概要

Beoplay A9は、デンマークの高級オーディオブランドBang & Olufsenが2012年に発表した、革新的なワイヤレススピーカーである。デンマーク人デザイナー、オイヴィンド・アレクサンダー・スラット(Øivind Alexander Slaatto)による円形のミニマルなデザインは、音響機器の概念を超越し、現代のリビング空間における彫刻的オブジェとして、インテリアデザインの新たな可能性を提示した。

直径70センチメートルの円盤状のフォルムは、音波が円形に広がる物理現象からインスピレーションを得たものである。この幾何学的純粋性は、スカンジナビアデザインの本質である機能美と詩的表現の融合を体現している。アルミニウムリング、高品質ファブリック、そして天然木の脚部という厳選された素材の組み合わせは、テクノロジーと自然素材の調和を実現し、時代を超越した美しさを創出している。

特徴・コンセプト

「円」という普遍的な形状を選択したスラットの哲学は、音響の本質と深く結びついている。音は空間に円形に広がり、石が水面に落ちた時に生まれる波紋のように、同心円状に拡散していく。この自然現象の観察から生まれたデザインは、視覚的な静謐さと音響的なダイナミズムを両立させている。

技術的な革新性においても、Beoplay A9は妥協を許さない。7つの独立したドライバーと専用アンプによる総合出力1,500ワットのシステムは、繊細な高音域から力強い低音域まで、原音に忠実な再生を実現する。特筆すべきはActive Room Compensation(能動的室内補正)機能で、設置環境の音響特性を自動的に分析し、最適なサウンドプロファイルに調整する。この技術により、部屋の角、壁際、自由配置のいずれの設置方法でも、理想的な音響体験を提供する。

カスタマイゼーションの自由度もまた、このプロダクトの重要な特徴である。デンマークのテキスタイルブランドKvadratとのコラボレーションによる交換可能なスピーカーカバーは、音響透過性を保ちながら、インテリアの変化に応じて外観を変更することを可能にした。木製の脚部もオーク、ウォールナット、ビーチなど複数の選択肢から選べ、所有者の美意識とライフスタイルに寄り添う柔軟性を持つ。

デザインの背景とエピソード

オイヴィンド・アレクサンダー・スラットは、1978年にドイツのウルムで生まれ、デンマークで育った。音楽家の両親のもとで育ち、王立デンマーク音楽アカデミーでクラシック音楽を学んだ後、デンマーク王立デザインスクールで工業デザインを修めるという、音楽と視覚芸術の両方に精通した稀有な経歴を持つ。この二つの芸術領域での深い造詣が、Beoplay A9という音と形の完璧な融合を生み出す土壌となった。

2012年の発表当時、B&O PLAYブランドの立ち上げとともに登場したBeoplay A9は、Bang & Olufsenの新たな方向性を示す象徴的な製品となった。「私は時代を超越したクラシックを作りたかった。あらゆる角度から、いつの時代においても美しいものを」というスラットの言葉は、このプロダクトの本質を物語っている。実際、発売から10年以上が経過した現在でも、その存在感は色褪せることなく、むしろ時間とともに成熟した美しさを獲得している。

製品開発において、スラットは「必要最小限の要素で最大限の効果を生み出す」というデンマークデザインの伝統的アプローチを採用した。複雑さは自然に生まれるものであり、物事をシンプルに保つことこそがマスターの仕事である、という彼の信念は、円形という最も基本的な幾何学形態の選択に表れている。同時に、その単純な形態に詩的な感覚を吹き込むことで、ミニマリズムに感情を与えることに成功した。

技術革新と進化

初代モデルから現在の第5世代まで、Beoplay A9は継続的な技術革新を遂げてきた。2015年の第2世代ではBluetooth 4.0とSpotify Connect機能が追加され、2019年の第4世代ではGoogle Assistant機能とAirPlay 2によるマルチルーム対応が実現した。最新の第5世代では、Bang & OlufsenのMozartプラットフォームを搭載し、将来のアップデートに対応する柔軟性を獲得している。

音響技術においても、段階的な改良が加えられてきた。初代の5ドライバー構成から、第4世代では7ドライバー構成へと拡張され、より広い音場と精密な音像定位を実現した。各ドライバーには専用のClass Dアンプが配置され、デジタル信号処理により各周波数帯域を最適化している。特に低音域を担当する200mmウーファーは、バスレフポート設計と組み合わせることで、コンパクトな筐体からは想像できない豊かな低音再生を可能にしている。

ワイヤレス接続においても、AirPlay、Chromecast built-in、Bluetooth、DLNA、Spotify Connectなど、現代のあらゆるストリーミングプラットフォームに対応。スマートフォン時代の音楽リスニング習慣に完璧に適応しながら、有線接続オプションも維持することで、オーディオファイルの要求にも応えている。

