サヤ チェア(Saya Chair)は、スペイン・バルセロナを拠点に活動するデザインスタジオ「リエボレ・アルテール・モリーナ(Lievore Altherr Molina)」が、イタリアの家具ブランド「アルペール(Arper)」のために2012年にデザインした木製チェアである。日本語の「鞘(さや)」を名に冠する本作は、刀身を包み込む鞘のごとく、使い手を優しく包容する造形美を追求した傑作として知られる。

流麗な曲線と温かみのある木の質感が織りなす大胆かつ印象的なシルエットは、発表と同時に国際的な称賛を集め、2013年にはレッドドット・デザイン賞の最高峰「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞。住宅からコントラクト市場まで幅広い空間に調和する普遍的な美しさを備え、現代チェアデザインの到達点として高く評価されている。

特徴・コンセプト

デザインフィロソフィー

リエボレ・アルテール・モリーナは、サヤ チェアの設計にあたり「家(ホーム)」をインスピレーションの源泉とした。彼らにとって家とは、温かみと生命感を喚起する場所である。その本質を形にするために選ばれた素材が木材であった。木という有機的な素材が持つ固有の温もりは、空間に生命を吹き込み、使い手の心に安らぎをもたらす。

デザイナーたちは小さな紙の模型を幾度となく折り曲げながら、形態の可能性を探求した。その過程で生まれた背もたれの形状は、あたかも抱擁を想起させる包容力を備えている。彼らはこの椅子について、スペイン語で「que tiene alma(魂がある)」と表現している。それは優雅な人物や生き物のように、見る者の心を動かす何かを宿しているという意味である。

構造と素材

シェルには曲げ合板技術が採用され、連続的で流動的、かつ軽量な表面を実現している。この技術により、木材の温かみを保ちながらも、構造的な強度と優美な曲線を両立させることに成功した。素材にはオーク材が使用され、チーク仕上げやナチュラルステイン仕上げなど、多彩なバリエーションが用意されている。

カラーステインには、白、黒、オーカー、そして三種類の赤が展開され、空間のコンセプトに応じた柔軟な組み合わせを可能としている。ベースは木製4本脚、クロームスチール製4本脚、スレッドベースから選択でき、クロームスチール版はスタッキングにも対応している。

バリエーション

サヤ・コレクションはチェアに留まらず、スツール(座面高65cmおよび75cm)やミニバージョン(子供用)へと展開されている。シートクッションを追加することも可能で、ファブリック、レザー、フェイクレザーから選択できる。また、シェル全体を張り地で覆ったフルアップホルスタリー仕様も用意されており、より高い快適性を求める空間にも対応する。

エピソード

「サヤ」という命名には、日本文化への敬意と、東西の美意識の融合という意図が込められている。刀を守り、その美しさを際立たせる鞘のように、この椅子もまた使用者を包み込み、空間に独自の署名を刻む存在として構想された。アルペールの公式説明においても、サヤは「マーク、ジェスチャー、グラフィックサイン」として定義され、空間を仕上げる署名のような存在と位置づけられている。

リエボレ・アルテール・モリーナとアルペールの協働は1999年に始まり、カティファ、デューナ、リーフといった数々の名作を生み出してきた。サヤ チェアはその協働関係の成熟期に発表された作品であり、両者の設計思想が高度に結実した結晶といえる。デザイナーたちは、この椅子が常に家の温かみを想起させる存在であることを願っている。

発表翌年の2013年には、スレッドベース版やスツール版、子供用のミニ版が追加され、コレクションとしての幅を広げた。クヴァドラ社のファブリックによる張り地オプションも加わり、コントラクト市場での汎用性がさらに高まった。

評価

サヤ チェアは、そのデザインの卓越性により、発表直後から国際的なデザイン賞を次々と獲得した。2013年にはドイツのレッドドット・デザイン賞において、最高栄誉である「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞。同賞において本カテゴリーに選出されたのはわずか58作品のみであり、サヤ チェアの設計品質の高さを如実に物語っている。

同年、イタリアのADIデザイン・インデックス2013にリビング部門で選出され、翌2014年にはドイツのインテリア・イノベーション・アワードをジュノ・コレクションとともに受賞した。これらの栄誉は、サヤ チェアが単なる美しい椅子ではなく、機能性、素材選定、製造技術、そして空間との調和において総合的な卓越性を備えていることの証左である。

建築家やインテリアデザイナーからの支持も厚く、住宅のダイニングルームから、オフィス、ホスピタリティ施設、教育機関に至るまで、世界中の多様なプロジェクトで採用されている。その普遍的な造形美は、時代や流行を超えて愛され続ける古典となりつつある。

デザイナーについて

リエボレ・アルテール・モリーナは、1991年にバルセロナで設立されたデザインスタジオである。アルベルト・リエボレ(1948年ブエノスアイレス生まれ)、ジャネット・アルテール(1965年ハイデルベルク生まれ)、マネル・モリーナの三名により構成され、プロダクトデザイン、インテリアデザイン、パッケージデザインの分野で国際的な評価を確立している。

彼らのデザインアプローチは、対話から始まる。デザインとは自己実現ではなく、コミュニケーションであるという信条のもと、調和とバランスという価値観をデザインプロセス全体に浸透させている。彼らが生み出す製品は、単なるスタイルの表出ではなく、多層的な意味を単一の形態に凝縮した総合芸術である。

1999年よりアルペールとの協働を開始し、カティファ、デューナ、リーフ、そしてサヤといった同社を代表するコレクションを手がけてきた。1999年にはスペイン国家デザイン賞を受賞し、スペイン国内外の大学で後進の指導にも尽力している。2016年以降、リエボレとアルテールは新たな活動形態へと移行し、アルペール、アンデュー・ワールド、ヴィビア、トリビューなど国際的なブランドとの協働を継続している。

基本情報

製品名 サヤ チェア(Saya Chair)
デザイナー リエボレ・アルテール・モリーナ(Lievore Altherr Molina)
メーカー アルペール(Arper)
発表年 2012年
原産国 イタリア
素材 曲げ合板(オーク材)、クロームスチール
カラー ナチュラル、チーク、ホワイト、ブラック、オーカー、レッド(3色調)
ベースオプション 4本脚(木製/クロームスチール)、スレッドベース
寸法 W530 × D535 × H760mm(座面高430mm)
受賞歴 Red Dot: Best of the Best 2013、ADI Design Index 2013、Interior Innovation Award 2014