Design House Stockholm(デザインハウス ストックホルム)

Design House Stockholm(デザインハウス ストックホルム)は、1992年にアンダース・フェルディグによってスウェーデン・ストックホルムで設立されたデザインブランドです。 従来のデザインメーカーとは一線を画し、自らを「デザインの出版社」と位置づけ、出版社が作家と協働するように、独立したデザイナーたちのアイデアを発掘し、プロダクトとして世に送り出すという独自のビジネスモデルを確立しました。

1997年にフィンランドのデザイナー、ハッリ・コスキネンによるBlock Lamp(ブロックランプ)でコレクションをスタートして以来、 世界中のデザイン愛好家から支持を集め、現在では60名以上の独立デザイナーと協働しています。 その製品はニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに収蔵されるなど、 スカンジナビアンデザインの代表的存在として国際的な評価を確立しています。

ブランドの特徴・コンセプト

「デザインの出版社」という哲学

Design House Stockholmは、一般的なデザイン製造会社とは異なるアプローチを採用しています。 創業者のアンダース・フェルディグは「私たちはプロダクト・ドロッパーであり、ネーム・ドロッパーではない」と述べ、 デザイナーの名声ではなく、製品そのものの革新性と品質を重視する姿勢を明確にしています。

出版社が作家に特定のテーマで執筆を依頼するのではなく、作家の持ち込み原稿を審査して出版するように、 Design House Stockholmでは世界中のデザイナーからアイデアを募り、 そのジャンルに新しい何かを加える製品、個性と特徴を備えた製品を選び出し、開発・生産へと進めます。 この独自のシステムにより、無名のデザイナーの斬新なアイデアと、著名デザイナーの洗練された提案が平等に評価される環境が実現しています。

スカンジナビアンデザインの再定義

Design House Stockholmにおける「スカンジナビアン」という言葉は、地理的・国籍的な概念ではなく、 哲学的・美学的な視点を指しています。 機能性と美しさの融合、時代を超越する普遍的な魅力、そして一時的なトレンドに左右されない品質の追求— これらの価値観を共有するデザイナーであれば、国籍を問わずその作品を歓迎します。

その結果、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドといった北欧諸国のデザイナーはもちろん、 日本をはじめとする世界各国の才能が集まり、真の意味での国際的なスカンジナビアンデザインのコレクションが形成されています。

ブランドヒストリー

創業前史と創業者のルーツ

創業者アンダース・フェルディグは、スウェーデン南部スモーランド地方のボーダで育ちました。 幼少期から名付け親であり師でもあったエリック・ローゼンから大きな影響を受けました。 ローゼンはボーダ・ガラス工房のディレクターとして、若き芸術家エリック・ホグルンド(1932-1998)を招聘し、 革新的なアートガラスで世界的な注目を集めた人物です。 のちにローゼンが手がけたコスタ、ボーダ、オーフォースの3つのガラス工房の統合は、 世界的に有名なコスタ・ボーダ(Kosta Boda)ブランドを生み出しました。

フェルディグ自身もホガネス・ケラミック、ボーダ・ノヴァ、ロールストランドなどでデザイナーとして活躍した後、 コスタ・ボーダ、ボーダ・ノヴァ、小売チェーンDukaで経営職を歴任。 こうしたスウェーデンデザイン界の第一線での経験が、 デザインマネジメントに関する深い知見を培い、1992年の創業へとつながりました。

1992年:創業

Design House Stockholmは当初、他ブランドのためのクリエイティブな製品開発会社として出発しました。 フェルディグはボーダ・ノヴァやホガネスでの経験で培った独立デザイナーとのネットワークを基盤に、 新しいビジネスモデルの構築を開始します。

1997年:Block Lampの衝撃と世界的成功

1997年、自社ブランドのプロダクトコレクションを立ち上げ、 その第一弾として発表されたのが、当時無名のデザイン学生だったハッリ・コスキネンによるBlock Lampでした。 ヘルシンキ芸術デザイン大学でのワークショップ課題から生まれたこのランプは、 手吹きガラスの中に電球を「氷漬け」にしたようなシンプルかつ詩的なデザインで、瞬く間に世界的な成功を収めました。

2000年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに収蔵され、 Excellent Swedish Design賞(1998年)、Design Plus Award(1999年)、 コンパッソ・ドーロ賞(2004年)など数々の栄誉に輝いています。 Block Lampは発売から30年近くを経た現在も、ブランドを代表するベストセラーであり続けています。

