的な住まい」を追求し、生命力に満ちたテキスタイルデザインによってスウェーデン・モダンの礎を築いた。彼のクッションは単なる装飾品ではなく、居住空間に温もりと喜びをもたらすための不可欠な要素として、今日なお世界中のインテリア愛好家に愛され続けている。
特徴・コンセプト
ヨーゼフ・フランクのクッションを特徴づけるのは、その独創的なテキスタイルパターンである。ボタニカルモチーフ、異国情緒あふれる風景、幾何学的構成など多彩な意匠が展開されるが、いずれにも共通するのは、自然界から着想を得た自由で生命力に満ちた表現である。
デザイン哲学
フランクは、バウハウスに代表される厳格な機能主義に対し、「住まいは機械ではなく、人間のための場所である」という信念を貫いた。白い壁と直線で構成された無機質な空間よりも、色彩と装飾に満ちた有機的な環境こそが人々の心を豊かにすると考えたのである。この思想は「アクチデンティズム(偶然主義)」と呼ばれ、意図的に不規則性や多様性を取り入れることで、生活空間に自然さと親しみやすさを与えることを目指した。
代表的なパターン
フランクが手がけた160を超えるテキスタイルパターンのうち、特に著名なものとして以下が挙げられる。「ハワイ(Hawaii)」は、熱帯植物と花々が大胆に描かれた華やかなパターンであり、スヴェンスク・テンを象徴する意匠として知られる。「野菜の木(Vegetable Tree / Grönsaksträdet)」は、野菜や果物が樹木のように配された遊び心あふれるデザインである。「テヘラン(Teheran)」は、ペルシャ絨毯から着想を得た繊細な花柄模様で、東洋と西洋の美意識を融合させている。「プリマヴェーラ(Primavera)」は、春の野花が咲き乱れる牧歌的な情景を描き、北欧の自然への讃歌ともいえる作品である。
素材と製造
スヴェンスク・テンのクッションは、リネンまたはコットンを基布とし、スウェーデン国内およびヨーロッパの熟練した職人によって製造される。テキスタイルはスクリーンプリントまたはデジタルプリントで施され、フランクが意図した色彩の深みと繊細なニュアンスが忠実に再現されている。羽毛やダウンを用いた中綿は、適度な弾力性と上質な座り心地を提供する。
エピソード
ヨーゼフ・フランクがスヴェンスク・テンとの協働を開始したのは1934年のことである。ナチス・ドイツの台頭によりウィーンでの活動が困難となったフランクは、スウェーデンに亡命し、同社の創業者エスティード・エリクセンの招きに応じて首席デザイナーに就任した。ユダヤ系であったフランクにとって、スウェーデンは安全な避難地であると同時に、創造性を自由に発揮できる理想の環境となった。
フランクのデザインは、彼の広範な旅行経験と博物学的な関心に基づいている。世界各地の植物園、博物館、図書館で収集したスケッチやメモが、テキスタイルパターンの源泉となった。「ハワイ」のパターンは、実際にハワイを訪れることなく、書物や標本から想像力を膨らませて創作されたものであり、彼の空想的かつ学究的なアプローチを象徴している。
1942年にアメリカへ移住した後もフランクはスヴェンスク・テンとの関係を維持し、新たなパターンを送り続けた。戦後、彼はスウェーデンとアメリカを往復しながら創作活動を続け、1967年にストックホルムで生涯を閉じるまで、そのデザイナーとしての情熱を失うことはなかった。
評価
ヨーゼフ・フランクのテキスタイルデザインは、20世紀デザイン史において独自の地位を確立している。厳格な機能主義が支配的であった時代に、彼は装飾と色彩の重要性を説き、「スウェーディッシュ・モダン」と呼ばれる様式の形成に決定的な影響を与えた。彼のクッションは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)、スウェーデン国立美術館など世界有数の美術館に収蔵され、20世紀デザインの傑作として評価されている。
今日においても、フランクのデザインは新鮮さを失わず、北欧インテリアの古典として愛され続けている。スヴェンスク・テンでは90種以上のパターンが現役で生産されており、時代を超えた普遍的な魅力を証明している。特にクッションは、フランクのテキスタイルを日常生活に取り入れる最も身近な方法として、コレクターから一般の愛好家まで幅広い層に支持されている。
受賞歴・評価
- 1965年 スウェーデン王立芸術アカデミー名誉会員
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久収蔵
- ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)収蔵
- スウェーデン国立美術館収蔵
- 2016年 オーストリア応用美術館(MAK)にて回顧展「Against Design」開催
- 2022年 ミラノデザインウィークにてスヴェンスク・テン特別展示
基本情報
| 名称 | ヨーゼフ・フランク クッション |
|---|---|
| 英語名 | Josef Frank Cushions |
| デザイナー | ヨーゼフ・フランク(Josef Frank, 1885-1967) |
| ブランド | スヴェンスク・テン(Svenskt Tenn) |
| デザイン年 | 1930年代〜1950年代 |
| 生産国 | スウェーデン |
| 素材 | リネン、コットン、羽毛・ダウン |
| サイズ展開 | 40×40cm、50×50cm、60×60cm 他 |
| 代表的パターン | Hawaii、Vegetable Tree、Teheran、Primavera、La Plata、Anakreon 他 |