チフラ3は、1960年代半ばにイタリアの建築家ジーノ・ヴァッレが設計し、ソラリ・ディ・ウーディネが製造したフリップ式の卓上時計である。数字を印刷した多数のフラップ(羽根)を軸に巻いたローラーが回転し、時刻が切り替わるたびに一枚ずつ翻る。針も数字盤も持たないこの表示方式は、空港や鉄道駅の発着案内板に用いられた技術を家庭の机上に持ち込んだものだった。ニューヨーク近代美術館は1966年にこれを収蔵している(収蔵番号719.1966、製造元からの寄贈)。
特徴・コンセプト
ローラー式フラップ機構
チフラ3の核心は、水平に配したローラーにフラップを並べる表示機構にある。この方式はソラリ社のレミジオ・ソラリが考案し、1966年に特許が取得された。ベルギー人の発明家ジョン・マイヤーの協力によってフラップの枚数を絞り込み、時と分をひとつの読み取り面に収めることに成功している。時刻が変わる瞬間、フラップが翻って乾いた音を立てる。デジタル表示にはない、時間の経過を耳で知る手がかりである。
ソラリは、この機構によって直読式時計として最小の寸法を実現したと説明している。動作原理は発売当初から変わっておらず、フラップは現在も職人が一枚ずつ順序どおりに組み付けている。
円筒形のケース
外形は、フラップの回転軌跡をそのまま包む横長の円筒である。オリジナルでは正面に透明なポリメタクリル酸メチル、背面に熱可塑性樹脂を用い、機構部を内部パネルで支える構造をとった。曲線を描く外殻と、矩形のフラップおよび簡潔な数字との対比が、この時計の視覚的な特徴を形づくっている。
マッシモ・ヴィニエッリによる書体
文字盤は黒地に白の数字で、時と分に異なる書体が用いられている。この書体は1960年代末にマッシモ・ヴィニエッリが選定したものである。時の数字は分よりやや大きく、離れた位置からも読み取れるよう調整されている。フラップが黒であるため、明るい室内でも数字だけが浮かび上がる。
エピソード
産業用機器から家庭用品へ
フラップ式の表示装置は、もともと駅や空港の大型案内板のための技術である。チフラ3は、その仕組みを机上に置ける寸法まで縮めた製品だった。ヴァッレはこれに先立ち、1954年からソラリ社と組んで電気機械式のフリップ時計チフラ5を手がけている。チフラ5は1956年にコンパッソ・ドーロを受賞しており、チフラ3はその系譜の上に生まれた。
復刻と現行生産
チフラ3は2015年にソラリ・リネアデザインによって生産が再開された。現行モデルはケースをPC-ABS樹脂とし、駆動を交流電源からステッピングモーターの電池駆動に改めているが、フラップの表示方式と外形は当初のままである。現行のケースカラーはブラック、ホワイト、レッド、グリーンの4色で、限定色が加わることもある。
評価
チフラ3は、産業用の表示装置を家庭用プロダクトに移した例として、20世紀のインダストリアルデザインを語る際にしばしば参照される。針を持たず、数字が物理的に入れ替わる表示は、アナログとデジタルのどちらにも属さない。
ニューヨーク近代美術館の建築・デザイン部門に収蔵されているほか、ソラリはロンドンの博物館にも収蔵されていると案内している。1970年代には各国のメーカーが類似のフリップ時計を製造し、卓上時計の一形式として広く普及した。
基本情報
| 製品名 | Cifra 3(チフラ3) |
|---|---|
| デザイナー | ジーノ・ヴァッレ(Gino Valle) |
| デザイン年 | 1965年(ニューヨーク近代美術館の収蔵記録による。ローラー式フラップ機構の特許取得は1966年) |
| メーカー | ソラリ・ディ・ウーディネ(Solari di Udine)/現行生産はソラリ・リネアデザイン(Solari Lineadesign) |
| 製品カテゴリー | 卓上時計 |
| 表示方式 | ローラー式フラップ表示(24時間表示) |
| 書体 | マッシモ・ヴィニエッリ選定(時と分で異なる書体) |
| 素材 | 現行モデル:PC-ABS樹脂、透明ポリカーボネートカバー |
| サイズ | 現行モデル:W180 × D95 × H105mm |
| 駆動 | 現行モデル:ステッピングモーター、単1形乾電池2本(1.5V) |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(収蔵番号719.1966) |