チフラ3は、1966年にイタリアの建築家ジーノ・ヴァッレがソラリ・ディ・ウーディネのためにデザインしたフリップ式卓上時計である。スプリットフラップ・ディスプレイと呼ばれる機構を採用し、数字が印刷されたフラップが回転することで時刻を表示するという革新的な方式により、20世紀後半のプロダクトデザインに決定的な影響を与えた。その明快な造形と機能美は、イタリアン・インダストリアルデザインの金字塔として、現在もニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界各地の美術館に永久収蔵されている。

特徴・コンセプト

スプリットフラップ・メカニズム

チフラ3の核心を成すのは、スプリットフラップ(分割フラップ)と呼ばれる表示機構である。この技術は元来、空港や鉄道駅における発着案内板のために開発されたものであり、ソラリ社はこの分野において世界的な先駆者であった。数字が印刷された複数のフラップが、精密なモーター駆動により順次回転し、時刻の変わり目には独特の「パタパタ」という音を発する。この音は、デジタル時計では得られない時間の経過を聴覚的に知らせる詩的な要素として、多くの愛好家を魅了し続けている。

幾何学的純粋性

ヴァッレは、複雑な内部機構を極めて簡潔な外形に収めることに成功した。水平に配された二つの表示窓が時と分を示し、それを包む筐体は無駄を徹底的に排した直方体である。この幾何学的純粋性は、1960年代イタリアにおける合理主義的デザイン思潮を体現するものであり、同時代のオリベッティ社の事務機器やブリオンヴェガ社の家電製品と美学的な共鳴を見せる。

視認性への配慮

表示面における数字のタイポグラフィは、視認性を最優先に設計されている。高いコントラストを持つ白地に黒の数字は、様々な照明条件下においても明瞭な判読を可能とする。フラップの表面には反射を抑える加工が施され、どの角度から見ても時刻を正確に読み取ることができる。この実用性への誠実な姿勢こそが、チフラ3を単なる装飾品ではなく、真に機能する道具として位置づけている。

エピソード

ソラリ社との協働

ソラリ・ディ・ウーディネは、1725年にイタリア北東部フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の山村ペザリイスで創業した時計製造会社である。アルプスの麓に位置するこの地域は、古くから時計職人の里として知られ、ソラリ家は代々その伝統を継承してきた。20世紀に入り、同社は公共施設向けの大型時計や情報表示システムの分野で革新的な技術を開発し、世界中の空港や駅にその製品を納入するに至った。ジーノ・ヴァッレとの出会いは1950年代に遡り、この協働関係からチフラ・シリーズをはじめとする数々の名作が誕生することとなる。

産業技術の家庭への移植

チフラ3の開発において最も困難であったのは、空港の巨大な情報表示板に用いられていた技術を、卓上サイズへと縮小することであった。フラップの精密な動作を保ちながら、静粛性と耐久性を両立させるために、ヴァッレとソラリ社の技術者たちは幾度もの試作を重ねた。最終的に完成した製品は、産業用機器の堅牢性と家庭用品としての繊細さを兼ね備えた、類例のない存在となった。

映画と文化における存在感

チフラ3は、その発売以来、映画やテレビドラマにおいて時代を象徴する小道具として繰り返し登場してきた。1970年代から1980年代にかけての空港を舞台とした作品では、この時計の存在が近代的な雰囲気を演出する重要な要素となった。また、2010年代以降のレトロモダン・インテリアの流行においても、チフラ3は1960年代の楽観主義と技術への信頼を象徴するアイコンとして再評価されている。

評価

チフラ3は、発表から半世紀以上を経た現在においても、プロダクトデザインの教科書的存在として引用され続けている。その評価の根幹にあるのは、技術と美学の高度な融合である。スプリットフラップという本質的にはメカニカルな機構を、視覚的にも聴覚的にも豊かな体験へと昇華させた点において、チフラ3は単なる時計を超えた文化的人工物としての地位を確立した。

デザイン史家たちは、チフラ3をイタリアン・ラインと呼ばれる1960年代イタリアデザインの美学を代表する作品として位置づけている。曲線と直線の均衡、機能と形態の一致、素材の誠実な使用といった原則が、この小さな時計の中に凝縮されている。また、アナログとデジタルの境界に位置する表示方式は、情報技術の発展を先取りするものであったとも評される。

コレクターズ・マーケットにおいて、オリジナルのチフラ3は高い価値を維持しており、特に初期の製造ロットや希少なカラーバリエーションは、デザイン愛好家の間で珍重されている。その普遍的な魅力は、ソラリ社(現ソラリ・リネアデザイン)による継続的な生産を可能とし、時代を超えて新たな世代のユーザーを獲得し続けている。

受賞歴・収蔵

コンパッソ・ドーロ

ジーノ・ヴァッレは、ソラリ社との協働によるフリップ式時計・表示システムのデザインにより、イタリアの最も権威あるデザイン賞であるコンパッソ・ドーロを受賞している。この賞は1954年に創設され、イタリアン・デザインの卓越性を世界に示す指標として機能してきた。ヴァッレの受賞は、産業デザインにおける技術と美学の統合という課題に対する、模範的な回答として評価されたものである。

美術館収蔵

チフラ3は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されており、20世紀デザインの重要作品として展示されている。このほか、ミラノのトリエンナーレ・デザイン・ミュージアム、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ミュンヘンのディ・ノイエ・ザムルング(新コレクション)など、世界各地の主要なデザインミュージアムがチフラ3をそのコレクションに加えている。これらの収蔵は、この時計が持つデザイン史上の意義を国際的に証明するものである。

デザイナーについて

ジーノ・ヴァッレ(Gino Valle, 1923-2003)は、イタリアのウーディネに生まれた建築家・インダストリアルデザイナーである。ヴェネツィア建築大学で学んだ後、父プロヴィーノ・ヴァッレが設立した建築事務所を継承し、建築とプロダクトデザインの両分野で活動を展開した。

建築家としてのヴァッレは、ウーディネ市庁舎、ザヌッシ社本社ビル、イタリア各地の工場建築などを手がけ、イタリア合理主義建築の重要な担い手として評価されている。その建築作品は、地域の文脈への敏感な配慮と、近代技術の誠実な表現を特徴としている。

プロダクトデザイナーとしては、ソラリ社との長期にわたる協働が最も重要な業績である。チフラ・シリーズに代表される時計デザインに加え、空港や鉄道駅の情報表示システムのデザインを手がけ、公共空間における情報伝達の視覚言語を確立した。ヴァッレのデザインは、技術的必然性から出発しながらも、それを超えた詩的な質を獲得している点において、同時代のデザイナーたちとは一線を画している。

基本情報

製品名 Cifra 3(チフラ3)
デザイナー ジーノ・ヴァッレ(Gino Valle)
デザイン年 1966年
メーカー ソラリ・ディ・ウーディネ(Solari di Udine)
製品カテゴリー 卓上時計
表示方式 スプリットフラップ・ディスプレイ(フリップ式)
素材 ABS樹脂、金属部品
電源 AC電源
主な収蔵先 ニューヨーク近代美術館(MoMA)、トリエンナーレ・デザイン・ミュージアム 他
現行メーカー ソラリ・リネアデザイン(Solari Lineadesign)