ユンハンス マックス・ビル ウォールクロックは、1957年にスイスの芸術家・デザイナーであるマックス・ビルがドイツの老舗時計メーカー、ユンハンスのために設計した壁掛け時計である。バウハウスの理念を体現した本作は、無駄を徹底的に排除した純粋な機能美により、20世紀を代表するプロダクトデザインの傑作として世界的に認知されている。発表から半世紀以上を経た今日においても生産が継続され、モダンデザインの規範として揺るぎない地位を保持している。
デザイナー マックス・ビル
マックス・ビル(Max Bill, 1908-1994)は、スイス・ヴィンタートゥール出身の芸術家であり、建築家、画家、彫刻家、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナーとして多岐にわたる分野で活躍した20世紀を代表するクリエイターである。1927年から1929年にかけてドイツ・デッサウのバウハウスに学び、ヴァシリー・カンディンスキーやパウル・クレーらの薫陶を受けた。バウハウス閉鎖後はスイスに戻り、具体芸術(Konkrete Kunst)の理論的指導者として芸術運動を牽引するとともに、1953年にはウルム造形大学の創設に参画し、初代学長として後進の育成に尽力した。彼の作品は、数学的精密さと造形的純粋さを追求したものであり、芸術とデザインの境界を超越した普遍的な美を体現している。
特徴・コンセプト
マックス・ビル ウォールクロックは、「形態は機能に従う」というバウハウスの根本原理を忠実に具現化した作品である。文字盤には装飾的要素が一切排除され、時刻の視認性を最優先とした設計思想が貫かれている。
造形的特徴
円形の文字盤には、細く繊細な線で描かれたインデックスと、明瞭に判読可能なアラビア数字が配される。時針・分針は直線的なフォルムで統一され、その長さと太さは視認性の観点から精密に計算されている。ケースは薄型のアルミニウム製であり、壁面に設置した際に時計としての存在を主張しすぎることなく、空間と調和するよう配慮されている。白い文字盤と黒い針・数字のコントラストは、あらゆる照明環境下においても優れた可読性を保証する。
デザイン哲学
ビルは本作において、時計という道具の本質的機能—時刻を正確に伝達すること—に立ち返り、その目的を達成するために必要最小限の要素のみで構成するという設計アプローチを採用した。これは単なるミニマリズムではなく、機能と美の完全な統合を目指すバウハウスの思想を、プロダクトデザインにおいて最も純粋な形で実現したものといえる。
エピソード
マックス・ビルとユンハンスの協働は、1956年に始まった腕時計のデザインプロジェクトに端を発する。ビルがデザインした腕時計は、その洗練されたデザインにより高い評価を獲得し、これを受けてユンハンスは壁掛け時計への展開を依頼した。1957年に発表された本作は、当初キッチンクロックとして位置づけられていたが、その普遍的な美しさからオフィスやリビングルームなど、あらゆる空間で採用されるようになった。
ビルは本作のデザインにあたり、文字盤の数字に自らが1944年に手掛けたタイポグラフィを採用した。この書体は幾何学的構成に基づきながらも温かみを失わない独特の佇まいを持ち、時計全体の統一感に寄与している。制作過程においてビルは、針の長さ、太さ、インデックスの配置に至るまで幾度もの試作を重ね、究極の可読性を追求したとされる。
評価
マックス・ビル ウォールクロックは、発表以来、モダンデザインの金字塔として国際的に高い評価を受け続けている。世界各国の美術館・デザインミュージアムに収蔵されており、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションにも選定されている。建築家やインテリアデザイナーからの支持も厚く、モダニズム建築やミニマルな空間との親和性において比類なき存在とされる。
デザイン史の観点からは、本作はバウハウスの理念が戦後のプロダクトデザインにおいていかに継承・発展されたかを示す重要な実例として位置づけられている。スイス・デザインの精密さとドイツ工業製品の堅牢さが融合した本作は、ヨーロッパ・モダンデザインの結晶として、後世のデザイナーたちに多大な影響を与え続けている。
受賞歴・収蔵
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション収蔵
- ヴィトラ・デザイン・ミュージアム収蔵
- チューリッヒ・デザイン・ミュージアム収蔵
- iF デザイン賞受賞
基本情報
| 製品名 | Max Bill Wall Clock / マックス・ビル ウォールクロック |
|---|---|
| デザイナー | Max Bill(マックス・ビル) |
| デザイン年 | 1957年 |
| メーカー | Junghans(ユンハンス)/ ドイツ |
| サイズ | 直径 220mm / 300mm / 370mm(モデルにより異なる) |
| 素材 | アルミニウムケース、ミネラルガラス |
| ムーブメント | クォーツ式(現行モデル) |
| カラー | ホワイト文字盤 / ブラック針・数字 |
| デザイン様式 | バウハウス / スイス・モダニズム |