バード バイ トイッカは、フィンランドを代表するガラスデザイナー、オイバ・トイッカが1972年に創始した象徴的なガラスオブジェコレクションである。フィンランド・ヌータヤルヴィガラス工場で誕生した最初の作品「フライキャッチャー(シエッポ)」を起点に、半世紀以上にわたり400種以上の鳥が生み出されてきた。イッタラ社の熟練職人によるマウスブロー技法で一つひとつ手作りされるこれらのガラスバードは、同じ型から生まれながらも決して同一のものは二つと存在しない。鮮やかな色彩、繊細なディテール、そして個々のバードが持つ独特の個性は、世界中のコレクターを魅了し続けている。

デザイナー:オイバ・トイッカ

オイバ・カレルヴォ・トイッカ(1931-2019)は、フィンランドガラスデザイン界の巨匠として知られる。当時フィンランド領であったヴィボルク郊外の農村に生まれ、ヘルシンキ芸術デザイン大学で陶芸を学んだ後、1963年にヌータヤルヴィガラス工場のハウスデザイナーとなった。北欧デザインの特徴である簡潔で機能的な美学から大胆に逸脱し、豊かな想像力と鮮やかな色彩に満ちた作品を生み出した。ガラスデザインに留まらず、舞台美術、衣装デザイン、テキスタイルデザインなど多岐にわたる創作活動を展開し、国際的な名声を確立した。

トイッカの受賞歴は輝かしく、ルンニング賞(1970年)、フィンランド国家デザイン賞(1975年)、プロ・フィンランディア勲章(1980年)、カイ・フランク・デザイン賞(1992年)、フィンランド賞(2000年)、プリンス・ユージン・メダル(2001年)など数々の栄誉に輝いている。1993年にはフィンランド政府より芸術教授の名誉称号を授与された。カステヘルミ、フローラ、ピオニなどのテーブルウェアコレクションも高い評価を得ているが、バード バイ トイッカシリーズこそが彼の最も象徴的な業績として世界的に認識されている。

特徴とデザインコンセプト

マウスブロー技法による唯一無二の個性

バード バイ トイッカの最大の特徴は、各バードが熟練したマスターガラスブロワーによる手吹き技法で制作されることにある。吹き管を使用して溶融ガラスを膨らませ、職人が一つひとつ丁寧に形を整えていく。複数の色彩やパターンを加える際には、この工程が何度も繰り返される。使用される主要な道具には、吹き管、ポンティ、マーヴァー、ブロック、ジャック、パドル、ピンセット、シアーなどが含まれる。こうした伝統的な手工芸技法により、同じデザインから生まれるバードでありながら、一羽として完全に同一のものは存在しない。微妙な色の濃淡、気泡の位置、ガラスの厚みの変化など、それぞれが独自の個性を持つ芸術作品となっている。

自然と想像力の融合

トイッカは自然界の鳥類からインスピレーションを得ながらも、写実的な再現を目指すのではなく、ガラスという素材の特性を最大限に活かした独創的な表現を追求した。フィンランドの野鳥をモチーフとしながら、その本質的な美しさや動きの優雅さをガラスの透明感、光の屈折、色彩の輝きによって表現している。小型の鳥では数センチメートルから、キーックリ(Kiikkuri)やワイルドスワン、イーグルのような大型作品では30センチメートル近くに及ぶサイズまで、多様なスケールの作品が存在する。

豊かな色彩表現

カイ・フランクの影響を受け、1950年代からヌータヤルヴィガラス工場が培ってきた色ガラスの卓越した技術は、トイッカの創作活動に大きな影響を与えた。虹のあらゆる色相、メタリックトーン、クリア、ラスター仕上げなど、無限とも思える色彩の可能性を探求している。最も技術的に難易度が高いとされるレッド系やクランベリー色は、その製造の困難さゆえに特別な価値を持つ。初期のフライキャッチャーですら、工房にあった様々な色ガラスを使用して多彩なバリエーションが制作された。この豊かな色彩表現こそが、バード バイ トイッカの大きな魅力となっている。

歴史的エピソード

1972年:シリーズの誕生

1972年、フィンランド・ウルヤラのヌータヤルヴィガラス工場において、トイッカとガラス職人たちによって最初のバード作品「フライキャッチャー(シエッポ)」が誕生した。ヌータヤルヴィガラス工場は1793年創業のフィンランド最古のガラス工場であり、その伝統と技術力がこの革新的なプロジェクトを可能にした。当初フライキャッチャーは、脚のあるバージョンと脚のないバージョンの2種類が制作された。グラデーションカラーを持つフライキャッチャーは特に希少とされている。この時期の作品には「Oiva」というサインが刻印されている。

コレクションとしての確立

1972年の誕生当初、バードは他のアイテムと共にヌータヤルヴィのコレクションの一部として展開されていた。1976年には、より大型で技術的に挑戦的なキーックリが制作された。このデザインは、トイッカが数年前にデザインしたポンポン(パンプラ)花瓶からインスピレーションを得ている。1981年には、フェザント(キジ)、ターミガン(雷鳥)、ウィローグラウス、ロングテールドダックの4種類の新作が発表され、プロ・アルテコレクションの一部となった。企業のギフトアイテムとして人気を博し、1994年に独立したコレクション「Birds by Toikka」として正式に確立された。