文化的影響と評価

Beoplay A9は、その革新的なデザインにより、世界の主要なデザイン機関から高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに選定されたことは、このプロダクトが単なる音響機器を超えた文化的価値を持つことの証左である。また、iF WORLD DESIGN GUIDEへの掲載、各種国際デザイン賞の受賞は、その美的価値と機能性が広く認められていることを示している。

インテリアデザインの文脈においても、Beoplay A9は新たなパラダイムを提示した。従来、音響機器は部屋の片隅に隠すべき存在とされてきたが、このプロダクトは堂々とリビングの中心に配置される美術品として機能する。壁掛け設置時には現代アートのような存在感を放ち、床置き設置時には彫刻的なオブジェとして空間に豊かさを加える。この「見せる音響機器」というコンセプトは、その後の高級オーディオ製品のデザイントレンドに大きな影響を与えた。

音楽業界からの評価も高く、著名なミュージシャンやプロデューサーが自宅スタジオで使用していることが報告されている。特に、その360度全方向への音の広がりは、従来のステレオスピーカーとは異なる没入感のあるリスニング体験を提供し、「部屋全体を音楽で満たす」という新しい音楽享受の形を提案している。

Bang & Olufsenのレガシーとの融合

1925年にペーター・バングとスヴェン・オルフセンによって創業されたBang & Olufsenは、約100年にわたり「Ærlig musikgengivelse(誠実な音楽再生)」を理念として、革新的なオーディオ製品を世に送り出してきた。Beoplay A9は、この長い伝統と革新の歴史の中で、特別な位置を占めている。

B&O PLAYブランドとして2012年に発表されたこの製品は、Bang & Olufsenの伝統的な高級路線を維持しながら、より若い世代やデジタルネイティブな消費者層にアプローチする戦略的製品でもあった。シンプルな操作性、デジタルストリーミングへの完全対応、そして何より視覚的なインパクトは、新しい時代のライフスタイルに完璧に適合した。

現在、Beoplay A9はBeosoundファミリーの一員として、Bang & Olufsenの主力製品群に位置づけられている。初代から第5世代への進化の過程で、製品名はBeoplayからBeosoundへと変更されたが、その革新的な精神と時代を超越したデザインは変わることなく継承されている。

所有することの意味

Beoplay A9を所有することは、単に高品質な音響機器を手に入れることを超えた体験である。それは、デンマークデザインの哲学、クラフトマンシップへの敬意、そして音楽への深い愛情を日常生活に取り入れることを意味する。毎日の音楽体験が、視覚的にも聴覚的にも豊かな瞬間となり、生活空間そのものが芸術的な価値を持つようになる。

カスタマイゼーションの自由度は、所有者の個性とライフスタイルの変化に寄り添う。季節や気分に応じてカバーを変更し、引っ越しや模様替えに合わせて設置方法を変える。この柔軟性は、長期的な所有を前提とした、サステナブルなデザイン哲学の表れでもある。実際、Bang & Olufsenは製品の長寿命化と修理可能性を重視しており、Beoplay A9もその理念を体現している。

現代において、Beoplay A9は音響機器の新たな在り方を提示し続けている。それは、テクノロジーと美学、機能と形態、革新と伝統が完璧に融合した、21世紀のデザインアイコンとして、これからも多くの人々の生活を豊かにしていくことであろう。

基本情報

製品名 Beoplay A9 / Beosound A9
ブランド Bang & Olufsen(バング&オルフセン)
デザイナー オイヴィンド・アレクサンダー・スラット(Øivind Alexander Slaatto)
発売年 2012年(初代)/ 現行:第5世代(2023年〜)
カテゴリー ワイヤレススピーカー / ホームオーディオシステム
寸法 直径70.1cm × 高さ90.8cm × 奥行41.5cm(スタンド設置時)
重量 約14.7kg(脚部含む)
出力 総合1,500W(第5世代)
ドライバー構成 7ドライバー(200mmウーファー×1、ミッドレンジ×2、フルレンジ×2、ツイーター×2)
接続方式 AirPlay 2、Chromecast built-in、Bluetooth、Spotify Connect、有線入力
主な機能 Active Room Compensation、マルチルーム対応、Google Assistant(第4世代)
素材 アルミニウム、ポリマー、ファブリック(Kvadrat製)、天然木
設置方法 床置き(木製脚付き)/ 壁掛け(専用ブラケット使用)
価格帯 約40万円〜50万円(日本市場参考価格)
受賞・認定 MoMA永久収蔵品、iF WORLD DESIGN GUIDE掲載