2000年代以降:コレクションの拡充

Block Lampの成功を機に、Design House Stockholmは家具、照明、テキスタイル、テーブルウェア、ファッションアイテムへとコレクションを拡大。 2009年にはH&Mのデザイン責任者マルガレータ・ファン・デン・ボッシュが取締役に就任するなど、 ファッションとライフスタイルの融合も進めています。

2013年には、スウェーデンを代表する絵本作家エルサ・ベスコフの挿絵を用いたテーブルウェアコレクションを、 ボニエ・グループとの協業で発表。 2018年には世界的に愛される児童文学作家アストリッド・リンドグレーンの名言を刻んだマグカップシリーズを アストリッド・リンドグレーンABとの協力で展開するなど、 スウェーデンの文化的遺産とデザインを融合させた独自の展開を続けています。

2024年:Lisa Larson Birds 1967コレクションの復刻

2024年、スウェーデンを代表する陶芸家リサ・ラーソン(1931-2024)が1967年に制作し、 長年アトリエに眠っていた幻の作品「Birds 1967」シリーズの復刻プロジェクトが実現。 1960年代のフラワーパワーの精神とメキシカンフォークアートからインスピレーションを得た鮮やかな彩色の鳥たちは、 新たな世代のデザイン愛好家の心を捉えています。

主なインテリアとその特徴・エピソード

Block Lamp(ブロックランプ)

デザイナー:ハッリ・コスキネン(Harri Koskinen)、1996年デザイン

Design House Stockholmを象徴するアイコニックな照明。 ハンドキャストガラスの塊の中に電球を封じ込めたかのような、 「氷の中に閉じ込められた光」という詩的なコンセプトが特徴です。

ヘルシンキ芸術デザイン大学在学中のワークショップで、結婚式のギフトをデザインする課題から生まれました。 当初コスキネンはスナップグラスをガラスで包むことを試みましたが、 「デザインプロセスで常に起こる無意識の還元」により、最もシンプルな電球という形にたどり着きました。

冷たく重いガラスと暖かな光、彫刻と機能—相反する要素の絶妙な均衡が、 見る者の想像力を刺激し続けています。 2000年にMoMAパーマネントコレクション入り、2004年にはコンパッソ・ドーロ賞を受賞。 現在はLEDバージョンも展開され、30年近くにわたりベストセラーの地位を維持しています。

Knot Cushion(ノットクッション)

デザイナー:ラグンヘイズル・オスプ・シグルザルドッティル(Ragnheiður Ösp Sigurðardóttir)、2011年デザイン

アイスランド出身のデザイナーによる、ニット素材のチューブを結んで作られた彫刻的なクッション。 テディベアの脚を手編みではなく機械編みで作ろうとした実験から偶然生まれた、 まさにデザインの意外性を体現するプロダクトです。

デザイナー自身がアイスランドのガールスカウトで習得した結び方の技術と、 1年生から必修だったという編み物の伝統が融合しています。 「最初に見たとき、それが何かわからない—そこに想像力の余地がある」というデザイナーの言葉通り、 ポップアートの影響を受けた遊び心と機能性の両立が魅力です。 MoMA Design Storeでも取り扱われ、XLサイズのプフ(座面)も展開。 クッション、瞑想用具、子供の遊び道具など、多様な用途で愛されています。

Step Stepladder(ステップ脚立)

デザイナー:カール・マルムヴァル(Karl Malmvall)、2011年デザイン

「暗い物置に仕舞い込むのではなく、壁に飾れるほど美しい脚立」というコンセプトで生まれた傑作。 折りたたみ時の厚さわずか5cm、付属のフックで壁面に装飾品のように掛けておける実用性と美しさの融合が特徴です。

デザイナーのカール・マルムヴァルは、祖父が創業したカール・アンダーソン&サンズ家具工場で育ち、 カール・マルムステン・スクール、デンマークのオーフス建築大学で学んだ後、 IKEAのデザイン部門で20年以上にわたり活躍した経歴を持ちます。 当初フェルディグに見せたのは折りたたみ椅子のプロトタイプでしたが、 ブランド内での「クリエイティブ・マグネティズム」と呼ばれる対話を通じて、 壁に掛けられる脚立というアイデアへと昇華されました。

2011年にWallpaper誌およびスウェーデン版Elle Decorationで「今年の家具」に選出。 MoMA Design Storeでも販売される、デザインと実用性の見事な融合の一例です。

Pleece Collection(プリースコレクション)