アニュアルバードの伝統

1993年のヌータヤルヴィガラス工場創業200周年記念を契機に、アニュアルバードの伝統が生まれた。1996年以降、トイッカは毎年新しいデザインのアニュアルバードを発表し続けた。これらの限定生産作品は、コレクターにとって特別な価値を持ち、発表年のみの製造という希少性が市場価値を高めている。2018年のアニュアルバード「パイロット」は、トイッカが手がけた最後のアニュアルバード作品の一つとなった。

工場の移転

2013年、220年以上の歴史を誇ったヌータヤルヴィガラス工場が閉鎖され、バード バイ トイッカの製造はヘメーンリンナのイッタラガラス工場に移管された。工場の移転にもかかわらず、伝統的な製造技法と品質基準は忠実に継承され、イッタラの熟練職人たちによって制作が続けられている。各バードには「O.Toikka IITTALA」のサインが刻印され、その真正性を保証している。

評価と文化的影響

世界的なコレクターズアイテム

バード バイ トイッカは、フィンランド国内に留まらず、世界中で熱心なコレクターを生み出してきた。特に日本、韓国、アメリカ市場において強い支持を得ており、希少なモデルは鳥類学の分野における珍しい鳥種のように、コレクターたちの間で熱心に追求され議論される対象となっている。各バードが持つ個性、製造年代、色彩、サイズ、生産数などの要素が、その収集価値と市場価格を決定する。最も初期のフライキャッチャーやシエッポは500ユーロ前後、キーックリの希少モデルはオークションで5,000ユーロに達することもあるなど、ヴィンテージ作品は特に高い評価を受けている。

デザイン史における位置づけ

バード バイ トイッカは、北欧デザインの文脈において特異な位置を占めている。機能主義と簡潔な美学が支配的であった北欧デザインの潮流において、トイッカの作品は芸術性、装飾性、色彩の豊かさを大胆に主張した。この挑戦的なアプローチは、北欧デザインの概念を拡張し、より多様な表現の可能性を示した点で、デザイン史的に重要な意義を持つ。世界各国のデザインミュージアムがコレクションに加えており、現代ガラス芸術の重要な作品群として認識されている。

文化的象徴性

フィンランドにおいて、バード バイ トイッカは世代を超えて愛される文化的アイコンとなっている。多くのフィンランド人が幼少期から親しんできた存在であり、家族の思い出やノスタルジアと結びついている。相続されるべき価値ある家財として、また人生の節目における贈り物として、フィンランド社会に深く根付いている。福を呼ぶモチーフとしてフクロウモデルが特に人気を博すなど、その文化的意味は単なる装飾品を超えた広がりを見せている。

受賞歴と評価

バード バイ トイッカコレクションを生み出したオイバ・トイッカは、その卓越した創造性と技術により、キャリアを通じて数多くの栄誉に輝いている。主要な受賞歴には、ルンニング賞(1970年)、フィンランド国家工芸デザイン賞(1975年)、プロ・フィンランディア勲章(1980年)、カイ・フランク・デザイン賞(1992年)、フィンランド賞(2000年)、プリンス・ユージン・メダル(2001年)が含まれる。1993年には、フィンランド政府より芸術教授の名誉称号を授与された。これらの賞は、トイッカがフィンランドデザイン界のみならず、国際的なガラス芸術の分野において最高峰の評価を受けていたことを示している。

製品の特性と鑑賞

個体差の美学

バード バイ トイッカの重要な特徴は、同一モデルであっても各個体が異なる表情を持つことである。ガラス内部の気泡、色彩の濃淡、形状の微妙な違い、ガラスパーツの接合部の見え方など、手工芸ならではの個性が一つひとつに宿る。トイッカ自身、品質基準の厳格さよりも、偶然性や予期せぬ結果を受け入れる姿勢を重視した。第二品質とマークされた個体についても、マスター自身が「より個性的である」と述べたように、完璧な均一性ではなく、個々の特性こそが価値の源泉となっている。

光と透明性の表現

ガラスという素材の本質的な特性である透明性と光の屈折を、トイッカは芸術表現の核心に据えている。明るい場所に配置されたバードは、自然光や人工光を取り込み、内部で複雑な光の屈折と反射を生み出す。時間帯や光源の変化により、同じバードでも異なる表情を見せる。この動的な視覚体験は、静的な彫刻作品とは一線を画す、ガラスオブジェ特有の魅力を形成している。

サイズバリエーションの重要性

コレクションには、小型のフライキャッチャーやリトルターンのような手のひらサイズの作品から、30センチメートル近い大型作品まで、幅広いスケールのバードが存在する。サイズの多様性は、ディスプレイの柔軟性を提供し、限られたスペースでも楽しめる作品から、空間の主役となる大型作品まで、様々な環境に対応可能としている。特に小型作品は、バードコレクションへの入門として、また日常生活に身近に置けるオブジェとして、重要な役割を果たしている。

基本情報

名称 バード バイ トイッカ(Birds by Toikka)
デザイナー オイバ・トイッカ(Oiva Toikka、1931-2019)
ブランド イッタラ(iittala)
分類 ガラスオブジェ
初作品発表年 1972年
初作品名 フライキャッチャー(Flycatcher / Sieppo)
製造工場 ヌータヤルヴィガラス工場(1972-2013)
イッタラガラス工場(2013-現在)
製造技法 マウスブロー(手吹きガラス)
材質 無鉛ガラス
製造国 フィンランド
シリーズ総数 400種類以上(2019年時点)
アニュアルバード 1996年より毎年発表
サイズ範囲 約5cm~30cm(モデルにより異なる)
サイン 初期作品:「Oiva」刻印
現行品:「O.Toikka IITTALA」刻印