イームズ オットマン 671 ─ ラウンジングの完成形

1956年、アメリカンミッドセンチュリーデザインの黄金期に誕生したイームズ オットマン(モデル671)は、同時に発表されたラウンジチェア(モデル670)とともに、20世紀家具デザイン史における最も重要な作品のひとつとして、今なお世界中で愛され続けている。チャールズ&レイ・イームズ夫妻が追求した「使い込まれた一塁手のミットのような温かさと包容力」という理想は、このオットマンにおいても見事に結実している。単なる足置きという機能を超えて、極上のくつろぎを演出する独立した家具として、その存在感は格別である。

デザインの系譜と開発背景

イームズ オットマン 671の誕生は、1940年代初頭にまで遡る長い開発の歴史を持つ。チャールズ・イームズがエーロ・サーリネンと共同で参加した1940年のニューヨーク近代美術館(MoMA)主催「Organic Design in Home Furnishings」コンペティションにおいて、すでにその原型となるアイデアが存在していた。その後、1945年から46年にかけて、チャールズとレイは成型合板技術を駆使して、シートを複数のセクションに分割するというプロトタイプを制作。最終的に製品化されるまでに、実に16年という歳月を要したのである。

興味深いことに、このオットマンはラウンジチェアと同じ構造原理を持ちながら、独立した家具として購入することも可能であった。しかしながら、ハーマンミラー社は常にセットでの購入を推奨し、完璧な調和を保つことを重視していた。初期の製造においては、オットマンの脚部にはゴム製のスライド式グライドが採用され、後にネジ式へと変更されるなど、細部にわたる改良が続けられた。これらの変遷は、イームズ夫妻とハーマンミラー社の妥協なき品質追求の証左である。

革新的な構造と製造技術

イームズ オットマン 671の最大の特徴は、その革新的な成型合板(プライウッド)技術にある。座面は7層の薄い木材を熱と圧力で成型し、美しい三次元曲線を実現している。この技術は、第二次世界大戦中に負傷兵用の副木製造で培われた経験が基礎となっており、軍事技術の平和利用という側面も持つ。座面のシェルはラウンジチェアの座面と完全に同一の形状を持ち、製造工程の合理化と品質の統一を実現している。

クッション部分には、当時としては贅沢な羽毛とダウンが使用され、均一な発泡ゴムが主流だったモダンデザインの常識を覆した。各クッションは個別にレザーで包まれ、取り外し可能な設計となっている。さらに、座面クッションはリバーシブル仕様で、摩耗や圧縮による劣化を防ぐため、定期的に裏返して使用することが可能である。驚くべきことに、ラウンジチェアの座面クッションとオットマンのクッションは互換性を持ち、必要に応じて交換することも可能という、徹底した合理性を体現している。

素材の変遷と環境への配慮

発売当初から1990年代初頭まで、オットマンの外装には希少なブラジリアンローズウッドが使用されていた。しかし、森林資源保護の観点から、ハーマンミラー社は1991年にローズウッドの使用を中止。現在では、FSC(森林管理協議会)認証を受けた持続可能な森林から調達されるサントスパリサンダー、ウォールナット、チェリー、ホワイトアッシュなど、多様な木材オプションが用意されている。2006年の50周年記念モデルでは、特別に調達された持続可能なパリサンダーローズウッドが使用され、環境への配慮とデザインの伝統を両立させた。

レザーについても、最高級のスコットランド産「Best Auch」レザーから、近年では竹繊維を使用したサステナブルな素材まで、時代のニーズに応じた選択肢が提供されている。これらの素材の変遷は、単なる代替ではなく、イームズ夫妻の「良いデザインは時代とともに進化する」という哲学の具現化といえよう。