デザイナー:マリアンヌ・アベルソン(Marianne Abelsson)、1997年デザイン

「ファッションは移ろう、スタイルだけが永遠」という哲学を体現するテキスタイルコレクション。 ポリエステル75%、ビスコース25%という独自ブレンドの素材に、 スウェーデン・ボロースの工場でプリーツ加工を施すことで、 他のフリース素材にはないボリューム感と柔らかさを実現しています。

1997年の発表以来、基本的なデザインはほとんど変わらず、 季節ごとにカラーバリエーションが加わる程度の進化を続けてきました。 ポンチョ、ジャケット、スカーフ、帽子など幅広いアイテムを展開し、 ニューヨークのMoMA Storeで15年以上にわたり販売されているロングセラーです。 男女問わず、室内外を問わず使える普遍的なデザインが支持されています。

Birds 1967(バーズ1967)

デザイナー:リサ・ラーソン(Lisa Larson)、1967年デザイン/2024年復刻

スウェーデンを代表する陶芸家リサ・ラーソンが、 1967年にアメリカ滞在中に制作した幻のコレクション。 サンフランシスコ近郊のサウサリートに半年間滞在し、 カリフォルニア大学バークレー校でピーター・ヴォルコスに師事していた時期に、 近隣のメキシコ民芸品に触発されて生まれました。

陶芸の設備がない環境で、退職した木工職人に木型を作ってもらい、 スウェーデンでは入手困難だった鮮やかなグワッシュ絵具で一羽一羽手描きしたという逸話が残っています。 長年アトリエに眠っていたこの「宝物」を、フェルディグがスタジオ訪問時に発見。 「フラワーパワー時代の平和への祈りのようだ」と感銘を受け、復刻を決意しました。 ビーチ材の無垢材を用い、当時の色彩とパターンを忠実に再現した限定生産品として展開されています。

Elsa Beskow Collection(エルサ・ベスコフコレクション)

デザイナー:カタリナ・キッペル(Catharina Kippel)、2013年発表

スウェーデンの国民的絵本作家エルサ・ベスコフ(1874-1953)の挿絵を用いたテーブルウェアシリーズ。 Design House Stockholm創業当初から協働してきたデザイナー、カタリナ・キッペルが、 ベスコフの作品世界を現代のテーブルウェアとして再解釈しました。

「もりのこびとたち」「おひさまのたまご」「ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん」など、 100年以上にわたり愛され続けるベスコフの絵本から、 人々と自然を描いた温かみのあるイラストレーションを引用。 マグカップ、ボウル、トレイなどのアイテムで展開され、 子供から大人まで幅広い世代に北欧の童話世界への郷愁を呼び起こします。 ボニエ・グループとの協業で実現したこのコレクションは、 スウェーデンの文化的遺産をデザインとして継承する取り組みの好例です。

Astrid Lindgren Collection(アストリッド・リンドグレーンコレクション)

2018年発表

世界的に愛される児童文学作家アストリッド・リンドグレーン(1907-2002)の名言を刻んだマグカップシリーズ。 アストリッド・リンドグレーンABとの協業により実現した、文学とデザインの融合プロジェクトです。

「長くつ下のピッピ」「やかまし村の子どもたち」「エーミルの愚行録」など、 世代を超えて読み継がれる作品からの引用と、作家自身の言葉が、 カラフルなストーンウェアのマグカップに彫り込まれています。 印刷ではなく彫刻という手法を選んだのは、 リンドグレーンの言葉が決して色褪せることなく、 私たちの心に永遠に刻まれていることを象徴するため。 マグカップの底には各引用の登場人物が描かれ、飲み終わった時の小さな驚きを演出します。 スウェーデン語版と英語版があり、世界中のファンに愛されています。

主なデザイナー

ハッリ・コスキネン(Harri Koskinen)

1970年フィンランド・カルストゥラ生まれ。 現代フィンランドを代表するデザイナーとして国際的に活躍しています。 フィンランドのデザイン伝統に深く根ざしながら、簡潔さと質実さを追求するデザイン言語が特徴。 家具、照明、時計、スピーカー、テキスタイル、パッケージ、建築まで幅広い分野で活動し、 アルテック、イッセイ・ミヤケ、無印良品、ゲネレック、パナソニック、セイコーなど多数のブランドと協働。 2004年コンパッソ・ドーロ賞、2009年トルステン&ワンヤ・セーデルベリ賞など受賞多数。 Block Lampは今なお彼の最も著名な作品であり続けています。

クラーソン・コイヴィスト・ルーネ(Claesson Koivisto Rune)

1995年にストックホルムで設立された建築・デザインスタジオ。 マルテン・クラーソン、エーロ・コイヴィスト、オーラ・ルーネの3名で構成。 コンストファック芸術工芸デザイン大学の同級生として出会い、 スウェーデンの事務所として初めてヴェネチア建築ビエンナーレ国際部門に出展(2004年)。 京都の「スフェラ・ビルディング」、ストックホルムの「ノビス・ホテル」など建築作品から、 カッペリーニ、リビング・ディヴァーニなど国際的ブランドの家具デザインまで、 「マルチディシプリナリー」という言葉がふさわしい幅広い活動を展開しています。 2015年ブルーノ・マットソン賞、2020年王室ウジェーヌ王子メダル受賞。

リサ・ラーソン(Lisa Larson)

1931年スウェーデン・ハルムスタッド生まれ、2024年没。 70年以上にわたりスウェーデンのデザイン界を牽引した伝説的陶芸家。 1954年にHDK(ヨーテボリ工芸デザイン大学)卒業後、 スティグ・リンドベリのもとグスタフスベリ製陶所で活躍。 猫、政治家、天使など約200種類のフィギュリンを生み出し、 スウェーデンの家庭に不可欠な存在となりました。 1980年からフリーランスとして活動し、日本では1981年に初の個展を開催して以来、 特に高い人気を誇っています。 Design House StockholmからはBirds 1967コレクションとYogaシリーズが展開されています。

カタリナ・キッペル(Catharina Kippel)

Design House Stockholm創業当初から協働してきたデザイナー。 スウェーデンで陶芸とガラス吹きを学び、日本で古代の焼成技法を習得。 コンストファック(ストックホルム芸術工芸デザイン大学)で修士号を取得しています。 エルサ・ベスコフコレクションをはじめとするベストセラーのテーブルウェアを数多く手がけ、 ブランドの食器カテゴリーを確立した重要なデザイナーです。

カール・マルムヴァル(Karl Malmvall)

スウェーデン・フスクヴァーナ出身。 祖父が創業したカール・アンダーソン&サンズ家具工場で育ち、 カール・マルムステン・スクール、デンマーク・オーフス建築大学で学んだ後、 IKEAの共同創業者イヴァル・カンプラードの側近ギリス・ルンドグレンに見出され、 スイスとインドネシア・ジャカルタのIKEAデザイン部門で20年以上活躍。 製品の使いやすさと製造適性の両立という、多くのデザイナーが見落としがちな実践的ディテールへの関心が特徴。 Step Stepladderで2011年のWallpaper誌およびスウェーデン版Elle Decoration「今年の家具」を受賞。

マリアンヌ・アベルソン(Marianne Abelsson)

テキスタイルデザイナー。ボロース・テキスタイル・スクールで学び、 長年にわたりデザイナーとして自身のビジネスを運営してきました。 1997年からDesign House Stockholmと協働を開始し、 Pleeceコレクション、セラミック時計「Tid」、キャンドルスタンド「Table Light」、 カッティングボードシリーズ、プリーツフェルトのランナーとピローケースなどを手がけています。 アルメダールス、ボロース・ヴェフヴェリなど他社との協業も多数。

ラグンヘイズル・オスプ・シグルザルドッティル(Ragnheiður Ösp Sigurðardóttir)

1981年アイスランド生まれ。 看板職人だった祖父の影響で幼少期から創作活動に親しみ、 アイスランド芸術アカデミー、米国クランブルック・アート・アカデミーで学んだ後、 レイキャビクで自身のスタジオ「Umemi」を主宰。 ユニークで型破りなものを愛するデザイン哲学が特徴で、 Knotクッションは彼女の代表作として世界中で親しまれています。 イームズ夫妻を敬愛し、「機能と美学の融合」を追求しています。

基本情報

ブランド名 Design House Stockholm(デザインハウス ストックホルム)
設立 1992年
創業者 アンダース・フェルディグ(Anders Färdig)
本社所在地 Götgatan 14, 118 46 Stockholm, Sweden(スウェーデン・ストックホルム)
事業内容 家具、照明、テーブルウェア、テキスタイル、ファッションアイテムの企画・開発・販売
協働デザイナー数 60名以上
主な取り扱い店舗 MoMA Design Store(ニューヨーク)、コンランショップ(ロンドン・パリ)、ノルディスカ・コンパニエット(ストックホルム・ヨーテボリ)、セルフリッジズ(ロンドン)ほか世界各地の有名デザインショップ
ミュージアムコレクション ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ストックホルム国立美術館(Nationalmuseum)
公式サイト https://designhousestockholm.com/