文化的影響とアイコンとしての地位

1956年、NBCテレビネットワークの番組「ホーム」において、司会者アーリン・フランシスのもとでチャールズとレイ自らが出演し、このオットマンとラウンジチェアを紹介したことで、一夜にしてアメリカ中の注目を集めた。完成第一号が映画監督ビリー・ワイルダーの誕生日プレゼントとして贈られたというエピソードは、このデザインが持つ特別な価値を物語っている。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)、シカゴ美術館など、世界の主要美術館の永久収蔵品となっているほか、数多くの映画やテレビドラマ、広告において、洗練されたライフスタイルの象徴として登場し続けている。特に、暖炉の前に置かれたイームズ ラウンジチェア&オットマンの光景は、アメリカンドリームの視覚的表現として、世界中の人々の憧れとなった。『プレイボーイ』誌は1957年の記事で、「ネロ以来、これほどの贅沢な快適さを知る者はほとんどいない」と評し、その革命的な座り心地を絶賛している。

現代における評価と継承

発売から65年以上が経過した今日においても、イームズ オットマン 671は衰えることのない人気を保持している。1975年までに累計10万台を出荷し、現在も年間数千台が世界中で販売されている。2008年には、現代人の体格変化に対応した「トール(XL)バージョン」が開発され、オリジナルと同じプロポーションを保ちながら、より大きく深いサイズを実現した。

興味深いことに、このオットマンは世代を超えた家族の絆を象徴する存在ともなっている。退職する父親への贈り物として選ばれることが多く、「お疲れ様」と「ありがとう」の気持ちを形にする特別な存在として認識されている。また、その資産価値は極めて安定しており、適切なメンテナンスを施されたヴィンテージ品は、新品価格を上回ることも珍しくない。これは単なる家具ではなく、芸術作品としての評価が確立していることの証明である。

デザインの哲学と思想

イームズ オットマン 671に込められたデザイン哲学は、チャールズ&レイ・イームズ夫妻が追求した「最高の快適さを最も多くの人々へ」という理念の結晶である。19世紀のイギリスのクラブチェアという伝統的な家具を、20世紀のテクノロジーと感性で再解釈したこのデザインは、過去への敬意と未来への展望を同時に体現している。

チャールズが語った「良いデザインとは、制約の中で最善の解決策を見出すこと」という言葉通り、標準化された部品による大量生産という制約の中で、手工芸品のような温もりと品質を実現している。オットマンとラウンジチェアで共通の成型合板パーツを使用することで、製造コストを抑えながら、一貫した品質と美しさを保証する。この合理性と芸術性の融合こそが、イームズデザインの真髄といえよう。

人間工学と快適性の追求

オットマンの高さ17.25インチ(約44cm)という寸法は、ラウンジチェアに座った際の理想的な脚の角度を実現するために、綿密な人間工学的研究の末に決定された。座面の緩やかな曲線は、ふくらはぎから踵までを自然に支え、長時間の使用でも疲労を感じさせない。この絶妙な角度と高さの設定により、読書、音楽鑑賞、瞑想など、あらゆるリラックスシーンに対応する万能性を獲得している。

さらに、オットマンは単独でも使用可能な設計となっており、低いスツールとして、あるいは来客時の補助席として活用できる。この多機能性は、限られた居住空間を最大限に活用したいという現代のニーズにも完璧に応えている。まさに「Form follows function(形態は機能に従う)」という近代デザインの理念を、最も洗練された形で表現した傑作である。

基本情報

製品名 イームズ オットマン(Eames Ottoman)
モデル番号 671
デザイナー チャールズ&レイ・イームズ(Charles & Ray Eames)
製造元 ハーマンミラー(Herman Miller)/ ヴィトラ(Vitra)※欧州
発表年 1956年
サイズ 幅660mm × 奥行546mm × 高さ438mm(クラシック)
幅660mm × 奥行560mm × 高さ450mm(トール)
重量 約13kg
主要素材 成型合板(7層)、レザーまたはファブリック、羽毛・ダウン充填材、アルミダイキャストベース
木材オプション ウォールナット、サントスパリサンダー、チェリー、ホワイトアッシュ、エボナイズド
価格帯 正規品:50万円〜70万円(セット価格:90万円〜130万円)
保証期間 12年間(ハーマンミラー正規品)
受賞歴 ニューヨーク近代美術館永久収蔵(1960年)
シカゴ美術館永久収蔵
TIME誌「20世紀最高のデザイン」選出
関連製品 イームズ ラウンジチェア(モデル670)